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調整効果 (moderator) と媒介効果 (mediator)

1. はじめに

会議がonline になって時間が経つけど、ほんとに楽だなぁと思う。

今日はちょうどリサーチの会議があって共同研究者といろいろディスカッションをした。この時間が仕事の中で最も楽しい時間の一つ。

そんな中で、分析結果に関して調整効果と媒介効果の議論があったので今回まとめておく。

2.調整効果とは

統計分析をしていると比較的よく出てくるのが調整効果、というものである。英語だと moderator という。moderate とは英辞郎 (https://www.alc.co.jp/) で検索すると、次のような訳が出てくる。

ここでは動詞の moderate の意味なのだが、見事に適訳はない。だから、学生が論文を読んで moderate の意味を理解するのは非常に難しい。

近い意味は「1. ~を抑える、穏やかにする、加減する」なのであるが、統計学だと上記のような「弱める」効果だけでなく、「強める」効果に関しても moderate と言ったりする

統計学でいうmoderate の意味の肝は「関係性の強弱を変えてしまう」ということである。

例えば、恋人を待たせると怒る、という関係を考えよう。ここでの因果関係は「恋人を待たせる(原因)」→「恋人が怒る(結果)」である。

ところが、時と場合によって恋人を待たせたとしても彼・彼女が怒らない場合があるかもしれない。

例えば、恋人が空腹だったら?

人はお腹がすけば怒りっぽくなるものである。よって、空腹時の恋人を待たせると彼・彼女はいつも以上に怒ってしまうだろう。この「空腹」というのが調整効果を生み出している。つまり、恋人の怒りを増幅させる効果を生み出しているのである。

3.媒介効果とは

一方、統計学では媒介効果というのもある。英語だと mediator という。mediate の意味も確認しておこう。

ここでは「仲立ちする」というのが近い。つまり、二つの変数の「間に入り込む」という意味をmediate という言葉は持っている。

最も卑近な例は「風が吹けば桶屋が儲かる」であろう。
*ことわざの意味は各自でしらべたし。

風が吹くとなぜ桶屋が儲かるのか、と言えば、

1.風が吹く → 2.土埃が舞う → 3. 失明する人が増える → 4.琵琶法師になる人が増える → 5.三味線の需要が増える → 6.三味線を製造するためのネコの皮の需要が増える → 7.猫がたくさん殺される → 8.猫が減ってネズミが増える → 9.ネズミが桶をかじる → 10.桶の需要が高まる → 11.桶屋が儲かる

という論理なのであるが、上記の2. - 10. が媒介変数ということになる。つまり、「風が吹く」と「桶屋が儲かる」の間の因果関係の「仲立ち」をする変数、ということである。

ちなみにネコを殺さなきゃ作れない三味線なんて作る必要ないしこの世に存在してはいけないと思う。

話を戻そう。mediator のポイントは、もともと想定していた因果関係が実は見せかけの関係でしかないよ、ということを指摘している点にある。

これは非常に重要である。

例えば、自分の研究分野で、企業の社会的パフォーマンスと財務業績の関係というのがある。要するに社会に良いことをしている企業は儲かっているのか、というのを研究する分野である。

実際に、社会的パフォーマンスが高い(社会に良いことをしている)企業の財務業績は高い、という関係性は明らかになっているのだが、Surroca, Tribo, and Waddock (2010) の研究では、この関係が無形資産を考慮すると消えてしまうことが明らかになっている。

つまり、社会的パフォーマンスと財務業績の関係は見せかけで、社会的パフォーマンスが高い企業は無形資産(レピュテーションや人的資源の確保など)を高めることができ、その結果、財務業績が高まる、ということを明らかにしたのである。

このように、世の中には相関しているようなものがあふれているが、実は見せかけの相関であるものも多く存在する。つまり、「風が吹けば桶屋が儲かる」関係性を見つけて喜んでいる人がたくさんいる、ということである。

これを見破るためには媒介変数を見つけてその効果を検証する必要がある。

4.英語だと紛らわしい mediator と moderator

で、日本語で調整効果と媒介効果と言えばなんとなく違いが分かりやすい。ところが、英語の論文を読んでいるとこれらが moderator (moderate) と mediator (mediate) と表記されるため、統計学初心者はよくこんがらがる。

研究者でも時々間違ってたりする。

なので、その違いをしっかりと理解しておくことが論文の内容を把握する、分析結果を理解するうえで重要である。

References

Surroca, J., Tribo, J. A., and Waddock, S. (2010) Corporate responsibility and financial performance: The role of intangible resources, Strategic Management Journal, 31, 463-490.

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