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日本企業と主要なステイクホルダーの関係:株主

日本における企業と株主の関係において特徴として、株式の持ち合いによる企業株主の存在があげられる。株式の持ち合いとは、複数の企業間で株を相互に保有し合うことであり、このような慣行は戦後からすでに日本においては行われていた。また、株式の持ち合いは明確な契約書が企業間で交わされるわけではなく、そこには、株式保有期間に関する暗黙の了解と、議決権行使に関する暗黙の了解が当事者企業間にあるのみであった (加護野, 2011)。

株式持ち合いに期待されている機能としては、リスク・シェアリングがあげられる。すなわち、業績悪化時に持ち合い株を利益捻出に利用することで、会計上の利益を安定化させることができる、というメリットが企業にあった (内田, 2000)。そのほか、流通株の削減効果、株式を持ち合うことでの相互認証機能と相互監視機能が企業にもたらされた。さらに、短期的な視野で企業に圧力をかける株主から企業を防衛する機能や、一般株主のモラルハザード防止という機能があったと言われている (加護野, 2011)。

一方、株式の持ち合いは企業間で白紙委任状がやり取りをされるなど、株主総会の形骸化株主の議決権行使の形骸化を招いてしまうというデメリットがある (谷本, 2014)。さらに、市場における価格形成をゆがめる可能性がある、という点も大きなデメリットである (加護野, 2011)。さらに、株式持ち合いによる相互認証や相互監視が機能するのは株式を持ち合う企業同士が対等の関係を維持することが前提となる。さもなければ、一方の企業が他方の企業を支配する関係となり、株式持ち合いのベネフィットを享受できなくなってしまう (加護野, 2011)。

一方、バブルの崩壊によって多くの日本企業は不良債権問題に直面することになり、このこともまた日本企業と株主の関係に大きな影響を与えた。金融機関の不良債権処理は2000年代になってもあまり進まず、一方で欧米の金融資本がファンド・マネーという投資基金として高利回りの運用を求めて日本の株式市場にも積極的に進出するようになった。こうした背景により、既存の日本企業の株式市場における政策は転換を迫られるようになり、株式相互持合いの解消や持ち株会社制度の容認、M&Aによる企業グループ再編などの流れが押し寄せることとなったのである (小山, 2008)。2000年代における敵対的な企業買収を試みた事例としては、スティール・パートナーズによるブルドックソース社への敵対的TOBやライブドア車による日本放送株の大量取得などがあげられる。こうした事例において、TOBをされた側は、買収防衛策を提示し、TOBを阻止しようと試みている。

そのほか、日本企業と株主との関係を考える上で重要な点は、日本企業の株主資本利益率 (ROE) が諸外国に比べて低い傾向にあったという点であろう。とりわけ、2014年8月に公表された経済産業省の「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」の最終報告書(伊藤レポート)や、米国議決権行使助言会社の低ROE企業の企業経営者への再任反対方針の公表など、近年では日本国内において企業に収益性を意識した経営をすることが求められるようになった (中嶋, 2017)。そして、こうした要求は日本企業へのコーポレートガバナンス改革へと結びつくようになる。

近年のコーポレートガバナンスをめぐる大きな動きには二つある。一つは、金融庁によって策定された日本版スチュワードシップ・コードである。スチュワードシップとは、機関投資家が投資先企業との対話を通じ、企業価値の向上ならびに持続的成長に関わることにより受益者責任を果たすというものである (澤田, 2018)。よって、スチュワードシップ・コードとは、機関投資家が取るべき投資行動の原則としての機能が期待されている。日本版スチュワードシップ・コードには以下の7つの原則がある(金融庁, 2014)。

① 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

② 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

③ 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。

④ 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。

⑤ 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。

⑥ 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。

⑦ 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

もう一つの大きな動きとして、コーポレートガバナンス・コードの導入があげられる (東京証券取引所, 2015)。スチュワードシップ・コードが機関投資家に対する原則であるのに対し、コーポレートガバナンス・コードは上場企業がガバナンスを効果的に行うことができるようにするための原則である。コーポレートガバナンス・コードは5つの原則からなり、①株主の権利・平等性の確保、②株主以外のステークホルダーとの適切な協働、③適切な情報開示と透明性の確保、④取締役会等の責務、⑤株主との対話、によって構成されている。

これら二つのコードは法律ではない。しかし、「遵守せよ、さもなくば説明せよ (comply or explain)」という精神に則っている (植田, 2016)。すなわち、これらのコードに従わない場合は、従う理由を説明するよう求めているのである。企業や機関投資家はこうしたコードに基づいたアカウンタビリティが強く求められるようになっていると言えるだろう。

References

植田敦紀 (2016)「コーポレートガバナンス・コードと株主総会:持続的価値創造に向けた企業と投資家との対話」『専修商学論集』103, 109-129.

内田交謹 (2000)「負債, 株式持ち合い, メインバンク関係と会計政策」『日本経営学会誌』6, 31-43.

小山修 (2008)「日本型経営の企業統治とM&A最新事情」『産研論集』35, 31-42.

加護野忠男 (2011) 「株式持ち合いについての覚書」『国民経済雑誌』203(5), 1-9.

金融庁 (2014)『「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫:投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために』.

澤田茂雄 (2018)「日本版スチュワードシップ・コード導入後の国内機関投資家の行動の変化」『経営論集』65(1), 229-240.

谷本寛治 (2014)『日本企業のCSR経営』千倉書房.

東京証券取引所 (2015)『コーポレートガバナンス・コード:会社の持続的成長と中長期的な企業価値向上のために』東京証券取引所.

中嶋康雄 (2017) 「真のROE経営とは:ROE経営に走る日本企業」『日本経営倫理学会誌』24, 351-365.

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