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POPEYEよ、「サウナ」「古着」「カレー」の次を教えてくれ。

潔癖症


潔癖症なんです。

きっかけはたしか小学生の頃。
発展途上国かと錯覚するほど、世界一汚い小学校に通っていた海老沢。このご時世にはありえない、ほぼすべてのトイレが和式でなおかつ清掃は一週間に一回という恐ろしく汚いトイレを目の当たりにし、見事に潔癖症を発症した。

幸いにも学校から自宅までは徒歩10分ほどだったので、学校では一度もトイレに行かず、家まで頑張って我慢するという生活をしていた。
すべての根源である小学生時代。度重なる膀胱炎を経て、「トイレがキレイ」という水準で選んだ地元有数の私立中学に進学し、膀胱炎の改善を図った。
そこでは、いじめにも遭っていたので、用を足す以外にも弁当を食べる目的でトイレを利用できるまで成長したのだが、また別の症状に悩まされていた。

「歯磨き粉依存症」である。

文字通り、私は歯を磨くことが好きだ。今でこそタバコやコーヒーによる着色を防いだり、矯正器具を付けた口腔内を清潔に保つためのノルマでもあるが、当時はとにかく歯磨き粉の味を楽しみたかった。

特に好きだったのがデンターの緑。
これは中学時代の話なので7年前とかかな? 当時、デンターの歯磨き粉はつぶつぶが入っており、じゃりじゃりした食感も含め大好物であった。
そのため、歯を磨くという目的以外で、慎吾ママのごとくチューブからじかに吸うことを繰り返していた。
(マジで文字に起こすとやばい)

ところが、私が中学3年生だった頃、デンターのつぶつぶver.が生産中止となった。味はそのままの、つぶつぶなしver.が台頭したわけだが、最寄りのドラックストアでその姿を見かけなくなったときは悲しさよりも「今後どうしたらいいの!?」という禁断症状が圧倒的に強かった。

当時はまだネット通販を自由に使えなかったため、地元の場末のスーパーの奥に眠っている在庫から、なけなしのお小遣いをはたいてつぶつぶ入りのデンター緑を入手していたが、それも2か月後には途絶えてしまった。

先日この話を、映画を専門とする大学の同期にしたところ、「『Swallow』じゃん!」と言われ、ドン引きされたのでこれは公言しないようにしようと思う。

話は脱線したが、とにかく私の潔癖症は続いた。
歯磨き粉の話に関しては、一種の強迫性障害なのかもしれないが、とにかく私は昔から「気にしい」なのである。

そのままエスカレーターで同高校に進学し、健康を害さない範囲ではトイレにも行けるようになったが、友人の「飲み物一口ちょうだい!」は拒否し続けていた。

大学に入学し、上京した私は、東京という街の多様性とその異常さに驚いた。
地元・金沢では当時、イヤホンではなくヘッドホンをしているだけでジロジロ見られてしまうような、田舎特有の「キモさ」があった。
私はそれがどうしても嫌であった。しかし東京は、ヘッドホンをしていようが、どんなに奇抜な恰好をしていようが構わない。
いい意味で皆が他人に無関心な空間に心が躍った。しかし、終電間際の電車内の酒臭さ、駅に落ちている吐しゃ物。汚さに関しても異常であった。

そのため、数年前までの私は電車内でつり革をつかむことも、座席に座ることもできなかった。

リハビリ

マジでこれはややこしいんです。生活しづらい。

当時、回転寿司チェーンでの醤油ぺろぺろ問題などが取りざたされ、このままでは外食もままならないと危機感を持った海老沢。
いざ、リハビリである。

もともと外食は好きで、というのも自炊を全くしないので、不信感を抱いていては生きていくことができない。

店員さんに頼めば新しいお箸ももらえるし、安心できる店であれば外食もできる。

鬼門となったのは、公共浴場だ。

元々、公共の風呂が好きではない。もちろん、プールもだ。
自分を試し、再構築するために親友とナイトプールに行った。

授業で水泳があったのは小学生までだったため、泳ぐのは約7年ぶり。

案の定、映えるためだけの空間であるはずのナイトプールで溺れかけたうえ、精神の限界に達し蕁麻疹が止まらない。

ほかにも、リハビリのために予約した、貸し切りができる温泉旅館。
貸し切りであるとはいえ、家以外の誰かに提供されている風呂には落ち着けなかった。

今では電車の座席には座れるようになったが、その他には触れられないままである。

POPEYE

カルチャー誌といえばPOPEYE。
私も一丁前に「サブカル」なんてことをかじってみたい一心で手に取った。

POPEYEは、移り行く時代の中で常に若者カルチャーの中心にいる。
開いてみると、紙面を覆いつくす「それっぽい」モデルたち。
そしてPOPEYEカルチャーの代表とされているのが、
「古着」「サウナ」「カレー」。

…下北沢すぎないか?

シモキタは今でこそ若者カルチャー、サブカルの中心地とされているが、
昔はそうでもなかったらしい。
再開発が進んだ高架下、軒を連ねる古着屋、なんだかオシャレなカレー屋さん。シモキタに行けばそれらを一丁前に楽しめるように錯覚する。

サウナは元々ダメだし、カレーは苦手。
私も一若者として、古着をかじってみようと思った。

オシャレな古着屋に入り、一通り物色する。
古着屋特有の匂いが充満する店内を回っていると、一着の服が目に入った。

トラックジャケットである。

最近では「ジャージ」のことをトラックジャケット、トラックパンツと呼ぶらしい。
その服はメンズっぽいデザインなのだが、サイズは小さめ。
鏡で合わせてみると意外と似合う。
値段も2000円ほどとお手頃だったので迷わず購入した。

てか、古着屋入るのって緊張しません?
リサイクルショップと違い、古着屋に入るためには古着屋用の服が必要な気がしている。

ともかく、購入したトラックジャケットを着て実家に帰った。

「この服どうしたん?」
ある日、母が洗濯物を畳みながら聞いてきた。

「どうって、古着屋で買うたんよ」
私が答えるやいなや、母はそのトラックジャケットの洗濯表示タグを私に見せてきた。


「くにいしょうた」
と書いてあった。

油性ペンで書かれたそのひらがな。きっと前の持ち主は少年だったのだろうか。

よく考えれば、古着は元々誰かの持ち物。
しかし、いざその痕跡が見え隠れしてしまうと、私はどうしても前の持ち主について詮索することをやめられなかった。

同時にその思考が及ぶにつれて、その古着がとてつもなく気持ち悪く思えてしまう。

結局、「くにいしょうた」と書かれたそのタグをハサミで切り、弟にあげた。


古着もサウナもカレーもダメみたい。
POPEYEよ、次のサブカルを教えてくれ。



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