がらくたロボット アルバム「ツキノアリカ」について

はじめに

2016年から毎年春にミニアルバムをリリースしていた彼らが、2018年4月25日、満を持してフルアルバムを世に放った。昨年10月から発表していないシングルカセット三部作に収録された7曲の再録と、3曲の新曲、また以前から発表されていたものやかねてよりライブで披露されていた2曲を合わせた12曲入り、一枚で43分の作品。カセットももちろんちゃんとしたひとつの作品なので、このような表現をするのはおかしいかもしれないが、カセットで予習してアルバムで答え合わせするような感覚が私は楽しかった。

また、フルアルバムで40分というと短く思えるのだが、曲の長さ以上に内容が濃く詰まっていて、今回もどうにかなりそうになってどうにもならない気分を抑えきれず、私なりの解釈と感想(ディスクレビューとはまだとても言えない)を書いた次第である。

1.産叫

壮大さを感じさせられるギターリフで始まる曲はファンにとっては馴染み深いものである。
2014年発売のシングル「産叫-ubugoe-」では「産叫〜Get alone」として収録されており、また昨年リリースされたEP「BREAK OUT」には作品の最後の曲にあたる「ハネル」のアウトロにこの「産叫」が少しだけ入っている。それは、このアルバムへの伏線だったのかもしれない。よって、私からすると、オープニングにもエンディングにも捉えることが出来る曲である。ライブ時にSEにも使われていたが、今まで歌詞はなかったので歌詞カードを見て初めてそれを知ったわけなのだが、本当にざっくりと私の予想で和訳してみると

“水、天国
嵐のような・荒れ狂うような雲
運命 に逆らって
川 がほとばしる”

果たしてこの単語たちに意味はあるのだろうか。「産叫(声)」というタイトルから“生命の神秘”のようなものを感じたので、もしかするとダイジロウくんが創り上げたバイブルのような曲なのかもしれない。また、曲の最後の産声は実際にダイジロウくんが産まれたときのものを使用している。彼はこの曲を作る為に誕生したのではないか、とすら思えてしまう。

2.Heartful Murder

シングルカセット第三弾のA面曲でそれの再録版。以前の投稿に感想を書いているので、詳しくはそちらをチェックしてほしい。
https://youtu.be/nThv4liaCYo

3.Runaway

おどろおどろしさのある、フウタくんの骨にまで響くような力強いベースソロから始まる。

一番は「君が出て行った日から繰り返してる/ほんの少し思い巡らせれば/すぐにでも君を連れ出すのに」という寂しげな歌詞なのに、サビの「Run,Run,Run,Runaway」のところで不自然なくらい明るくなる。Aメロは暗闇の中にいてサビで突然カッと灯りが射すようなイメージ。がらくたロボットの歌詞は比喩や隠喩が多い印象があったので、二番の歌詞「ここへ戻っておくれ/君の居ない世界なんて気が狂いそう」がストレートでぐっときてしまった。

二番のサビのあとはダイジロウくんの不気味な笑い声とシャウト、そしてそれに続くギターのカッティングが小気味好く、思わず聴き入る。

「裏返した光」はどうしても理解できない。「もう行かなくちゃ/君はもう居ない」のあとに「僕は歩いて行く」と最初の哀愁を吹き飛ばすさっぱりとした終わり方ではあるが、それまでの曲の展開と歌詞の所為か、どうしても後を引き、頭から離れない一曲だ。

4.My Way

タカヒロさんのドラムがフェードインし、ダイジロウくんが「Sing my way」とぽつりと口ずさむイントロ。疾走感のある曲に畳み掛けるように歌詞が乗せられており、ライブでは聞き取るので精一杯だったので、こうして歌詞カードを手に聴く事が出来て嬉しい。

全体的に軽快で踊りだしたくなるような曲だが、やはり意味を深く考えられずにはいられない歌詞が随所にある。「夜を越えて」ではなく「夜をこめて」という表現が好き。羽を撃ち抜かれたのはアゲハかな。最後の「夜をこめて/月明かりが照らし出した/銃とアゲハ」を聴いて、銃はダイジロウくんにとってのギターなのかなと思った。アゲハからは、前作「BREAK OUT」収録の「ハネル」の歌詞「笑い出す蝶達」を思い出させられた。「ハネル」では「訳なんてないけど何処にも行きたくない」と歌っていた少年が進む道を見つけたということなのではないか。(Shoot,shoot.Should I try again?)は「ギターを弾いてもいいか?」ということなのかも。映画か何かの台詞かもしれないけれど。

私は「ハネル」と関連付けて聴いてみたが(全く関係ないのかもしれないが)、「Runawy」のアンサーソングと捉えて聴いてみても楽しい。最後の「My way and your way」は月を半分持ち去ってった“君”の歩いている道を指すのかもしれない。

5.Oh Yeah

シングルカセット三部作収録曲。以前感想を書いた時点では歌詞カードがなかったのでてっきり「めかし込んだ針の月」だと思い込んでいたのだが、正しくは「玻璃の月」だった。ガラスの別名らしい。なんてロマンチックな表現をするのだろう、と思った。

6.君を待ってる

こちらもシングルカセット三部作収録曲。カセットと比べるとキーが低くなっている。また、カセット版ではアウトロにアコギが使われていてうっとりしたのだが、今回はそれが無くなりエレキがメインで使われていて、良い意味で隙がなくなった感じがした。最後まで気を抜けない!

7.STOP

同じくシングルカセット三部作収録曲。同じ曲でもアルバムの中盤で聴くとまた違った印象になり面白いなあ。
https://youtu.be/8IPFgdB7Zlk

8.Lazy Crazy Sunday

この曲は…本当に…本当にもう……狡い!!!

初めてライブで聴いた時、ため息が出たのを覚えている。不協和音のようなギターとベースで始まり、どんな曲なのかな、と訝しげに聴き進めていくと…度肝を抜かれる。例えるならば、ブレーキとアクセルを踏み間違えるような、操り人形が自分の意思で動き出すような、ロボットが壊れ暴走するような感じ!聴いた時にそれを味わって欲しいので、敢えてここには詳しく書かないでおく。こんなの聴かせられたら、更に好きになるしかないじゃあないか。間違いなく今のがらくたロボットだから作ることができた曲!!まさしくクレイジー。これを読んだ人全員に今すぐ聴いて欲しい!!!

9.Strawberry Dreamers

シングルカセット三部作の第2弾A面曲。歌詞カードを読んでみると、一番の「甘すぎるハニー/晴れた月夜の晩に/やがて空は灰に」で韻を踏んでいることに気が付いた!
https://youtu.be/YYfhxqZfuQU

10.Andy’s Trying

同じくシングルカセット三部作の再録。間違い探し遊びみたいに聴き比べると楽しい。

11.トンネル

こちらもシングルカセット三部作に収録。以前も書いたがダイジロウくんの書く歌詞は物語のようで、一曲で完結するわけではなく、色んな曲にパズルのようにピースが散らばっていて話として成立しているように思う。この曲も然り。

12.ツキノアリカ

誰にも言いたくないのだが、この文章を書く上で必要だと思ったので冒頭で触れておくと、私ががらくたロボットに出逢ったばかりのとき、どうしてももっと彼らのことを知りたくて、SNSやらを遡ったりしていたときに見つけた日記に在った言葉がこのタイトルで、それはもう3年以上も前の話なのだけれど、私がはっきりと覚えていた言葉なのであった。それは入院しているときに始めた日記で、もちろんその当時のことをリアルタイムでは知らないのだが、その時の彼のことを考えると胸が詰まる。

と、まあ、秘密主義なので結局詳しくは書かないのだけれど…。

歌詞について触れると「秘密は夜に閉じ込めよう/誰にも見つからないように」という蝙蝠の言葉が好き。また、オオカミについて歌っておいたくせに、最後は「oh 神だけが知っている」になっているのが狡い。歌詞カードを読むまで知らなかった。うん、やっぱりおおかみだ。

余談だが、5月の最後のOJBでの96dogで、夜が明け窓から朝日が射すなか、5時ごろにこの曲を聴いたのがとてもエモーショナルだった。涙が溢れたのは眩しい太陽の所為だけではなかった。

…という様にこの曲に対しては個人的な思いが多過ぎて、とても客観的に書けないのでこの辺りで終わろうと思う。

おわりに

2週間前で彼らのライブを初めて観てから3年が経った。3年をわかりやすく説明すると、中学高校の3年間。子供が産まれたての赤ちゃんからはっきり言葉を話すようになるまでの期間。こう表すと割と長い時間に思える。私は結構な飽き性なのだが、こんな長い間決して冷めることのない一定数以上の熱量を持ち続け、彼らに向き合い、追いかけることが出来ていることを心より幸せに思う。

改めてがらくたロボットの魅力を簡潔にまとめると、演奏力はもちろんだが、

タカヒロさんのルックスと気さくなキャラクター、フウタくんのステージとのギャップと少年のような雰囲気、そしてやはりダイジロウくんの圧倒的なカリスマ性。特に彼の紡ぐ言葉から思想までを私は愛していて、椎名林檎の「幸福論」から引用すると「あたしは君のメロディーやその 哲学や言葉 全てを守り通します 君が其処に生きてるという真実だけで幸福なのです」といった具合だろうか。「信者だ」と嘲笑われても全く構わない。

それだけ夢中にさせてくれる彼らの存在をこれからも尊び追いかけていきたい。

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