Rの軌跡 第六話「歌うま君(自称)」
歌うま君:ちーす。どうもー〇〇です。
僕:あ、こんちは。今日は来てくれてありがとね。
歌うま君:いえっす。こっちこそ、あざっす。
僕:(緊張してるのかな?)
クラスメイト(女子):F君ありがとね。皆さんもよろしくお願いします。
メンバー:はいよー。
僕:最初少しうちらでやる練習見てもらって、それから歌ってもらってええかな。歌える曲はクラスメイト(女子)さんから聞いてるから。
歌うま君:うぃっす。じゃああそこで座ってますね。
僕らは30分ほど普段通りの練習をした。
世はカラオケブーム。あちらこちらにカラオケボックスなるものができて誰でも気軽にカラオケが楽しめるようになっていた。きっと歌うま君もカラオケに行って「あれ?俺歌うまいんじゃね?」と思って今日に至ったのだろう。だが練習が始まってすぐに彼の表情が曇った。
音量が違いすぎる。
カラオケはあくまでも個人が楽しく歌える場所。普段の生活音に比べれば大きな音である事には違いないが、こっちは生音である。ギターやベースはアンプで大きくしているが、音量の基準はドラムの生音。話し声なんかは全く聞こえない。えげつない爆音なのである。近い将来難聴になる事請け合いなのである。母さん元気に産んでもらった身体を酷使してごめんよ。
そしていよいよ歌うま君の出番がやってきた。表情は引きつっている。だがそれを隠そうと必死である。
曲はユニコーンの「ヒゲとボイン」キーボードがいないのでカウントから入る。爆音スタート。イントロが終わって歌い出し。はいどうぞ、
歌うま君:ぼ、ぼくの、で、すくの、とな、、
歌うま君以外の全員:!?
歌うま君は第一声目から裏返り、自分の発している声が聞こえず、怒鳴り声をあげるもむなしく撃沈してしまった。
我々は途中で止めるのが申し訳なくなり、一応最後まで演奏した。
僕:は、初めての生音やったから、き、緊張したよね。どうだった?
歌うま君:、、、いや。今日は、そのちょっと、
僕:ん?今日はどした?
歌うま君:なんか調子がいつもと違って、、
僕:、、お、おお、そっか。じゃあまた調子のいい日に遊びにおいでよ。
その日以来彼と会うことはなかった。クラスメイト(女子)もばつが悪そうに苦笑いし、彼の名前を出すことはなかった。
ボーカル:そんなに難しいもんかね。歌うの。
僕:あの爆音やからな。自分の声、聞こえへんもん。
ボーカル:俺は最初から何とも思えへんかったで。
僕:その方がおかしいんやって。君には歌の才能があるのだ、我々と一緒にプロをめざ、
ボーカル:はいはい。俺は趣味やって、何回も言うてるやろ。ほな勉強あるから帰るわー。
人っちゅうのはそれぞれやねぇ。音楽で飯が食えたら幸せやって思ってるのは俺だけかー。
その夢は実現することはなかったのだけど、一つひとつの出来事や思い出は自分が必死に生きた証になる。
さあ、文化祭、いってみよーか。ってまだできるかどうかも分かってないやん!こんなことしてる場合ちゃうわ。政治活動にも力入れんと。
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