マーケティング初心者として抱く不安を解消するために
「凡人の凡人による凡人のためのマーケティング」という言葉には、多くの人が共感するはずです。私自身、過去にはマーケターとしてのキャリアをスタートしたばかりの頃、いわゆる“天才”的なひらめきやアイデアがあるわけではありませんでした。ビジネスの基礎知識も乏しく、エース社員でも起業家でもない“普通の人”でした。
どの本を読んでも、理屈はわかったような気になるけど「で、実際にはどう活かすの?」と悩む
「4P」や「STP」といった理論はわかった気になるが、成果につながる施策が思いつかない
経営や組織を巻き込む力が不足していて、自分の考えを実行に移せない
こういった悩みに直面する人は少なくありません。特に、マーケティング職に「これから挑戦したい」「部署異動で初めて担当することになった」という方には、同じような不安がつきまとうはずです。私も同じでしたから、その気持ちは痛いほどわかります。
そこで本稿では、マーケティング職として成果を出すための基本的な考え方を「学習プロセス」という視点で整理しました。難解なフレームワークや学術的な論文を先に追いかけるよりも、
基礎理論(公式)
顧客理解と実践の反復(問題を解く)
組織を巻き込み、より大きな成果を出す(効率よく問題を解く)
経営視点での戦略設計(応用問題を解く)
の順番で学ぶことが成果を生みやすいと考えています。理論に基づくマーケティングは、ロジカルかつ再現性が高いのが特徴です。これは凡人であっても十分に結果を出せる余地がある、という大きなメリットでもあります。「先天的な才能」「クリエイティビティ」だけに頼らずとも、正しい学びと努力の積み重ねがあれば、誰だって立派なマーケターになれるのです。
マーケティング学習の全体マップ――4象限と4ステップ
マーケティングを学び始めたばかりのころ、特に若い方や転職組の方は「すぐに結果を出さなければいけない」というプレッシャーを感じるのではないでしょうか。そうすると、どうしても「成果の出やすい最新ノウハウ」を探し求めがちです。たとえば以下のような手法が巷には数多くあります。
SNS広告やインフルエンサーマーケティング
SEOやコンテンツマーケティングのテクニック
MA(マーケティングオートメーション)ツール導入
最新のAIを活用したデータ分析
もちろん、これらは非常に有益な手段です。しかし、基礎理論(公式)を飛ばして運用面だけを“切り取って”習得しても、本質的に顧客理解ができていないとすぐに壁にぶつかるのです。また、組織を動かすために「経営戦略視点で提案する力」が伴っていないと、「現場の思いつきの施策」で終わってしまい、十分なリソースも割いてもらえないケースが多々あります。結果、「効果の検証ができずに迷走する」「やること自体に疲れてしまう」という状態になりやすいのです。
そこで、初心者には4ステップを踏むことを強く推奨したいと思います。
公式を覚える
問題を解く
より効率よく問題を解く
応用問題を解く
加えて、学ぶべき要素を「戦略 vs 戦術」「マーケ vs 経営」という2軸で整理すると、以下の4象限に分かれます。
このマップをざっくり頭に入れていただいた上で、学習を進めていくと「自分はいま何を学んでいるのか、どの位置にいるのか」が見えやすくなります。わからない部分があれば戻り、理解が追いついたら先に進む――こうした往復が学習効率を高めるコツです。
戦略と戦術、マーケと経営をざっくり定義してみる
戦略:どのお客さんを喜ばせるか(方向性・目的)
戦術:どうやって喜ばせるか(手段・施策)
さらに、
マーケ:仕組みを作ること(どんな製品・サービス設計が必要か、どんな仕掛けでお客様を動かすか)
経営:仕組みを動かすこと(人・組織の動かし方、リソース配分、長期的な視点)
マーケティングを強化するためには「仕組みづくり」のスキルが必要ですが、それを実行に移す段階では経営視点(人材・予算・組織文化・競合状況などのマネジメント要素)も深く関わってきます。いくら素晴らしい戦略や戦術を立案しても、それを社内外のステークホルダーと協調しながら実行できなければ成果にはつながりません。
第1ステップ――公式を覚える
基礎理論がなぜ重要なのか
「マーケティング」という言葉は非常に幅が広く、誰もがそれっぽいことを言えてしまう領域でもあります。その結果、特定の“流行りのツールや手法”だけを追いかける学習スタイルになりやすいのですが、これは非常に危険です。マーケティングにはしっかりとした学問としてのバックボーンがあり、MBAでも必修科目として扱われているほど体系化されています。
具体的には、
STP:Segment(セグメンテーション)/Target(ターゲティング)/Positioning(ポジショニング)
4P:Product(商品設計)/Price(価格戦略)/Place(流通・チャネル戦略)/Promotion(販促戦略)
など、いわゆる「マーケティングの王道フレームワーク」が存在します。これらは地味なように思えるかもしれませんが、ビジネスにおけるあらゆる施策の整理に使え、かつ誰に対しても説明がしやすいという利点があります。
STPや4Pを軸に「誰に、何を、どうやって売るのか」を思考・整理していきました。その際に、基礎知識がないと「思いつきだけで企画を作り、検証ができない」という事態に陥りやすいのです。
理論を学ぶ上でのおすすめ教材
MBAマーケティング
ドリルを売るには穴を売れ(佐藤 義典)
4Pの基本概念を物語形式で理解できる人気の入門書。
「顧客にとっての価値とは何か」「なぜ商品そのものではなく、その商品によって得られる“便益”が重要なのか」を平易な言葉で解説。
ストーリー仕立てなので読みやすく、マーケティング初心者の登竜門として最適。
USJを劇的に変えた、たった1つの考え方(森岡 毅)
USJで行った具体的施策を示しながら「マーケティングで成果を出すとはどういうことか」を解説した一冊。
STPや4Pを実際にビジネス現場に落とし込んだ事例として活用していただきたい。
「お客様が喜ぶポイントをどのように見つけるのか」「予算や人的リソースといった制約条件をどう乗り越えるのか」という部分も触れている。
選ばれ続ける必然 誰でもできる「ブランディング」のはじめ方
マーケティングが「差別化」であるのに対し、ブランディングは「お客様の記憶に残す」こと。
「なぜ商品力で勝っているはずなのに、無名だと売れないのか」「大手ブランドの“安心感”や“イメージ”には何が込められているのか」を理解する助けになる。
マーケティングとブランディングの違いを一言で
私の経験から、マーケティングとブランディングを一言で表すと、
マーケティング:差をつける
ブランディング:記憶に残る
ということになります。どんなに商品が優れていても、お客様の頭の中にブランドとして認知・信頼してもらえなければ「なんとなく買いたくない」という心理が働くものです。ユニクロのヒートテックより「安くて高機能」と言われても、知らない企業の製品には手が伸びにくいのは、この原理が働いているからこそです。」
第2ステップ――問題を解く(顧客理解と実践)
顧客理解の重要性――「顕在ニーズ」と「インサイト」
マーケターの仕事は「顧客が本当に求めているものを察知し、それを商品やサービスとして実現すること」です。4PやSTPを理解したうえで、それを具体的な“問題解決”として落とし込むには「顧客の心理をどれだけ深く掘り下げられるか」がカギとなります。
顕在ニーズ
顧客が自覚して言語化できるニーズ
例:おしゃれな服がほしい、新しいiPhoneがほしい、など
インサイト
顧客が自覚していない、あるいは言語化できない深層心理
例:旅行先を選ぶとき、実は「写真映え」や「承認欲求」を満たしたいと感じている、など
多くの場合、マーケティング施策は“顕在ニーズ”をもとに組み立てられがちです。しかし、大手企業や競合他社も同様に顕在ニーズへアプローチしてきますから、そこで差別化を図るのは容易ではありません。むしろ、顧客が無自覚で求めているインサイトにこそイノベーションの余地があります。
「ジョブ理論」で読み解くインサイト
ジョブ理論(Jobs to Be Done, 以下JTBD)は、クレイトン・クリステンセンによって提唱された概念です。
従来:製品・サービスにおける「機能」「価格」「品質」に注目しがち。
JTBD:顧客が「何を達成したいから」その製品・サービスを“雇用”(買う/使う)しているのか、という観点で捉える。
なぜジョブ理論が重要なのか
**顕在ニーズ(表面的な需要)**だけでなく、**顧客のインサイト(本質的欲求)**を捉えることができる。
「どのように差別化し、顧客が『それを買う理由』を作るか」が明確になる。
価格競争や機能競争に陥るのではなく、**“顧客にとっての本当の価値”**を創造できる。
ジョブ理論の代表的エピソード
ジョブ理論と聞くと、多くの方が有名な「ミルクシェイクの事例」を思い浮かべるかもしれません。これはクリステンセン氏が提唱するJTBDを象徴する逸話で、商品開発やマーケティングの教科書的な存在です。
1.朝の通勤中に買われる「ミルクシェイク」の例
あるファストフード店は、売上を伸ばすために新たなミルクシェイクを開発しようと顧客調査をしました。しかし、従来の「甘さや価格に関するアンケート」では売上アップに結びつくような決定打が見つかりませんでした。そこで、顧客は何の目的でミルクシェイクを買っているのかを深堀したところ、こんなインサイトが浮かび上がりました。
朝の通勤時、長い時間運転しなければならない
片手で持ちやすく、車内でこぼれにくいものを探している
退屈しのぎになり、胃袋を程よく満たしてくれるものが欲しい
つまり、お客様は「甘くて美味しいミルクシェイク」を買っているのではなく、“運転中の退屈を紛らわせ、空腹を満たす”というジョブをミルクシェイクに“雇用”していたわけです。
施策への転換
味や価格を重視するのではなく、飲みやすさや粘度、量を調整して「退屈を紛らわせるために時間がかかる」ように設計する
朝の時間帯にパッと買いやすい環境(ドライブスルーで受け取りやすい工夫)を整える
「退屈な通勤をちょっと楽しくする」という文脈で広告やプロモーションを設計する
これがジョブ理論の威力であり、単に「甘さを変える」「値下げする」といった機能・価格競争とは全く異なる切り口で商品設計やマーケティングを行うことが可能になります。
他の具体的エピソード
2.IKEAの「家具」ではなく「ライフスタイル」を売る例
スウェーデン発のIKEAは、安価で組み立て式の家具を大量に販売していることで有名ですが、実際には「家具の品質のみ」で勝負しているわけではありません。顧客がIKEAを“雇用”する理由には、JTBD的なインサイトが潜んでいます。
インサイト1:引っ越しや新生活の“ワクワク感”
大学入学や転勤などで新たな部屋を整える際、部屋全体のインテリアを一からコーディネートする楽しさを提供
店舗を“ショールーム”のように見せ、どんなふうに部屋を作れば自分の理想が実現できるかをイメージしやすい工夫
インサイト2:“DIY感”による達成感
家具の組み立ては手間だが、自分で完成させた満足感や愛着が生まれる
インサイト3:“安価に生活空間をトータルコーディネートできる”
大量生産と低コストオペレーションを武器に、若い世代や新婚家庭が一通りの家具を揃えられる価格帯を実現
施策への転換
「大型ショールームで、見て回るだけでも楽しい空間」を作り、来店体験を重視
家具や雑貨だけでなく、「キッチン用品からベッドリネン、カーテンまで一気に揃えられる」というトータル提案
組み立てが面倒に感じる層向けに、有料組立サービスや宅配を提供する
IKEAは「おしゃれで安い家具」という単なる“機能・価格”の面だけでなく、“新生活を自分好みにデザインする”というジョブを充実した体験として提供することで成功しているのです。
3.Netflixが“コンテンツ”ではなく“時間の過ごし方”を提供する例
Netflixは、月額課金で映画やドラマが見放題になるサブスクリプションサービスです。ここでいうジョブは「映画を観たい」「ドラマを観たい」だけでは終わりません。
インサイト1:退屈な時間を埋めたい
通勤・通学中、または仕事後のリラックス時間に、手軽に楽しめる娯楽が欲しい
インサイト2:家族や友人と共有する場が欲しい
同じドラマを観て「次の展開はどうなる?」と語り合う、SNS上のコミュニティに参加する
インサイト3:テレビ番組や映画レンタルショップに行く手間を省きたい
時間や場所に縛られず、スマホやタブレットでいつでも視聴したい
施策への転換
パーソナライズされたレコメンド機能
ユーザーが観た作品や評価をもとに、新たに楽しめそうな作品を提案(“迷う”時間のストレスを軽減)
オリジナルコンテンツ
単なる映画ライブラリではなく「ここでしか観られない作品」を強化し、“話題に乗り遅れたくない”という心理を刺激
複数デバイス対応&オフライン再生
スマホでもパソコンでもシームレスに観られ、通勤・通学の暇つぶしや旅行中の空き時間を有効活用できる
「家で映画やドラマを観る」というのは表面的なニーズであり、ジョブ理論的には「暇な時間を楽しく潰す」「友人と話題を共有する」「外出先でも自由に視聴する」といった複数のジョブが存在していると考えられます。
4.Uberやタクシー配車アプリ:移動手段ではなく“ストレスフリーな移動”を売る
従来、移動手段を考えるときは「バスか電車かタクシーか自家用車か」といった選択をするだけでした。しかし、Uberなど配車アプリは下記のようなジョブを捉えています。
インサイト1:待ち時間が予測できない不安を解消したい
スマホアプリで現在地から目的地までの所要時間と料金がリアルタイムに表示される
インサイト2:料金交渉や支払いの手間をなくしたい
アプリ決済で現金の受け渡しなし
インサイト3:言語の壁や場所を伝える負担をなくしたい(海外旅行者など)
GPSで自動的にピックアップ場所が指定される、目的地住所入力ですむ
施策への転換
アプリUI/UXの最適化:1~2タップで配車が完了するシンプルさ
ドライバー評価システム:乗客の不安を減らすために、安全性やサービス品質をユーザーレビューで可視化
サージプライシング(需要による価格変動):いつでもすぐ利用できる利便性を確保し、ドライバーを増やす誘因にしている
「移動する」という表面的なニーズだけではなく、「移動に伴うストレスや不安要素を極力減らす」ジョブを代替手段よりも優れた形で提供しているのがポイントです。
JTBDを活用したインサイト発見のステップ
顧客インタビューや観察で“リアルな状況”を掴む
ミルクシェイクの例では、実際に朝の時間帯に来店する客に「なぜミルクシェイクを買うのか?」「どこに向かう途中か?」などを聞き取り、背景を探った。
顧客が抱えている不満や隠れた欲求を見つける
「車内で退屈する」「簡単に手が汚れるものは嫌だ」「すぐにお腹がすくと困る」といった潜在的な要望。
顧客が達成したい“ジョブ”を整理する
不満・欲求をまとめ、「この人は○○を実現したいから商品を雇用している」と仮説を立てる。
自社製品・サービスのデザインを“ジョブ達成”の方向へ最適化する
ミルクシェイクをドロドロ感のあるテクスチャにして、飲むのに時間がかかるようにする
Netflixなら“家族・友人と話題を共有しやすい機能”を強化する
実際にテストと改善を繰り返し、顧客満足度や売上を検証する
なぜJTBDがマーケティングに不可欠なのか
価格・機能競争から抜け出せる
ただ価格を安くする/機能を増やすだけでなく、「顧客が求める体験」を優先させることで付加価値を創出。
マーケットの“再定義”ができる
「自社は○○業界の中で戦っている」という固定観念を外し、顧客のジョブが満たされるなら全く異なる業態とも競合になり得る、という新たな視点が持てる。
組織横断的なアイデア創出につながる
プロダクト開発部門、マーケティング部門、カスタマーサポート部門が一体となり、顧客のジョブ実現を軸に動ける。
まとめ:ジョブ理論でインサイトを掘り起こし、“本当の価値”を創る
ジョブ理論(JTBD) は、製品やサービスに欠かせない根本的な問い、「お客様はなぜこれを買うのか?」に正面から答えようとするフレームワークです。
単に顕在ニーズや価格・機能だけを追うのではなく、**顧客が実際の生活やビジネスシーンで求めている“体験や解決策”**を見いだし、それを満たす形で商品・サービスのコンセプトや設計を行うと大きな差別化が可能になります。
ミルクシェイクの事例、IKEAのショールーム戦略、Netflixのパーソナライズやレコメンド、Uberの配車体験などはすべて「顧客のジョブ」を捉え直すことで急成長したり、競合優位を確立した例といえます。
ジョブ理論を学んだら、ぜひ身近な商品やサービスを自分なりに分析し、「これはどんなジョブを達成しているのだろう?」と考えるクセをつけてみてください。そうすると、マーケティングの視点やアイデアが驚くほど拡がり、本当の意味での“顧客インサイト”にアプローチできるようになります。
日常からインサイトを探る方法――メモの魔力
なぜ「日常からインサイト」を探る必要があるのか
マーケティングの世界では、「お客様が何を考えているか」を知ることが何より大事です。4PやSTP、ジョブ理論といった理論を知っていても、それを使いこなすには具体的な“顧客心理”を捕まえなければなりません。しかし、顧客インタビューや市場調査のデータだけでは見えてこない“本音”や“裏の欲求”があります。
「どうして〇〇を選んだのか?」と聞かれても、当の本人さえ明確に説明できない場合が多い
いわゆる“インサイト”は無意識下や生活習慣の中に埋まっていて、顕在化しづらい
そこで力を発揮するのが「自分自身の体験や観察」をベースとした日々のメモです。自分が普段使う商品・サービス、街で見かけた人々の行動、SNSでのやりとり――こうしたありふれた日常にこそマーケティングのヒントが潜んでいます。
「メモの魔力」とは
前田裕二氏の著書『メモの魔力』では、「日常のあらゆる出来事をメモに取り、そのメモを通じて自分を深掘りすることで、大きなアイデアや行動のきっかけを得る」という方法が紹介されています。ポイントは、ただ事実を記録するだけでなく、そこから感じたこと、連想したこと、考えたことを言語化するというプロセスにあります。
5つのステップ(書籍の要約)
ファクト(事実)を書く
今日あった出来事、見たもの・聞いたもの・読んだものを客観的に記録
抽象化する
その出来事から、自分が感じた共通点やパターン、法則性を考える
転用(応用)する
その法則・共通点をほかの場面や自分の課題にどう活かせるかを考える
行動に落とし込む
実際に何をやってみるか、具体的なアクションプランに落とし込む
振り返りと再評価
行動してみた結果、また新たな気づきをメモし、次のステップに進む
これらのステップは、マーケターが「自分=ユーザーの一人」としての体験を深く観察し、その背後にある心理(インサイト)を探るのに非常に役立ちます。
メモを活用したインサイト発見のプロセス
「自分が日常で何かを購入したり、SNSに投稿したり、映画やドラマを選んだりする時、どんな心理やきっかけがあったのか?」――これを“他人事”ではなく“自分事”として記録してみると、多くの発見があります。以下のフローを参考にしてください。
日常の行動を細かくメモする
行動の理由・背景を言語化してみる
抽象度を上げ、ほかの行動にも共通しそうな“心理パターン”を見つける
業務で扱う商品・サービスに転用してみる
具体的エピソード1:コンビニスイーツを“つい買ってしまう”心理
ステップ1:ファクト(行動)をメモ
事実:仕事帰りにコンビニに寄った際、予定になかったスイーツ(チョコレート系の新作商品)を購入。
状況:疲れていて、甘いものが欲しい気分だった。
ステップ2:抽象化(なぜその行動を取ったのか?)
スイーツを買った大きな理由は「今日は頑張ったし、ちょっとした“ご褒美”が欲しかった」
「新作」という言葉に惹かれ、“期間限定”という希少性が付与されていた
ステップ3:転用(この気づきをどう応用できるか?)
“自分へのご褒美”という心理が働く場面は、他にもあるのでは?
例:疲れた時の入浴剤やアロマグッズの販売
例:自分を高める学習サービスも「ご褒美感」を打ち出せるかもしれない
ステップ4:行動(次のアイデア)
「新作・期間限定」×「ちょっと贅沢」→ 顧客に「今日だけは自分を甘やかしていい」という心理を刺激する施策を企画できないか?
SNS広告のコピー:『一日頑張った自分に、ご褒美を。』
売り場のPOPで「残り○日だけの限定販売!」と希少性をアピール
この例のポイントは、「なぜ自分はコンビニで急にスイーツを買う気になったのか」をメモとともに考察することで、**“ご褒美需要”や“希少性への弱さ”**といった、心理トリガーを再発見できる点です。これは自分だけでなく多くの消費者にも当てはまる可能性があり、マーケティング施策の原石になります。
具体的エピソード2:スタバの“カスタマイズ”に惹かれる理由
ステップ1:ファクト
事実:スターバックスに行ったら、新作フラペチーノをさらにカスタマイズ(ソース追加など)して注文。
状況:友達と一緒に行き、「期間限定」のポスターを見て、面白そうだと思った。
ステップ2:抽象化
なぜカスタマイズしたか?
周りとちょっと違うものを試してみたい(他人との差異化)
友達がやっているから、自分も試したい(ミーハー心理)
インスタやSNSに投稿するとき「特別感」がある
ステップ3:転用
多くの消費者は「アレンジする楽しさ」や「SNS映えする特別感」を求めている
「自分だけの◯◯を作る」体験は他の商品やサービスでも応用可能では?
例:アパレルでの“刺繍サービス”や、“好きな色を選べる”カスタムオーダー
例:飲食店の“セルフトッピング”スタイル
例:旅行プランの“自由に組み合わせられる”オプション企画
ステップ4:行動
自社商品・サービスで、“顧客が自分好みにアレンジできる仕組み”を作れないか考える
新商品を作るより、既存商品に「選べるオプション」を加えるほうがコストを抑えられる
その様子をSNSで共有しやすいキャンペーンを企画する
スターバックスでは、商品自体の魅力もさることながら、**“あなただけの一杯を作る楽しみ”**を演出しているのが大きな特徴といえます。自分が体験したときのワクワク感をメモすることで、その根底にある心理動機を再確認でき、他の業界への転用アイデアも得られます。
具体的エピソード3:オンラインセミナーや勉強会で“目が離せなくなる”瞬間
ステップ1:ファクト
事実:YouTube LiveやWebinarに参加していたが、最初はながら視聴だったのに、ある瞬間から集中し始めた。
状況:ちょうど講師が「ここだけの話ですが…」と言ったタイミング。
ステップ2:抽象化
“ながら視聴”状態から意識が切り替わった要因として、**“排他性”“希少性”**がキーワードになった
「ここだけの話」というフレーズが、「これは他では聞けない特別な情報かもしれない」と期待させた
人は“秘密”や“限定情報”に興味をそそられる心理を持つ
ステップ3:転用
顧客の興味を一気に引きつけるためには“限定感”や“秘密の暴露”を演出すると効果的
例:メルマガで「登録者だけに先行公開する情報」を提示
例:SNSライブ配信で「視聴者限定のキャンペーンコード」を配布
例:オフラインイベントで「来場者だけが聞ける裏話」があるとアナウンスする
ステップ4:行動
実際に自社のWebinarやオンライン配信のとき、最初の数分で「ここだけの裏話を用意しているので最後まで見てください」と予告し、離脱率を下げられないか試す
このように、自分が「なぜ集中モードに切り替わったのか」をメモするだけで、**“限定感”や“特別扱い”**という人間の心理を可視化できます。これこそ、マーケティングで活かせるインサイトです。
メモ習慣を続けるコツ
ツールを限定しすぎない
紙のノートでもデジタルでもOK。出先ではスマホにメモし、家ではノートに貼り付けるなど自分に合ったスタイルを。
思いついたらすぐ書く
後でまとめようとすると忘れがち。何か感じたら、その場でキーワードだけでも記録。
1日数行でもいいから継続する
毎日30分、と決めるとハードルが上がる。まずは1日1回、印象的な出来事を書くだけでもOK。
定期的に読み返して抽象化・転用を意識する
メモを溜めっぱなしにせず、週末や月末に見返してパターンを探し、アイデアに結びつける。
メモが“マーケターの感度”を上げる理由
自分自身がユーザーとして何を感じているかを客観視できる
「なぜあのCMを見て興味を持ったのか」「なぜあのSNS投稿をシェアしたのか」など、自分が顧客役として得た感情を掘り下げると、他のユーザーにも当てはまる心理が見つかる。
視点を増やすことで、アイデアの“ネタ帳”がどんどん蓄積される
普段からメモを取り、抽象化・転用を繰り返すと、特定の業界だけでなく幅広い分野で応用できるヒントが自然と蓄積。
ジョブ理論や4P、STPなどのフレームワークと紐づけしやすくなる
メモに蓄えた具体的事例を、フレームワークのどこに当てはまるか考えると、理論の理解や使いこなしにも深みが出る。
“メモの魔力”でインサイトを引き出す際の注意点
事実(ファクト)と感想を分けて書く
「起こったこと」と「そこから感じたこと」を分けると、分析しやすくなる。
仮説を急いで結論づけない
インサイトを見つけたつもりでも、実際には別の要因が大きかった場合もある。
大きな施策に落とし込む前に、小さくテストしてみることが重要。
他人の意見やデータも交える
自分個人の心理だけでなく、SNSや周囲の友人・同僚の反応も取り入れると、より客観性が増す。
まとめ:日常に埋まっている“顧客心理”を見逃さない
日常をじっくり観察し、メモによって“自分が感じていること”を抽出・分析する習慣は、マーケティングのインサイト発見に直結します。大掛かりな調査を行わずとも、自分自身が顧客になったときの行動こそが生々しいヒントの宝庫です。
コンビニでの衝動買いが、実は“自分へのご褒美”という心理に基づいている
スターバックスでカスタマイズする体験が、“特別感”“SNS映え”への欲求を満たしている
オンライン配信で急に集中するのは、“ここだけの限定情報”に敏感に反応したから
こうした気づきを日々メモし、抽象化してから自分のマーケティング施策に転用する――これこそが「メモの魔力」が真に活きる使い方です。最初はほんの少しずつでも構いません。ちょっとした気づきを書き留めるだけで、1週間・1か月・1年と続けるうちに、自分の中に「顧客心理を見抜くレンズ」が育まれていくはずです。
これを合言葉に、まずは今日、スマホや手帳に数行だけでもメモを取ってみてください。そこから広がる新たな発見が、マーケターとしての成長を大きく後押ししてくれるはずです。
実践することで得られる“解像度”の高まり
理論を知っているだけでは、成果は出せません。実際に手を動かし、仮説を立て、検証し、数値やフィードバックを得るプロセスを通じて初めて「使える知識」へと変わります。これはマーケティングに限らず、あらゆるビジネススキルに共通する鉄則です。
アウトプットの例
広告運用:テキストやクリエイティブを変えてABテストを行う
SNSマーケ:ハッシュタグや投稿タイミングを工夫してエンゲージメントを測る
ライティング:SEOや読者の反応を見ながらタイトルや構成を変えてみる
失敗も含めた実践のプロセスでしか得られない“肌感”があり、それが「本当に顧客は何を求めているのか」を体感的に学習する源泉となります。
『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』とは
特徴的なポイント
顧客起点マーケティング
会社都合ではなく、常に“顧客の欲求・心理”を出発点に考える。
“たった一人”でも始められる
大規模な組織や研究開発費がなくても、小さなチームや個人であっても“顧客起点”を実践すれば成果は上げられる。
現場レベルの具体的プロセス
アンケートの設計からインタビューの取り方、仮説検証サイクルの回し方など、細かな手順が書かれている。
実際に書籍のなかでは、マーケターが小さな単位で仮説検証を繰り返しながら事業を成長させる方法が数多く紹介されています。特に「顧客起点」を貫くための具体的なやり方が、初心者にも理解しやすい構成になっているのが魅力です。
顧客起点マーケティングを実践する仮説検証サイクル
「顧客起点」を意識した仮説検証サイクルは、下記のような流れで進みます。これは書籍の内容を私なりに再整理したプロセスです。
仮説の出発点として“顧客の声”を拾う
顧客心理を掘り下げて“課題(ジョブ)”を推定する
小さくテストして“検証指標”を測る
結果を振り返り、新たなインサイトを得る
次の施策・改善に反映する
ポイント
大規模調査や高額なコンサルタントに頼るのではなく、“自分の足で顧客に会い、自分の手でデータを整理”することが重視されている。
社内のいろいろな部署を調整するのは大変でも、「まずは自分(たった一人)で情報を集めて小さく実験する」というスタンスで突破口を開ける。
「顧客の声」を拾う具体的な方法
書籍では、アンケートやインタビュー、SNS解析など、さまざまな情報収集のやり方が紹介されています。初学者にもわかりやすい代表的な手法をいくつか例示します。
店舗やイベントでのインタビュー
目的:リアルなお客様の声を聞く
やり方:
簡単なヒアリングシートを用意する(3~5問程度)
試飲・試食・体験コーナーなどのスペースを作り、その場で感想を聞く
「どう感じたか」「なぜ選んだか」を掘り下げる
ポイント:数字だけでなく、表情や反応の変化、話のトーンからもインサイトを探る
具体例:地方の特産品PRイベント
状況:新しく開発した“地元フルーツを使ったゼリー”を紹介したい
インタビュー例:
「甘さはどうでしたか?」 → 甘すぎるかもしれない
「どのタイミングで食べたいですか?」 → おやつとして、甘いものがほしい午後
「普段のゼリーと比べてどう感じますか?」 → 地元らしさが伝わるともっと買いたくなる
ここで顧客から「地元感が伝わりづらい」という声があるなら、それを仮説として後述の施策設計へ活かす、という流れになります。
SNS上の口コミ解析
目的:広範囲にわたるリアルな意見を効率よく収集
やり方:
TwitterやInstagramでブランド名・商品名・競合名などのハッシュタグを検索
レビューサイトや掲示板(価格.com、Yahoo!知恵袋など)をチェック
定量分析(言及数、ポジネガ比率)+定性分析(どんな感情や言葉が多いか)を組み合わせる
ポイント:SNSは“顕在化した声”が中心だが、インサイトを読み解くヒントが多い
具体例:新発売のコスメ商品
SNS検索してみる:
「#ブランド名 + 感想」「#ブランド名 + 口コミ」などで検索
「色落ちが少ないのがいい」「でも塗った直後はベタつく」など具体的な不満・満足点が浮かび上がる
収集した声の活かし方:
顧客が感じている“ベタつき”への不満 → 「さらさら感」を訴求する広告コピー案へ転用
「コスパが良い」と感じる人が多い → 他の高価格帯コスメと比較するときの素材にする
顧客心理を掘り下げて“課題(ジョブ)”を推定する
『たった一人の分析から事業は成長する』でも強調されているのは、「顧客がなぜその商品を手に取るのか? どんな目的(ジョブ)を果たしたいのか?」を問う視点です。これは、ジョブ理論とも親和性が高い考え方です。
課題仮説づくりの具体的ステップ
顧客の声をグルーピング
似たような不満や喜びの表現をまとめる
その裏にある本音・目的を言語化する
「ベタつくのが嫌」と言っている人 → 実は“使用感”を最優先する顧客層がいるのでは?
顧客の行動パターンを想像する
「どういうシーンで使うか?」「他社商品とどう使い分けているか?」
それらを“顧客のジョブ”として整理
例:コスメであれば「忙しい朝でもパパッと仕上げたい」「時間が経っても化粧崩れが少ないようにしたい」など
具体例:オンライン英会話サービス
顧客声のグルーピング:
「忙しくても1レッスン25分なら継続しやすい」
「ネイティブスピーカーに慣れたいけど、留学はできない」
課題(ジョブ)推定:
「海外留学できない代わりに自宅でも本格的に英語を身につけたい」
「短時間で効率よく会話練習をしたい」
このように顧客の声をベースに想像をふくらませ、「顧客が果たしたいジョブ」を仮説として立てます。
小さくテストして“検証指標”を測る
書籍のなかでは、限られたリソースでもまず“スモールスタート”で施策を試す大切さが解説されます。大きな予算をかける前に、簡易テストで効果を確かめるのが「たった一人でも実践できる」マーケティングのポイントです。
具体的な“スモールテスト”例
LPのABテスト
目的:ターゲットが求める訴求ポイントは何かを検証
指標:クリック率、コンバージョン率
内容:
LP Aパターン:機能的なメリット重視(例:料金やスペック一覧)
LP Bパターン:顧客ストーリー重視(例:成功事例や使用シーンのイメージ)
観察:どちらがCVR(成約率)または問い合わせ率が高いか? なぜそうなったか?
SNS広告を2パターン出してみる
目的:顧客がどんな“言葉”に反応するか確かめる
指標:クリック率、反応コメント数
内容:
パターンA:価格の安さを強調 →「今なら50%オフ!」
パターンB:ジョブ起点の価値訴求 →「忙しくても25分で英会話上達」
観察:どの層がクリックしている? コメント内容はどう違う?
具体例:サブスク型健康ドリンクの広告
仮説:「健康志向」と「忙しいビジネスパーソン向け」が魅力になりそう
テスト:広告クリエイティブを2タイプ用意
A:栄養成分を数値化して“いかに健康か”を訴求
B:“朝の時短”をイメージし、通勤前にサッと飲めるシーンを演出
評価:
Aがクリック率は高いが、購買率はBのほうが高い → なぜか? “時短”のジョブに反応している顧客が多い?
結果を振り返り、新たなインサイトを得る
『たった一人の分析から事業は成長する』で重要視されているのが、テスト結果の振り返りを丁寧に行うことです。成果が出ても出なくても、「なぜそうなったのか?」を深く考えて、次の施策の改善材料にするプロセスこそが“顧客起点マーケティング”を育てるカギです。
数字だけでなく“実際の声”と付き合わせる
数値分析:CVRや離脱率を見て、「どの段階で何人離脱したか」を把握
顧客の声(アンケート、SNSコメ):なぜ購入を決めたか/なぜやめたか
具体例:オンライン英会話のABテスト結果
数字の結果:
AのCVR:2.0%、BのCVR:2.7% → Bが優位
質的な声:
Aは「料金が分かりやすくメリットはあるけど、自分に合うかピンとこない」
Bは「使い方のイメージが湧きやすく、これは自分に向いていると感じた」
→ 結論:顧客は“具体的な利用シーン”を見て「自分が使ったらどうなるか」を判断する傾向が強い。よって今後はBのアプローチを強化しつつ、料金比較も分かりやすく補足するとさらに効果が上がりそうだ……という具合に次の施策が見えてくるわけです。
次の施策・改善に反映する
最後に、「次のアクションをどう組み立てるか」が仮説検証サイクルの着地点となります。成功パターンが見えたら、それを組織に広げたり、予算増を提案したり、広告展開を全国に拡大したり。逆に失敗や不明点が残れば、再度仮説を修正しながら追加テストを行います。
成功パターン → 組織に共有 → スケールアップ(広告予算アップ、キャンペーンの大規模実施など)
不明点が残る →「なぜうまくいかなかったのか?」を再度顧客の声を拾って考察 → 別の仮説で再テスト
書籍では、こうした“泥臭い繰り返し”を遠回りと思わず、“たった一人”でも積み重ねることが事業全体を変革し得る大きな力になると繰り返し説かれています。
初心者が取り組む際のポイント
大きな目標をいきなり立てすぎない
書籍が強調するように、「スモールスタート」が大切。
まずは小さな成功体験を積み、それを社内で共有して、少しずつ影響範囲を広げる。
部署の垣根を超えられないときこそ「たった一人で始める」
組織体制の変更や予算申請には時間がかかる。
しかし「顧客に直接会いに行ってみた」「SNSデータをExcelで集計してみた」程度なら、個人レベルでできる。
小さく始めた結果が出せれば、周囲の協力を得やすくなる。
“顧客起点”を合言葉にする
「自分は顧客の声をもとにこんな仮説を立てている」というスタンスを持ち続けることで、社内の調整でも「顧客が欲しいと言っているから」という明確な根拠が提示できる。
単なるアイデアや思いつきではなく、“顧客起点”であることが説得力の源になる。
まとめ――小さな一歩が大きな変化を生む
『たった一人の分析から事業は成長する 実践顧客起点マーケティング』で学べるポイントは、以下のように整理できます。
顧客の声を徹底的に拾う
インタビューやSNS解析など、使える方法は何でも試して“生の情報”を収集する。
顧客の本音(ジョブ)を推定し、仮説を組み立てる
「なぜそう感じるのか?」「どんなシーンで使うのか?」など深堀りする。
小さなテストを繰り返し、数字と声を照らし合わせる
スモールスタートでリスクを低減しつつ、本当に有効な訴求ポイントを探り当てる。
成果を基に、次の施策や組織への提案につなげる
小さい成功体験を大きな提案に昇華させる。
初心者の方ほど、「大掛かりな市場調査ができない」「社内で権限がない」「予算も人手も足りない」と悩みがちです。ところが、この書籍で示されている実践例からわかるのは、“一人からでも始められる顧客起点マーケティング”が十分に成果を生み得るということ。
ぜひ、マーケティング担当者として迷いがあるときや、どこから着手していいかわからないときに、本書の事例やプロセスを参考にしてみてください。大げさな施策に走る前に、まず“たった一人”でも顧客の声を集め、仮説を立てて、小さく検証する。その積み重ねが、やがて事業を大きく成長させる原動力となるでしょう。
第3ステップ――より効率よく問題を解く(組織を動かす)
なぜ組織を動かす力が必要なのか
マーケティング施策を一人で完結させられる企業は稀です。実際には「広告予算を承認してもらう」「制作チームや開発チームとの協働が必要」「営業部門と連携しないと顧客接点が不統一になる」など、社内外の多くの人たちの協力が欠かせません。
ここで重要なのが、数字で語る力とチームビルディングです。どんなに素晴らしいアイデアや顧客インサイトがあっても、それを社内稟議や予算確保につなげられなければ「絵に描いた餅」で終わってしまいます。
数字で語る――戦略は「目的」と「資源」でできている
目的を設定する
例:半年後までに新商品で月間売上を1.2倍にする
なるべく数値化されたKPI(重要業績指標)を設定する
資源を配分する
組織全体の人的リソース(人員、スキル)、予算、時間をどう割り当てるか
どの施策を優先すべきか、どの施策は後回しにすべきかを判断する
私が強調したいのは「マーケターこそ、“資源配分”に関心を持とう」という点です。広告費やクリエイティブ人材、システム開発など、どれも“お金”と“人員”が必要になります。組織を動かすとは、言い換えれば組織の資源を最大化することでもあるのです。
組織を動かすためのチームマネジメント
THE TEAMで学ぶ「5つの法則」
心理的安全性の確保
目標やビジョンの明確化
役割分担と強みの活用
健全な対立と建設的なコミュニケーション
成果を正しく評価し、次の成長につなげる
これらはどれも当たり前に思えますが、実際に現場ではうまく運用できないケースが非常に多い。それは、リーダーシップや管理職だけの仕事ではなく、一人ひとりのメンバーが意識をもつ必要があるからです。マーケターとして「プロジェクトのまとめ役」を担う場面も多いはずですので、これらのチームビルディング要素を学んでおくと、プロジェクト成功率が大きく変わります。
数値化仕事術(孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術)
提案するときは「どれだけ利益や売上が伸びるか」を明確に数字で示す
数字が定性的にならないよう、根拠となる計算式やデータも提示する
「インサイトの根拠」としての質的データ(顧客インタビューなど)も組み合わせる
マーケターは「クリエイティブさ」を注目されがちですが、実は数値分析や論理思考といったサイエンス要素が非常に大きい領域です。両輪がそろってこそ、効率的に問題解決が図れるわけです。
第4ステップ――応用問題を解く(経営視点を取り入れる)
マーケティングと経営戦略の違い
「マーケティングは短期的に成果を出す施策にフォーカスしがちで、経営戦略は長期視点を持つ」というのが大まかな違いです。ただし、現代ビジネスでは、マーケティングも中長期でのブランド醸成を考える必要があります。ここで大事なのは、
という点です。経営は「次の四半期の売上拡大」だけでなく、「3年後・5年後に市場がどう変化するか」「自社の競争優位をどう維持するか」を考え、組織が進むべき方向性を描きます。
経営戦略の基本フレームワーク
PEST分析:政治(Political)・経済(Economic)・社会(Social)・技術(Technological)の4つの観点からマクロ環境を分析する
5フォース分析(5Forces):新規参入の脅威、既存競合の強度、代替品の脅威、買い手・売り手の交渉力
バリューチェーン分析:自社の内部活動を分解し、どこに競争優位性を生み出す要素があるかを探る
こうしたツールは、MBAでも定番中の定番ですが、マーケティング部門にいる人でも学んでおくべきです。特に、これらのフレームを踏まえたうえで「この市場は今後どのように発展するか」を捉える力があれば、どのようなプロモーション施策を優先すべきか、どんな商品ラインナップが必要かなど、上位概念から組み立てられるようになります。
参考になる書籍やサービス
グロービス学び放題(経営戦略講座)
PEST分析や5フォース分析など、典型的なフレームワークから実践事例まで網羅的に学べる。
マイケル・ポーターの競争戦略
ポーターの「競争優位の戦略」は、企業が中長期的にどう収益をあげ続けるかという視点の教科書的存在。
古典ではあるが、いまでも基本となる考え方が詰まっており、理解しておくと他の戦略論の吸収力が高まる。
企業分析・マーケティングトレースの活用
ニュースやIR資料を読み解く
自社だけでなく競合他社や他業界の成功事例を研究する
ニュースを読んで「自分ならこの戦略をどう活かすか」と考えるクセをつける
NewsPicksなどで他の人の議論を見るのも有効。自分の解釈と比べることで思考が深まる
マーケティングトレース(黒澤さん考案)とは
任意の企業を選び、その企業が「どんなマーケティング戦略をとっているか」を、STPや4Pなどを使って仮説を立てながら“トレース”してみる手法
自分で分析する → 実際の企業の施策と答え合わせする → 自分の考えをアウトプットする
こうしたアウトプットは、そのまま自分の「ポートフォリオ」や「知見集」にもなり、周囲にも「こいつ、ちゃんとマーケティング考えてるな」と評価されやすくなります。インプットだけで終わらせないよう注意しましょう。
具体的学習ルートまとめ――全体のおさらい
ここまで膨大な内容をお伝えしてきました。最後に、初心者~中級者がマーケターとして力を付けるための一連の学習ルートを、ポイントを整理してまとめます。
マーケティング基礎理論(公式)を覚える
STP、4P、ブランディング概念を徹底理解
おすすめ:MBAマーケティング、ドリルを売るには穴を売れ、USJを劇的に変えた~、選ばれ続ける必然
顧客理解と問題解決(問題を解く)
インサイトを探る力、ジョブ理論の活用
小規模でも実践し、ABテストや検証を繰り返す
おすすめ:ジョブ理論、たった一人の分析から事業は成長する
組織を巻き込み成果を拡大(効率よく問題を解く
数字による説得、チームビルディング・プロジェクト推進のノウハウ
おすすめ:なぜ「戦略」で差がつくのか、孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術、THE TEAM
経営視点を取り入れた戦略設計(応用問題を解く)
PEST、5フォース、バリューチェーンなどの経営戦略フレームを使う
おすすめ:マイケル・ポーターの競争戦略、グロービス学び放題(経営戦略)