企業の社会的パフォーマンスと財務パフォーマンス
企業の社会的パフォーマンス (CSP) に関して、広く議論されてきたのが企業の財務パフォーマンス (Corporate Financial Performance, CFP) との関係である。すなわち、良いことをすれば企業は利益を獲得することができるのか、ということである。CSPとCFPの関係に関する研究は古く、1970年代から行われてきた。
しかし、例えばFriedmanのように企業の社会的責任という考え方に否定的な研究者は、CSPが高いことは企業がビジネスとは関係のない無駄な事業に労力を使っているとみなすため、CSPとCFPの関係は負の関係であると予測していた (Friedman 1970)。一方、企業の社会的責任を支持する研究者は、企業が社会的にも良い経営をすれば、それは企業に良い結果として返ってくると主張していた (Carroll 1979)。
こうしたことから、多くの研究者がCSPとCFPの関係性について検証を繰り返してきたが、当初は明確な関係性を見出すことができていなかった (Aupperle et al. 1985; Alexander and Buchholz 1978; Abbott and Monsen 1979)。
例えば、Margolis and Walsh (2003) は1972年から2002年までのCSPとCFPの関係を分析した論文を調査し、そのうち109の研究がCSPを独立変数としてCFPを予測しており、そのうち正の関係があることを示しているのが54、7つの研究が負の関係、28の研究が有意な関係を見出すことができておらず、20の研究が正と負が入り混じった結果を示していたと述べている。一方、同期間において、22の研究がCFPを独立変数としてCSPを予測していたが、16の研究が正の関係を示し、3つの研究が有意な関係を見出すことができず、3つの研究は正負が入り混じった結果を示していたという。
Margolis and Walsh (2003) と同様、CSPとCFPの関係性をメタ・アナリシスによって検証したのがOrlitzky et al. (2003) の研究である。メタ・アナリシスとは様々な論文で行われた過去の統計分析の結果をまとめ、それを用いてさらに統計分析をすることで結果の一般化を試みる手法である。
つまり、Orlizky らは既存のCSPとCFPに関する論文を集め、そこで用いられている変数と結果を使ってCSPとCFPの関係が正なのか負なのかを統計手法によって明らかにしようとしたのである。彼らは52の実証研究の結果をまとめてメタ・アナリシスを実施し、CSPとCFPの関係性が正であることを導き出している。
一方、Margolis et al. (2009) もメタ・アナリシスを実行し、Orlizky らと同様にCSPとCFPの間に正の関係を見出しているが、CSPはCFPの分散のわずか2.23%しか説明していない、ということも明らかにしている。すなわち、企業が社会に対してよいことを行ったとしても、それが財務業績に影響を与える程度は極めて小さい、ということである。
この結果は、企業が社会に対して責任を認め、そのために行動することは、Friedman が主張するように株主利益を棄損するといったことを引き起こすわけではないものの、収益性が高まるから社会貢献すべきだという主張を強く支持するものではないことを示唆している。
すなわち、CSPはCFPを高めるのだ、と強く主張するほどの強い関係性はなく、CSPを高めることはCFPを高める上で害にはならない程度に理解しておくのが妥当と言えるだろう。
References
Abbott, W. F., and Monsen, R. J. (1979). On the measurement of corporate social responsibility: Self-reported disclosures as a method of measuring corporate social involvement. Academy of Management Journal, 22(3), 501-515.
Alexander, G. J., and Buchholz, R. A. (1978). Corporate social responsibility and stock market performance. Academy of Management Journal, 21(3), 479-486.
Aupperle, K. E., Carroll, A. B., and Hatfield, J. D. (1985). An empirical examination of the relationship between corporate social responsibility and profitability. Academy of Management Journal, 28(2), 446-463, doi:10.2307/256210.
Carroll, A. B. (1979). A three-dimensional conceptual model of corporate performance. Academy of Management Review, 4(4), 497-505.
Friedman, M. (1970, September, 13). The social responsibility of business is to increase its profits. New York Time Magazine.
Margolis, J. D., Elfenbein, H. A., and Walsh, J. P. (2009). Does it pay to be good... and does it matter? A meta-analysis of the relationship between corporate social and financial performance. Working Paper. Cambridge, MA: Harvard University.
Margolis, J. D., and Walsh, J. P. (2003). Misery loves companies: Rethinking social initiatives by business. Administrative Science Quarterly, 48(2), 268-305, doi:10.2307/3556659.
Orlitzky, M., Schmidt, F. L., and Rynes, S. L. (2003). Corporate social and financial performance: A meta-analysis. Organization Studies, 24(3), 403-441, doi:10.1177/0170840603024003910.