映画「HELLOWORLD」時系列と真相推定 ※ネタバレ含む
今日見てきた映画なのですが、既に記憶が少しあやふやなのでダメかもしれません。
平日にも関わらず映画を見に行ってきました。その名も『HELLOWORLD』。
本作をの脚本を務めている野﨑まど先生に憧れてワナビをしているもので、とても楽しく見ることが出来ました。簡単にあらすじを説明しておくと、主人公、肩書直美の下にカタガキナオミと称する未来の自分が現れて、大変なことに~!? みたいな感じなんですが、詳しくは映画を見てください。
映画の評価を眺めてみても「難解だ~!」「わかりにくい!」とかとか言われていたんですけれど、個人的にはこの作品の時間軸が理解しにくかったので、なるべくわかりやすくまとめてみようかと思った次第でこのnoteを書いています。
個人的にはこのnoteで作品の可否に触れたいと思っているのではなく、少し気になったポイントがあったのでただただ文字起こしして頭の整理をしたいだけなんです。SF厄介オタクになるつもりもないですし(結果的にはなっているかもしれませんが)、個人的にはこんな感想言われたところで「うるせぇ! 面白ければ何でもいいんだよ!」とか思ってしまう質ではあるのですが、おそらくこれは野崎まど先生から出された挑戦状なのでは? と考えてしまったのでこれを書くことにしました。
ネタバレを避けたい人は見ないことをオススメします。映画館でうわ〜〜ってなった人だけ見てください。
最初っから思いっきりネタバレしますが、本作は2027年の肩書直美のいる世界と2037年のカタガキナオミのいる世界、そして2047年の月面世界の多重世界構造になっています。あと混同を防ぐために人称代名詞をなるべく避けて書いていくので読みにくいかと思いますが、その辺は頑張ってください!(人任せ)
便宜上、2027年を一層目、2027年を二層目、2047年を三層目と称して話を続けます。(ここで振り落とされないでください)
作中に起きた出来事をざっくりとまずは振り返っていきましょう。
1:一層目の肩書直美が二層目のカタガキナオミに騙され、一行さんを二層目に連れていかれてしまう。(魂と器の同期が必要、と言っていた)
2:一層目の世界では、残された肩書君がシステムによって影響を受けた人間だと判断され、追っ手に追われるも、世界ごとのリセットが始まる。
3:二層目の一条さんに一層目の一条さんの魂が入り、二層目で一行さんの目が覚めるも、一条さんは二層目のカタガキナオミを肩書君と違う人間だと区別し、拒絶する。
4:二層目の一条さんが目覚めたことにより、システムが修正を入れようと一条さんに襲い掛かる。
5:一層目の肩書君が三層目から与えられた力で一条さんとカタガキナオミを助ける。
6:なんやかんやあって、一層目の肩書くんと二層目の身体を持った一行さんが二層目からの脱出に成功。この際、アルタスの装置が切られ、アルタスは消失。二人は新しい世界へ。同時に二層目のカタガキナオミが死亡。
7:三層目の世界の肩書直美が見ていた世界だということが明らかに。そこには肩書の復帰を喜ぶ一行さんとそれ以外の研究者の姿が。
~Happy End~
いやぁ~いいお話でしたね。
ではここで前提条件を振り返ってみようと思います。
条件節1:システムによって追われる理由としては、未来から来た人の干渉など、現実とはあり得ない挙動をしているから排除しようとする――というのが、クロニクル京都(アルタス)での判断基準である。
条件節2:脳死した人の魂を近づけて輸送すればその世界で復活する。
さて、これらの条件を踏まえたうえで、実際のHELLOWORLDの世界では何が起こっているのかを考えていきましょう。
まずは事実関係の洗い出しを始めます。
少なくとも事実であり揺るぎようがないものだと言えるのは、第三層での研究員となった一行さんと、倒れている肩書直美の存在です。そして、それに協力していると思われる研究者の方々も印象的でした。
では、第三層の肩書直美が倒れた要因を考えてみましょう。二層目でシステムに追われて脳死になった、と言うのは現実世界においては考えられないので、この線は消去します(後でもう一度触れます)。なので、これは想像の余地の範囲になってしまうのが悲しいのですが、この映画で示されたヒントから考えるに、恐らくは落雷によって脳死となっていた、と考えるのが妥当でしょう。
「おいおい、じゃあ今まで見てきたのは全部茶番じゃねぇかよ~!」と思う人もいるのかもしれませんが、考え方によってはそうです。多重メタ構造が持つ欠点なのでそこを今ここで論うつもりはありません。
話を先へ進めます。
三層目で脳死となった肩書を蘇らせるために、一行は『三層目で用いられているシステム』を駆動します。カギカッコつきなのは、これが一層目―二層目を繋いでいたアルタスと同じと思われる描写がないためです。詳細は後述します。
そして二層目のカタガキナオミは一層目の肩書君から「大事なものを守るためなら動く必要がある(やってみせましょう)」的な心得を獲得し、一層目の肩書君を守るために自らが犠牲になって死んでしまいます。この時点で二層目のカタガキナオミは三層目の肩書に魂として近づいたため、脳死状態から復活したと作中の流れとしては考えられます。
ーーという解釈をすると、三層目の肩書は脳死してしまう前に「大事なものを~」的な考えを持っていた、その上でその心得を手に入れたことで復活したもののだと考えられます。多少無理があるこの解釈は「魂と器」という作中の言葉を言葉のまま鵜呑みにして気持ちだけ近づけばいい、としたものです。
ただし、この解釈を良しとしてしまうと、二層目のカタガキナオミが一層目の一行を死の直前まで引き付けた意味が若干薄れてしまうような気もします。(とはいえ、スピンオフ小説の方ではこの解釈に基づいている、というような意見も目に留まったので、今度小説を読んだら追記するかもしれません。)
別の解釈としては、三層目の肩書が死ぬ直前はビルの屋上で何かしらの事件(二層目で起こったシステムに殺されるようなもの)に遭った上で脳死になっている、というものです。こちらは一層目の一条を踏襲したもので死に至る直前の二層目の肩書を三層目に輸送する、というものです。
こちらの解釈の方が非常にしっくりくるのですが、じゃあ現実世界(三層目)でビルの上で脳死になるような出来事って何!? となる(少なくとも作中では示されていない)ので、恐らくはこの線は無いでしょう。
※追記
原作を読んでみた感想なのですが、死に至る前の記憶と感情が必要だとされていました。(「物理脳神経と量子精神のズレを〜(中略)〜彼女の精神を、事故当時の状況に近づける必要があった」と書かれています。)よって、こちらの仮説が濃厚みたいです。
よって、考えるべきは現実世界(三層目)で脳死状態ではない肩書直美が京都の大階段で脳死に陥ってしまうような状況です。これは一番最後に改めて追記します。
追記 終
さて、現実世界(三層目)では何が起こっていたのか? というところに話を戻したいと思います。
当然三層目は現実世界なので、システムエラーによって人が死ぬことは無く、システムとして記録される前の段階の世界です。なので、三層目の肩書が死んだのは落雷だと考えるのが妥当なわけです。
この時点で思考が堂々巡りを始めました。
なので、別のアプローチから考えてみたいと思います。
三層目は二層目に対してどんな介入を試みたのか。三層目は状況から察するに、脳死状態となった肩書を一行が二層目の肩書の精神を持ってくることによって復活させた、と考えるのが自然でしょう。
二層目のカタガミナオミが一層目の肩書君に対して先生として介入し一行さんを死なせないために、二層目に輸送できるようにしたように、三層目でもそれが行われていたと考えられます。
そしてそれが、一層目の肩書君に与えられたカラスと不思議な力です。
一層目の肩書君はその力を使って、二層目のシステムから一行さんと二層目のカタガキナオミを救います。
そしてそのまま、一層目の肩書君と二層目の身体を持った一層目の心の一行さんは新しい世界へとコンバートされて、多層世界から抜け出したわけです。
――では、一層目の肩書君が二層目で戦っていたシステムって何なんでしょう?
条件節1:システムによって追われる理由としては、未来から来た人の干渉など、現実とはあり得ない挙動をしているから――というのが、クロニクル京都(アルタス)での判断基準である。
そして、二層目のシステムは一行さんを狙っていました。つまり、二層目では一行さんが脳死から目覚める世界線は真実ではない、と考えられているわけです。
逆説的に、三層目では一行さんは2037年の状況では、脳死判定のままとなっていると考えられます。
ところが、一行さんは実際には2047年段階で、2027年に脳死になった肩書君を救うために動いている。少なくとも脳死になっているのは肩書である、ということになります。
ここで矛盾が生まれてしまいました。それを解決するためには、システムに追われる条件である「アルタス」から離れなければいけない――つまり、「アルタス」ではない別の『三層目で用いられているシステム』があったと考えられます。それを裏付けるかどうかは微妙ですが、三層目で脳死から回復した肩書を他の研究者が喜ぶ姿が見られます。研究者ぐるみで別のシステムを稼働させていた、と考えれば不思議ではないでしょう。
なら、どうして第二層に肩書を襲わせる敵――システムを出したのか。
アルタスではないので、正確な再現をする必要がないわけです。正確な再現をしなければならない理由があったとしても、そもそも三層目とは一行が生きている、という時点で違うわけです。
そういう点でも一行が目を覚ました瞬間にシステムが反応する、というのはおかしい――ならば、第二層のカタガキナオミが目を覚ましている時点でシステムに襲われていなければならないんです。
なので、少なくとも第三層で使われているシステムはアルタスとは違う命令系統でエラーを出していると考えられます。
この答えとして用意されているのが、一層目の主人公肩書とそれに付された力なんでしょうかね……。主人公が力を見せ、それでも立ち向かえない敵に立ち向かって、「大事なものを守るためなら動く必要がある(やってやりましょう)」的な心得を第二層のカタガキナオミが受け取ることで、第三層で復活する、と……。原作でも烏の描写に関して、金の羽という異なるものであるような描写がなされています。
ですが、現実世界(第三層)で肩書は落雷によって脳死になっているんですよね。
よく分からなくなり始めたので、次のアプローチに移ります。
第三層で一行は、今までの肩書がしていたような研究者のポジションにいました。つまり、第二層の物語は、肩書と一行を反対にしたものという仮説です。
これなら、第二層で一行――現実世界における、脳死した肩書が目を覚ましたことに対してシステムエラーが起こったことに納得がいきます。とはいえ、それはそれでどうして第三層の一行は直接2027年の肩書に対してアプローチしなかったのか、と言うところに疑問はあるのですが。
僕の考える映画『HELLOWORLD』の感想は一旦こんなところです。スピンオフや原作小説を読んで、分からない部分をもう一度考え直してみたいと考えます。
なるべく推測を除去するような論理を構築しているつもりですが、全然抜けている点も沢山あります。例えば、三層目で肩書が倒れた理由が雷を受けて脳死になった一行を助ける際に受けた傷で脳死になってしまった――なんて言われてしまえば、それはそうかもしれません(ちなみに、この仮説は途中に矛盾が発生してこのnoteからは削除されたものです)。
あくまで僕は野﨑まど先生の大ファンですし、この作品も十分に楽しめました。その上で、この作品を語り合えたら、もっと話し尽くせたら、という考えのもとこのnoteを執筆しているので、映画『HELLOWORLD』を批判する旨は一切ありません。そのあたりはあしからず。
その上で、この感想を見て「いや違う、これはこういう解釈で~」などなどあれば是非ともあれば教えていただきたいです。
こういう解釈の分かれる作品、大好きなんですよね。
少しばかり長くなってしまいましたが(4500字)、ここまでお読みいただいてありがとうございました。
※追記(続) 10/2
途中に書いた追記内容についてより詳細に考えていきます。
二層目の肩書は京都の大階段で死んでしまいます。その際に三層目との輸送が可能になったことに対して、事故当時の魂に近づいた=似た現場になったことに対するアプローチを考えていきます。
三層目(現実世界)でも同じような事故が起きて、肩書が脳死状態になってしまう、ということを前提として(塑逆不可の事実として)考えてみましょう。
その際、三層目では一行がアルタラの研究員と共に喜んでいるため(おそらくは肩書の肩書だと考えられる)、一行は落雷に打たれ脳死になっているという事実はないものだと推測されます。
現実世界ではシステムに襲撃されることはないという結論は上記の記事でも書かれている通りです。
通りなのですが。
そもそもそう考えられる根拠として採択しているのは、【二層目の肩書が二層目を記憶世界だと理解したこと】に基づいています。その上で現実世界にシステムはありえないよな、と僕らの中で勝手に咀嚼していたに過ぎません。
あの出来事が事実として起きていて、三層目の世界は二層目の延長線上だったのではないかーー事実としてシステムと戦っていたのではないか、という可能性に視野を広げていきたいと思います。
少し気になったポイントをあげていきます。原作315ページに「システムによる修復の第一選択はアドレスの確保だ」という文言があります。二層目での終盤戦、どちらかの肩書が消えなければならないシーンです。
アルタラの情報領域は無限であり、無限即ち現実にも干渉が可能である。故に、情報領域がループすることで現実にも影響を及ぼしており、肩書直美が起こした出来事は事実である……と考えることもできるのではないでしょうか、一応このように考えてください、と小説では筋道が建てられていたような気がするので検証だけしてみます。
この仮設の問題となる点は、現実で起きた場合は三層目による、一層目の肩書君へのヘルプ(神の手)がないという点です。
ヘルプがない以上、一層目の肩書くんが二層に上がれるかどうかも不明です。故に、現実世界では肩書君が二層目に上がれない∨一行さんが目を覚ました時点で異物と判定され一行さんが死を迎えていた、ということになります。
よって、この節はほぼないと言ってもいいでしょう。
他にもいろいろ、落雷に肩書が打たれ脳死になったと仮定した場合、どうして三層目では2027年の肩書の再現をしなかったのか、などなど疑問は尽きませんが、おそらくどこかに答えはあると思われます。
なので、「自分はこう思う!」とかあれば、誰か語り合いましょう……。
※肩書ではなく、固書だったらしいです。すみません。