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企業の社会的即応戦略とそのプロセス

企業の社会的責任に関しては、主として規範的側面から従来議論されてきた。すなわち、企業はどのような存在であるべきなのか、企業は株主の利潤の最大化のみを考慮すればよいのか、といった点である。しかし、こうした議論は実際の企業の行動に対するインプリケーションが乏しかったといえる。すなわち、どのような時に企業は社会的責任を果たすような行動をとるのか、ということが明らかになっていないのである。こうした反省を受けて、企業がどのように社会の期待に応えるのか、という企業の社会的即応性の議論が行われるようになった (Frederick 1994)。

企業の社会的即応性 (Corporate Social Responsiveness) とは、企業が社会からの圧力に対応するための能力と定義され、社会的責任を果たすために企業がどのように行動するのか、という点に注目する。例えば、高岡 (2005) は、企業の社会的即応性の議論において、個別企業組織を対象に社会からの諸所の責任要請への応答や正統性獲得の手法を議論するものであると述べている。この意味で、企業の社会的即応性は社会への対応や正統性の確保をするという目標を達成するための戦略と大きく関係している。

それでは、具体的にどのように企業は社会からの期待に応える行動を起こすのだろうか。どのようにすれば社会からの要請に対応できるのだろうか。この点に関して、Wood (1991, 2010) は社会的即応プロセスとして以下の三つを提示している。

第一に環境スキャニングである。これは、企業の社会的、政治的、法的、倫理的環境を理解し分析する上で必要な情報を集めることを意味する。すなわち、企業が社会の期待に応える上で、どのようなことが求められているのかを特定する必要があることを示している。

第二のプロセスはステイクホルダー・マネジメントである。企業はステイクホルダーとの関係の中に埋め込まれている存在であり、積極的かつ建設的なエンゲージメントを結ぶことが求められる。

最後に、イシュー・マネジメントである。イシュー・マネジメントとは、重大な影響を及ぼす社会・政治的問題を企業が識別・分析し、行動できるようにする一連のプロセスであり、企業が取り組むべき問題を識別するためのプロセスと言える。

こうした三つのプロセスをどの程度企業が行うのか、すなわち、企業がどの程度社会の期待に応えようとするのかは大きく四つのタイプに分けて考えることができる。すなわち、社会の期待に対する企業の対応を、反応型 (Reactive)、防衛型 (Defensive)、協調型 (Accommodative)、そして先行型 (Proactive) の四つに分類することができる (Carroll 1979; Clarkson 1995)。

反応型の企業は社会からの期待や社会・環境問題に対して、責任を負う必要がないと考える。このような企業は、例えばそのような社会からの一般的な期待や問題の解決は政府がすべきものであり、企業自体が何らかの行動を起こす必要はないという立場をとる。

一方、防衛型の企業は反応型の企業とは異なり、社会的責任に関しては認めている。一方、社会からの期待や責任に関しては必要最低限の水準のことしか行わず、表面的な対応をする傾向にある。

協調型の企業は責任を受け入れ、社会から求められていることを実行するタイプの企業である。最後に、先行型の企業は社会から現在期待されていることに応えるだけでなく、将来期待されることを予測し、それが何なのかを自ら探求し、実行していく企業のことである。

以上のように、企業は社会からの期待や社会・環境問題に対して一律に対応するわけではない。例えば、ステイクホルダーの顕著さの理論に基づけば (Mitchell et al. 1997; Eesley and Lenox 2006)、企業にとってパワー、正統性、緊急性の高い企業に対して、より積極的に行動するようになるだろう。また、Buysse and Verbeke (2003) は企業の環境戦略とステイクホルダーとの関係性に関する分析を行い、従業員、株主、サプライヤーといったステイクホルダーを重要視している企業ほど、より先進的な環境戦略を採用する傾向にあることを明らかにしている。

さらに、Campbell (2007) は企業が社会的責任ある行動をとる要因として、第一にその企業の経済的要因(企業の業績および市場における競争状況)、第二にその企業を取り巻く制度的環境(国の規制、産業の自主規制、企業を監視する組織の存在、規範的制度環境、労働組合等との関係、ステイクホルダーとの関係)をあげている。

Cambell の主張を裏付ける実証研究もなされており (e.g., King and Lenox 2000; Sharma and Vredenburg 1998; 篠原, 2017)、例えばHoffman (1999) は1962年から1993年におけるアメリカの化学産業の分析を行い、環境問題への関心が化学産業内において高まっていったプロセスを詳述した。とりわけ、1983年から1993年においては、環境問題に対する経営における解決策や経済的な関心と環境問題とを統合することが重要視されるようになったといい、その例としてレスポンシブル・ケア・プログラムがこの時期から産業内で行われるようになったことを指摘し、産業における規範の存在の重要性が示唆されている。

References

Buysse, K., and Verbeke, A. (2003). Proactive environmental strategies: A stakeholder management perspective. Strategic Management Journal, 24(5), 453-470, doi:10.1002/smj.299.

Campbell, J. L. (2007). Why would corporations behave in socially responsible ways? An institutional theory of corporate social responsibility. Academy of Management Review, 32(3), 946-967.

Carroll, A. B. (1979). A three-dimensional conceptual model of corporate performance. Academy of Management Review, 4(4), 497-505.

Clarkson, M. B. E. (1995). A stakeholder framework for analyzing and evaluating corporate social performance. Academy of Management Review, 20(1), 92-117, doi:10.5465/amr.1995.9503271994.

Eesley, C., and Lenox, M. J. (2006). Firm responses to secondary stakeholder action. Strategic Management Journal, 27(8), 765-781, doi:10.1002/smj.536.

Frederick, W. C. (1994). From CSR1 to CSR2: The maturing of business-and-society thought. Business & Society, 33(2), 150-164.

Hoffman, A. J. (1999). Institutional evolution and change: Environmentalism and the US chemical industry. Academy of Management Journal, 42(4), 351-371, doi:10.2307/257008.

King, A. A., and Lenox, M. J. (2000). Industry self-regulation without sanctions: The chemical industry's Responsible Care Program. Academy of Management Journal, 43(4), 698-716, doi:10.2307/1556362.

Mitchell, R. K., Agle, B. R., and Wood, D. J. (1997). Toward a theory of stakeholder identification and salience: Defining the principle of who and what really counts. Academy of Management Review, 22(4), 853-886, doi:10.2307/259247.

Sharma, S., and Vredenburg, H. (1998). Proactive corporate environmental strategy and the development of competitively valuable organizational capabilities. Strategic Management Journal, 19(8), 729-753, doi:10.1002/(sici)1097-0266(199808)19:8<729::aid-smj967>3.3.co;2-w.

Wood, D. J. (1991). Corporate social performance revisited. Academy of Management Review, 16(4), 691-718, doi:10.5465/amr.1991.4279616.

Wood, D. J. (2010). Measuring corporate social performance: A review. International Journal of Management Reviews, 12(1), 50-84, doi:10.1111/j.1468-2370.2009.00274.x.

篠原欣貴 (2017) 「企業の持続可能な発展に向けた行動を促す外部環境要因と戦略的志向」『日本経営倫理学会誌』24, 259-277.

高岡伸行 (2005) 「CSRパースペクティブの転換」『日本経営学会誌』13, 3-16.

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