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日本企業と主要なステイクホルダーの関係:サプライヤー

日本企業とサプライヤーの関係において特徴的なのは、企業系列の存在であろう。企業系列とは、複数の企業が通常の取引関係以外に資本面や生産面で相互に結合している状態を意味する (奥村, 1990)。例えば、製造業者はサプライヤーと閉じた下請け系列システムを構築し、市場を内部化してきた経緯がある。すなわち、サプライヤーが第1次・第2次・第3次と連なるピラミッド構造を形成し、閉じたネットワーク関係を構築していたのである (谷本, 2014)。そして、この閉じたネットワークにおいて、日本企業は長期的な取引を行っており、企業間での信頼関係が重要であることが示唆されている (奥村, 1990)。

企業系列の特徴として以下の四点があげられる (奥村, 1990)。第一に、大企業の専業度が高い、という点である。日本の大企業が経営の多角化を行う際、多くの場合は子会社や関係会社といった系列会社に自社製品の販売や輸送、サービスを行わせる、すなわちアウトソーシングする傾向にある。それゆえ、大企業が様々な事業を担うというよりもある特定の事業に集中するという傾向があった。第二に、企業間の階層性である。すなわち、系列には1次下請け、2次下請け、3次下請けといった階層構造が存在している。第三に、他社の新規参入の困難さという点があげられる。系列企業の階層化が進むと、系列化された分野への他社の参入は極めて難しくなる。一方、下請企業もまた親会社一社だけでなく、複数の企業と取引をするケースが多いが、これはあくまで親会社との系列関係をはっきりさせておいた上での取引であり、決して自由で開放的な関係ではない。最後に、親会社と系列会社との関係が長期的で固定的であることがあげられる。

こうした系列の特徴は日本企業に競争優位をもたらしていた。Dyer (1996) は系列の強みとして、①バリューチェーンにおける共特化 (co-specialization)、すなわち、場所・物的資産・人的資産における特殊性を活かし、調整や情報共有、そして学習という面での競争優位を単一の企業レベルではなく、バリューチェーン全体で獲得していた点、②規模の経済性と協調的特殊化 (cooperative specialization)、そして③信頼やレピュテーションによる取引コストの削減、という三つをあげている。

以上のように、日本企業とサプライヤーは長期的関係を構築することで、バリューチェーン全体としての競争優位を獲得していたのである。

References

Dyer, J. H. (1996). Does governance matter? Keiretsu alliances and asset specificity as sources of Japanese competitive advantage. Organization Science, 7(6), 649-666, doi:10.1287/orsc.7.6.649.

奥村宏 (1990)「日本における企業間関係の特質:いわゆる企業系列について」『産業学会研究年報』6, 1-10.

谷本寛治 (2014)『日本企業のCSR経営』千倉書房.

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