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猶太人対策要綱

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今回は猶太人対策要綱について書きたいと思います。

杉原千畝のビザ発給

リトアニアの外交官であった杉原千畝がナチスの迫害から逃れるユダヤ人難民に対して日本通過ビザを発行したのが1940年7月9日です。

ロシア政府がその運営に関わっているロシアのメディア媒体であるSputnikは杉原千畝が日本政府の命令に反して、ビザを発給したと伝えています。これに対するコメントからユダヤ人対策要綱というものの存在を知りましたので、少し紹介します。

故渡部昇一氏と馬渕睦夫大使の対談で、この件に関して詳細に議論されていますので参考になればと思います。

外務省ユダヤ難民取り扱い規則

文章がカタカナになっていますので、そこだけ現代調に直します。猶太避難民ノ取扱方ニ関スル訓令は昭和13年(1938年)10月10日に発送されています。対米英宣戦布告(12月8日)のおよそ2か月前の出来事です。

⬛猶太避難民ノ取扱方ニ関スル訓令

文書課発送 昭和13年10月10日 発送済
主管:アメリカ局長 主任:第三課長 昭和13年10月5日起草
米三 機密 合 第1447号 昭和13年10月7日
受信人名 宛先末尾記載の通り 発信人名 近衛外務大臣
件名:ユダヤ避難民の入国に関する件

ドイツおよびイタリアにおいてはユダヤ人を排斥しつつあり、かつそのほかの諸国も彼らの入国を好まざるもの少なからざる結果、最近関係在外公館よりの報告に徴すに、これらユダヤ人にして我が国に避難し来らんとする者漸次増加の傾向あるの趣なるについてはゆか対策に関し過般当省、内務および陸海軍各省係官会合協議の結果、我が盟邦の排斥により外国に避難せんとする者を我が国において許容することは大局上面白からざるのみならず、現在事変下にある我が国の実情は外国避難民を収容する余地なきをもってこの種の避難民(外部に対しては単に「避難民」の名義とすること、実際はユダヤ人避難民を意味す)の本邦内地ならびに各植民地への入国は好ましからず(ただし通過はこの限りにあらず)とのことに意見の一致を見たるにつき右の御含みの上今後これら避難民に対してはわが国の現行外国人入国令第一条二列に記せる範囲内の理由の下に本邦渡来阻止方しかるべき御措置相成りたく、従って①この種無国籍避難民に対しては今後すべて渡航証明を発給せざること、ただし単に我が国を通過するにとどまる者に対しては行先国の入国手続きを完了しており250円以上の提示金を到着の際所持する者に限り、通過渡航証明書の発給は差し支えなく、また②我が国と査証相互廃止の取極ある国の国籍を有するこの種避難民に対しては今後本邦入国に関し貴館に何ら願出などありたる際は査証を与えざるはもちろん何らの証明書をも発給せず、本邦渡来を断念せしむるよう説示の方御取り計らいありたく、また③右以外外国籍を有するこの種難民に対しては今後すべて査証を与えざるようしかるべきお取り計らい相成りたく、尚本内訓はユダヤ人に対し、特別の手段を講じたるものにあらず、現行外国人入国令の範囲に於いて措置するものにして外部に対し何らこれを発表しいらざるにつき右の様御含み相成りたくこの段申進す。

本信送付先    在外各公館長

内容はすべての外国人と同じように特別な待遇をしないといった程度の内容とも解釈できますが、近衛を始めとする各省の大臣はあまりユダヤ人難民を快くは思っていなかったと見ることも確かにできると思います。

このような訓令に対して日本の各国大使館は、本国に再考するように求めます。

猶太人対策要綱

この要綱は対米英宣戦布告の2日前の1938年12月6日のものとなります。ここでもカタカナ表記のものがありますので、現代調に修正します。

ユダヤ問題の専門家である安江仙弘が陸相板垣征四郎に働きかけたことによって策定されたとされています。いくつか著作を紹介します。

『猶太国を視る』昭和5年
『革命運動を暴く:ユダヤの地を踏みて』昭和6年
『ユダヤ民族の世界支配?』昭和8年
『猶太の人々』昭和9年

ユダヤ人とフリーメイソン、共産主義、シオニズム運動との関係なども詳細に分析されていますが、開戦前夜に猶太人対策要綱を成立させるのに動いている点を見ても、ユダヤ人の一部勢力による革命運動を詳細に知った上で、ユダヤ人難民に対して同情的な役割を果たしたという点は、現代の私たちも知っておく必要があると思います。

以下でいう五相会議は内閣総理大臣・陸軍大臣・海軍大臣・大蔵大臣・外務大臣の5閣僚による会議のことです。

⬛猶太人対策要綱

ユダヤ人対策要綱 昭和13年12月6日付 五相会議

ドイツ・イタリア両国と親善関係を緊密に保持するは現下における帝国外交の枢軸たるをもって盟邦の排斥するユダヤ人を積極的に帝国に抱擁するは原則として避けるべきも、これをドイツと同様極端に排斥するかごとき態度に出るのは唯に帝国の多年主張し来れる人種平等の精神に合致せざるのみならず現に帝国の直面せる非常時局において戦争の遂行特に経済建設上外資を導入する必要と対米関係の悪化することを避けるべき観点より不利なる結果を招来するおそれ大なるに鑑み左の方針に基づきこれを取り扱うものとす
方針
①現在日・満・シナに居住するユダヤ人に対しては他国人と同様公正に取り扱い、これを特別排斥するかごとき処置に出ることなし
②新たに日・満・シナに渡来するユダヤ人に対して一般に外国人入国取り締まり規則の範囲内において後世に処置す
③ユダヤ人を積極的に日・満・シナに招致するか如きはこれを避け、ただし資本家、技術家のごとき特に利用価値あるものはこれに限りにあらず

あくまでも日本の国益を重視した上で、差別することなくユダヤ人を取り扱うことを対米英宣戦布告の2日前にまとめたというのは興味深く思います。

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