
渡辺一樹選手インタビュー②〜鈴鹿8時間耐久ロードレースについて〜
※はじめに:このインタビューの動画をYouTubeにアップしております。ぜひそちらもご覧ください!
渡辺一樹選手Twitter: https://twitter.com/kazuki__26
渡辺一樹選手instagram: https://www.instagram.com/kazuki__26
鈴鹿8耐公式サイト: https://www.suzukacircuit.jp/8tai/
こんにちは、Ami.Uです!
この記事は主に日本国内のレースでご活躍されているヨシムラスズキモチュールレーシングの渡辺一樹選手にインタビューさせていただいた内容を文字起こししたものです。
大変お忙しい中、このようなインタビューに快く応じてくださった渡辺一樹選手、マネージャー様、本当にありがとうございました。
このインタビューは
①全日本ロードレース選手権について
②鈴鹿8時間耐久ロードレースについて(今回)
③ヨシムラスズキモチュールレーシングについて
④渡辺一樹選手について
の4弾に分けて公開させていただきます。
今回はその第一弾、「鈴鹿8時間耐久ロードレースについて」。残念ながら今年は開催中止が発表されてしまった鈴鹿8耐の魅力や、楽しみ方を教えていただきました!今年は見に行くことができませんが、鈴鹿8耐がどのようなものかを知り、来年足を運ぶきっかけになってもらえたら嬉しいです。また、すでにテレビや現地で観戦したことがある方にも楽しんでいただける内容になっているはずです!ぜひ最後までお読みください!
1.鈴鹿8時間耐久ロードレースはどのようなレースなのですか?
世界耐久ロードレース選手権という、世界中のサーキットで耐久レース(注1)をして回るという選手権があり、その中には6時間、8時間、24時間といくつか種類があります。「ル・マン24時間」なんていう単語は多分聞いたことある方も多いと思います。今年はスケジュールが変則的になってしまいましたが、その中の一戦、最終戦として開催されるのが鈴鹿8時間耐久ロードレースです。
注1:舗装されたコースを数人のライダーで交代しながら決められた時間を走り、周回数を競うレース。
最終戦だからチャンピオンが決まることもあるのでしょうか?
そうですね、去年も最後の数分まで本当に緊張感がある中でチャンピオンと、レース自体での勝者が決まるという展開でした。当然世界タイトルが目の前で決まる瞬間が見られるっていうのはなかなかあることではないので、非常に面白いレースだと思います。
2.渡辺選手が考える鈴鹿8耐の魅力は何ですか?
やっぱり国内で一番大きな二輪レースイベントで、毎年10万人近い、ときに超えるような人数の観客が訪れるレースなのですが、その場にいる全員が同じ空気を共有している感じがあります。そう感じているのが僕だけだったら寂しいですが(笑)。本当にチェッカーの直前とか、チェッカーが出る瞬間とかっていうのは、全員勝ち負けなどといった勝負事の感覚よりも、同じ目標に向かっている感じが大きく、その空気感っていうのはすごく特別だと思います。なのでその場に居られると感動することは多いかなと思います。
正直ライダー的には毎年すっごく暑い時期にやるのでしんどいばっかりです。でもこの8時間だけでなく準備やテスト、当然そのバイクを作っているチームスタッフの労力といったものをずっと見ながらあの8時間に集中していく。そしてその上で結果が形になるというのは、辛いときもありますが、やり切った時の感動は非常に大きいですね。
8時間、観客側ももはや耐久ですが、面白いですよね。
本当に僕も毎年思うのですが、絶対見ている方が辛いんですよ。スタッフさんには出ずっぱりの人もいますが、僕らライダーは休憩できるんですよ。1時間走ったら帰ってきて、いろいろなケアをするし、水分も摂りたいように摂るし。ただ、お客さんって見ている人はずーっと見ているじゃないですか。日差しがずーっと出ている下で。向こうのほうが辛い思いをしていそうだな思う瞬間はありますね。それこそ「西コース」といわれる、ずーっと遠くまで歩いていかないと行けないような観戦場所もあるのですが、よくここまでこの暑さの中行くなあ、と思います。でも本当に熱い気持ちを持って応援してくれている方が多いので、そういうところもやっぱり、現場での空気感が一体化していく一つの要素だなあとは思います。
3.今年の8耐は11月の開催となります(注2)が、何が変わると予想されますか?
ヨシムラの監督ようへいさん(注3)や色々なチームの人とかと話をするのですが、まずやっぱりスピードは上がっていくだろうといわれています。去年ちょっとぶっ飛んだタイムが出ています(注4)が、例年トップ争いのレース中のラップタイムは2分8秒台、たまに7秒台、タイヤが垂れてくると9秒台に落ちてくるチームもある、というようなペースですが、それが涼しくなるので。ちょうど全日本ロードレース選手権の最終戦が毎年その時期なのですが、毎年コースレコードが更新されていっていて、去年に至っては2分3秒半ばくらいというラップレコードが出ています(注5)。今8耐でいうと去年2分5秒台が出ています(注6)が、そこからさらに2秒近く予選のタイムで言うと上がるかもしれないっていうと、ちょっと想定できる範囲を超えてくる部分もあると思います。ただ、ペースが上がる分燃費が悪くなるかもしれません。また、時期としてはちょっと涼しくなるのでタイヤも柔らかいタイヤを使うかもしれないのですが、柔らかいタイヤで28周とかしたことがありません。そういった部分でもデータが、それこそヨシムラに至っては40年以上積み上げてきたデータというのが、なかなか参考にできない部分が増えるので、どうなるのかっていうのが予想しにくいです。でも逆に今年はそれが面白さになると思います。
注2:新型コロナウイルス感染症の流行の影響で当初7月末に予定されていた鈴鹿8耐は延期になり、11月初めに開催されることになっていました。そしてその後、海外選手の渡航困難などを理由に開催中止が決定しました。インタビュー時はまだ中止の発表はされていませんでした。
注3:加藤陽平監督。ヨシムラの創業者・故吉村秀雄氏の孫。
注4:2'06.805。2019年にカワサキのジョナサン・レイ選手が記録。
注5:2'03.592。2019年にホンダの高橋巧選手が記録。
注6:2'05.922。2019年にヤマハの中須賀克行選手が記録。
予想がつかないからこそ面白くなりそうですね。
そうですね。ただ、確実に最速の鈴鹿8耐にはなると思います。
周回数も過去最高が出る可能性がありますか?
可能性はあると思います。8時間の間セーフティカーが出ないとか、雨が降らないとかっていう前提での話にはなりますが、それでも可能性は高いと思います。
4.11月開催について思うことや楽しみなこと、不安なことなどはありますか?
毎年僕自身が鈴鹿8耐で楽しみにしているのがトップ10トライアル(注7)です。耐久レースはチームスポーツの側面が非常に大きいのですが、その中で唯一、ライダーのエゴを前面に出した一周ができるのがトップ10トライアルなので。ちょっとここ数年天気などの事情があってやれていませんが。今年もすでにトップ10トライアルが開催されないことが決定していて、とても残念です。ライダー側からしたら全部を出し切る2分数秒で、なかなかそういう場面は他にありません。いわゆるスプリントレースでも予選アタックというものは存在していますが、そうは言っても15分20分くらいの時間がある中でどう配分してタイムを出すかです。トップ10トライアルでは1周しかできない、1周でタイムを出さなければいけないっていう緊張感みたいなものがあり、楽しみにしているのですが、今年はないんですよね…残念です。
注7:公式予選の結果10位以内に入ったチームのうち2人ずつが、それぞれ単独で1周ずつタイムアタックをし、そのタイムによって予選の最終結果が決まる。誰にも邪魔されずに1周のタイムアタックができる。
そうは言っても計時予選という形にはなると思うので、最速タイムが何秒になるのか、というのは非常に楽しみですね。それこそ去年5秒台に突入して、この時期にこんなタイムが出るんだ、というのもありました。なので今年涼しい時期に来て、一番タイムが出るコンディションで世界チャンピオンが何秒を出すんだろうっていうところが楽しみです。まあでも不安な側面もありますが。とても到達できないようなタイムを出される可能性もあるので。それこそ2分2秒とかっていわれたら、いやどんな世界なんだろうなって正直思ってしまうので。でもそれも一つ楽しみな部分かな、とは思います。
逆に不安な面はありますか?
いやどうなっちゃうんだろう、っていう気持ちは正直ないです。基本ライダーがやることはどんな時期になっても変わらないので、やれることをやっていきます。でも多分海外から来るライダーはこの時期の鈴鹿を走り慣れていないと思います。その中で色々な不確定要素があったりもするので、そういうところのコントロールのようなこと、日本人ライダー側から「この時期ここに気をつけなければいけないよ」というようなアドバイスみたいなものはしていかなければいけないと思います。
5.灼熱の中長時間走り続けるのはどのような感じなのですか?
もう苦痛ですね(笑)。もうしんどいばっかりだなあ…。でも当然そのつもりで行っているので、どうしようもなくなるような場面というのはそんなにありませんが。サウナの中で延々トレーニングをしているような感じ、という表現が一番わかりやすいかなと思います。気温は暑くなると30度40度近くまでいくタイミングがあって、しかもその中でプラスアルファでエンジンというものを背負って走っているので、そこからの熱も半端じゃないんです。特に一番暑くなる午後1時2時くらいの時間帯に誰かの後ろを走っていると、前からの熱、上からの熱、地面からの照り返しの熱で正直生きた心地がしない瞬間があります。でもたまたまここ数年は天候のタイミングもあって割と涼しい耐久になっています。なので逆に今年なんか変に暑い時期にやらなくてよかったなと(笑)。やっぱり暑い8耐というものに対してブランクがあるので、また本当にピークの暑いときにやったときにはどんなふうになるんだろうなあ…。毎年夏が暑くなってきていて、35度を超える日も年々増えていっているので。今年に関しては11月の涼しい時期に8耐をやりますが、またこの騒動が収まって、その翌年とかに暑い8耐に戻ったときにどんな気持ちでいられるかっていうのは正直今年の8耐よりも不安が多いですね。そっちの方が僕的にはちょっと気持ちがげっそりしてしまうかもしれません。
キャメルバック(注8)の中の水がお湯になるという話をよく聞きますが…
ああもう瞬間でそうなります。ライダーによっては中の水を冷凍したりもします。キャメルバック自体の容量としては1Lありますが、背中のコブのスペースというのはそんなにないので、パンパンにしても800mlも入りません。僕もその張り感が嫌で大体500ml前後しか入れませんが、やっぱり1時間の中で500mlというと正直全然足りないんですよね。残りの5周というのが心理的に一番厳しくなるタイミングなのですが、その5周のうちに水を飲み切ってしまうとすごくしんどくなります。配分を間違えると、「それを頼りにして走ってきたのに」みたいな。過去に何回かやっていますが、辛いですね…。本当にカラッカラになってしまうので。
注8:ライダースーツの背中の部分に収納できる特殊な形の水筒のようなもの。そこから管を伸ばし、ヘルメットの中でも水分補給ができるようになっている。
倒れそうになったりすることもありますか?
帰ってきてフラフラっていうのは、初めて8耐に出た時はなりましたが、それ以降はそんなにないです。初めて8耐に出た当時は主に600ccのバイクで走っていたシーズンでした。その中で鈴鹿8耐だけ1000ccに乗るということで、車両に慣れていないし、8耐も初めてだし、ペース配分とかもろくに考えずにずっと全開で走っていたので。スプリント状態のまま1時間、2時間、3時間走っていたらそれはしんどいわな、という話で。ただ今は、手を抜いているわけではなく、しっかり100%を1時間の中で使い切ってくるという感覚を持てているので、しんどいですが、倒れるというところまで行ったことは今のところないですね。
走りながら体力やペースも配分しつつ、という感じでしょうか?
一番考えているのはタイヤですね。どのタイミングでタイヤを使うのか、また、使わないか、というところは、本当にセットアップが決まっていれば考えなくて良いのですが、色々なライダーと共有しているバイクで、必ずしも100%ではないので、その中でどう配分していくのかというのはしっかり考えながら走っていますね。まあ大体レース前にレースラップ、28周なら28周のシミュレーションをしていることが大半なので、それをいかに高いレベルで再現するか、というところですね。
6.8時間を2~3人で走り切る上で大切なことは何ですか?
僕自身鈴鹿8耐の今までのレースで非常にやらかしてきているので、やりすぎないことですね(笑)。これまでの8耐では自分のセットアップをベースにしてもらっていることが多くて、そういう意味では多分一番楽な立ち位置で8耐自体はやっていると思うのですが、逆にその分気持ちが乗っていってしまうんです。もちろん100%ではないですが乗れるバイクなので、チームの中で一番速くはしってやろうとか、やっぱり内側で欲が出ちゃう時があるので、それいかに出さずにテストやレースをこなしていくかです。だから本当にチーム全員とのバランスというものをどうやってとっていこう、という目線が自分の中にないといけません。やっぱり1人で突っ走っていっちゃうとろくなことがないな、というのが実体験としてありますね(笑)。
チームとして、というところが大事なのでしょうか?
やっぱり誰かが抜け駆けしようとしたらダメだな、という。まあ抜け駆けしようとしたわけではないのですが。本当に全体を見ながらレースをするというのは大事ですね。
7.8耐にはレース以外に楽しめるものはありますか?
まずライダーとして、という目線でいくと、非常にイベントごとが多いんですね。グランドスタンド裏の「GPスクエア」というスペースにいろいろなメーカーのブースが出ていて、そこでトークショーなど色々なイベントがあります。多分お客さんもそれを楽しみにしている方は多いと思いますが、僕らとしても非常に楽しい部分ではありますね。残念ながら一対一ではありませんが、やっぱりいろいろなファンの方と顔を合わせながらコミュニケーションを取っていけるというのは大事な部分だと思うので、自分的には楽しみにしている部分ですね。
あと、ライダーって至れり尽くせり感がすごいんですよ。スプリントレース(注9)は速く走れればいいのですが、8耐になると戦っている時間が長くなるので、「体力を使わせちゃいけない」という周りの心理が多分すごく強くて、何かとやってもらえます。王様になった気分ってこんな感じなのかな、と。それこそ自分がツナギの下に着たインナースーツも、走り終えて帰ってきて脱ぐと、気がついたら洗濯されていて干されている、みたいな。「あ~、楽~」と思いながらやっていることが多いですね。
注9:決められた周回数を走り、ゴールした時の順位を競うレース。
無駄な体力を使わせないように、みたいな…。
そうですね、やたら気を遣われます。逆にそれがちょっと嫌なライダーも多分いると思います。人によりますが、自分で全部コントロールしたい、全部が全部完璧に物をこなさなきゃいけないという心理でレースをしているライダーも中にはいるので、そこは「僕の場合」という注釈は入ると思います。
渡辺選手の場合それは「あ、いいな」と感じるのでしょうか?
「何もしなくていいんだ俺は」って思えますね。まあ実際はそうではなくて、現実に戻らなくてはいけないタイミングがありますが。
お客さんとして、というと、1回だけ土曜日だけ観戦しにきたことがあって、多分それを知っているから「お客さんの方が辛いな」という目線が入るのかもしれません。やっぱりその時がすごく暑かった記憶があります。
その時はずっと見ていましたか?それとも他のところにも遊びに行ったりしましたか?
歩き回っていました。当然コースも見にいきましたし、色々なところを見て回っていましたが、本当にフルで8時間見たことはないです。
でもさっきの話ではないですが、同じ空気を共有できるという意味ではその最後の数分、数時間というのはライダーとかチームとかお客さんとか、あまり境目が無くなってくるんじゃないかなとは思います。なのでその瞬間を楽しみに見てもらえればと思います。
グランドスタンドのライト(注10)やカウントダウン(注11の声はすごいですよね。
ライトがすごく綺麗なんですよ、走っていても。最終スティントを一昨年走ったのですが、最終のシケインを立ち上がって、目の前に一面に広がっている景色を見るのが僕は初めてだったんです。走っていてもその一体感を初めて感じた瞬間でした。
注10:鈴鹿8耐では暗くなってくると観客席でペンライトが配られ、観客はそれを点灯させてライダーを応援する。(気になった方は画像検索してみてください!)
注11:8時間が迫ると実況、チーム、観客全員がカウントダウンを行う。
視界にパッと綺麗なライトが広がっている感じですか?
そうですね、それが全部揺れているのも当然見えるので、「おお~」と。ちゃんと走りきらなきゃな、という気持ちがすごく強くなりましたね。
走っている側からも見えるんですね。
見えます見えます。多分一番綺麗に見えていると思います。
それを聞いてちょっと嬉しくなりました。
まあ実際はなかなか感傷に浸っている余裕はないのですが、後からその景色を思い返したときに、あんな景色ないよなあ、って思いますね。
8.鈴鹿サーキットのおすすめ観戦スポットはありますか?
鈴鹿サーキットは国内のサーキットの中では一番観る環境が整っているサーキットだと思います。そういう意味では色々観に行きやすいですね。鈴鹿8耐では「激感エリア」という、コースのすぐ近くまで行けるスペースが2コーナーの内側と、確かS字にも設置されていたと思います。観る位置が近いと、それこそライダーの目が見えるとか、指先の操作が見えるとか、っていうのがあります。そういうのは多分距離があるとなかなか確認できない、見えない部分だと思うので、そういう迫力は感じて欲しいかなと思います。
個人的には、すごく多分マニアックな場所なんだろうな、と思うのですが、前に8耐ではなく別のレースを観に行って、面白いと思った場所がありました。1コーナーの外側、多分本来立ち止まって見る場所として設定はされていませんが、ちょうどガードレールとガードレールの間が空いていて、1コーナーに入っていく姿が後ろから見られる場所です。300km/h以上のところから200km/h弱くらいのスピードでコーナーに入っていく姿が見られるのですが、ライダーである僕がたまたまそこで見ても、「うわ、こいつらすげえな」って思えるような場所だったので、ちょっと機会があれば見て欲しいかなと思います。
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