記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『GQuuuuuuX』は新たな「ニュータイプ」の物語に期待

話題の『機動戦士Gundam GQuuuuuuX - beginning』。そんなに観るつもりはなかったけれど、ふと思い立ち初日に時間を作って観てみたら大正解だった。おもしろすぎてもう一度観た。パンフレットも買ってしまった。

おもしろくて色々考えちゃったので、ここに感想と、TV版の予想、本作に対する自分なりの見所をまとめてみた。

(思いっきりネタバレを含むので未視聴の方はご注意)



まずは率直に思ったことを

前情報としては、どうやらファーストの世界(ジオンや連邦の存在する宇宙世紀)が描かれること、ビットを装備した赤いガンダムが登場すること、並行世界が描かれること、などまで公式の漏洩や考察で把握していた。あと、主人公マチュ=ハマーン・カーン説とかも。

で、実際に観てみるといきなり「ガンダム」が始まって胸アツに。ザクのディテール(特に太もも)などに違和感を得つつ、その登場に胸が躍る。あれ、そういえば赤いザクって最初から潜入するんだっけ? などと思っていたらシャアがガンダムに乗ってしまって、以降30分間笑いが止まらなかった。

一年戦争編だけで映画一本観た気でいたが、まだ30-40分くらいしか経っていなくて、それから始まるマチュの物語も面白かった。戦闘シーンが素晴らしくて、音楽のテンポもよくて、短い時間でマチュ、ニャアン、シュウジのキャラクターもすぐに立っていて、それぞれのキャラが好きになった。

例えばエヴァ序破急Qでは、構成としては恐ろしく創作論的でありつつ、カメラのアングルとか絵の驚きとか展開とか描写の細部の細部にまで神を宿していて(そこで追い込んでいて)、そういう芸の細かさをジークアクスにも(監督は違えども)感じられ、アニメという芸術の今時点での先端を見せてもらえた気がした。

そういう意味では、映画前半はサービス的におもしろくありつつ、やはり後半があってこその面白さだったと振り返れる。

空間戦闘とモビルスーツデザインがとにかく良かった

ザクの太ももがプロペラントに、足先は細くなっていて、自分が理想としつつ言語化できずにいたザクの姿がそこにあった。ジークアクスも、ANBACを意識させるデザインで合理性があるように見え、エヴァっぽさへの忌避感はありつつも、機影発表時から好感を持っていた。

で、それらが繰り広げる空間戦闘がとにかくリアリティと迫力に満ちていて最高だった。ロボットが見栄を切ったりはしない、宇宙機同士のこうした戦闘がみたかったので、大満足。スラスター描写とか、曳光弾の迫力とか、それがシールドにあたり火花を散らす様子とか、挙げればきりがない。

赤ガンダムが頭部バルカン撃ちながら首の下をグルっと回すところとか、非人間的挙動もよかった。ターンエーで目線を微動だにせず走る描写とかすごく好きだったんだけど、こうした「機械」の精密さが他のガンダム作品ではみられないのはなぜだろう。

強襲揚陸艦ソドンのソロモン強襲作戦とか、艦隊描写もカッコよかった。
ソドンについては、この船こんなカッコよかったのか、と再認識。サイド6中空に停泊して威圧する描写なんかもよかった。

日常生活描写はちょっとやりすぎか

キャラクターや世界観はハマったが、とはいえ日常生活描写はこれでいいのか、とは思ったりした。スマフォをもち、電信柱があって、日本の地下鉄が走り、日本の教室があり、神社があり。というのは「近未来×現代」の映像的ミスマッチを狙ったものだろうけど、こうしたミスマッチも決して新しい手法ではないし、あまりにも現代過ぎて悪い意味での違和感になった。日本語や日本人ばかりなのは、日本人街、ということなんだろうけど。

こうした描写は作品の賞味期限も早めると思うが、これは『水星の魔女』でも思ったことだけど、近年の作品制作はリアルタイムでしっかりバイラルを作れればそれでよい、という側面もあったりするのかな。

「オルタナティブ」とスパイダーバースの狙い

巡航船ソドンに乗りながらペガサスを「ソドン」と命名するなど、明確にオルタナティブが意識されていた。(フォローさん曰く、非宇宙世紀を指す言葉も今年から「アナザー」ではなく「オルタナティブ」に変わっていたとのこと)

本作ではエルメスが開発されず、ゲルググも正式採用されていない。ジークアクスは Mk.II やゼータなどのオルタナティブなのだろうか?

ガンダムが歴史IFをやることの意味は、スパイダーバースのように、過去、そしてこれから作られる様々な作品群を、時間軸方向ではなく並行世界方向に広げ、補完する狙いがありそう。ザクや様々なモビルスーツの色んなIFを、作品間の矛盾を気にせず「準公式」にできるし、MSV的なUGCプラモデルにもお墨付きを与えられる。

玩具は「大人の事情」といえばそれまでだが重要で、ガンダムベースでガンプラスキャンみたいな試行もされているけど、そうしたUGCといかに連携するかは引き続き重要戦略であり続けそう。

ガンダムは最初から玩具とセットのメディアであるところ、そうした「大人の事情」が作品世界に影響を及ぼす(クリエイターが大人の事情をいかに作品として昇華するか)というお題は、あるいは制約条件は、自分としては嫌いではない。

TV版構成予想(Beginningはいつ描かれるか)

映画版は最初にファーストガンダムが出てきて驚きがあったが、しかしTV版ではこれはやらないのではないか。それではジークアクスという物語の紹介にはならないし、旧ファンサービスに寄りすぎる。

そこで、おそらく次のような構成になると予想。

TV版構成予想①

第1話はマチュ編。初期PVで流れた「直径6.5kmのスペースコロニーは~海を知らない」のナレーションとともにコロニー内部の描写があって、宇宙をバックにザクのモノアイが光り、そこにソドンの警笛が鳴る。

そこから第2話か第3話まで、赤いガンダムとの出会いや、クランバトルでの戦いを通じ、物語が起動され、ニャアンやシャリア・ブルといったキーパーソンも紹介される。

で、第4話(早ければ第3話)あたりで、「宇宙世紀0079~」からなるナレーションとコロニー描写、戦争解説があり、宇宙空間にザクのモノアイが輝き、サイド7潜入が描かれる。この第4話は、ジークアクス第1話のオマージュであると同時に、『ガンダム』の第1話オマージュにもなって、新旧ファン両者にわかりやすく世界設定を伝えられる。

TV版構成予想②

と、最初は上述のように思ったけれど、ファーストの描写(beginning の部分)は「TV版ではやらない」という可能性もありそう。一部カットは使うにしても。

ではなぜ映画で流したか。ジークアクスの世界設定を作りこむにあたり、0079の年表も作ったし、何よりあれをアニメとして描きたい人がいて、そこで製作費回収に当たり、プロローグ的位置づけで劇場公開、みたいなことにしたのでは。

視覚的モックが作られることでチームの方向性を固める、というのも大規模プロジェクトではよくやられるところ、そうした効果も期待できる。特に歴史IFモノは混乱も起きやすいので、映像を作ってしまえばそれを防げる。

さらには、本作は本編放送時も視聴者の意識が「一年戦争の設定」の謎解きに行きそうなところ、先に映画で絵として全部見せちゃうことで、視聴者をマチュの物語に集中させることもできる。「ジークアクスはあくまでマチュの物語なので、世界観アレコレで考察したいオタクは beginning に予め全部出しとくから黙っててね」という誘導。

それは、これからガンダムに入る人にとってのノイズを減らせるし、「プロローグ」の正しい使い方でもある。

ジークアクスは「ニュータイプの物語」に期待

ガンダムに「歴史IF」の仕掛けを盛り込むことは、「設定詰めすぎ」の問題を引き起こしかねない。すでに宇宙があり、ロボットがあり、戦記があり、ニュータイプがあり、とSF的仕掛けが多いなか、タイムスリップとかパラレルワールドとかまで盛り込むと混ぜすぎになってしまう問題。

ただ、ガンダムがすでにガンダムとして当たり前になった今であれば、さらなるSF設定を追加しても許容できるのだろう。それだけの普遍性を、ガンダムは獲得している。

とはいえ、上述した玩具事情とは別に、純粋に物語として、いまガンダムで『高い城の男』をやる必要は(そうでなければならない必然は)果たしてあるのだろうか? そのあたりの説得力が描けないと、結局のところ設定が増えただけで、物語としては居心地が悪い。

そこで注目なのが「ニュータイプ」。ニュータイプは「ガンダム」の核心であり、コミュニケーションの哲学でもある。

人の認知が拡大する(というか変容する)ことは、インターネットやSNSの普及で実際に起きていて、今後もさらに形を変えていくだろう。宇宙にも本当に人が進出するようになって、本来の意味での第二認知革命すら起こるかもしれない。

これは現代にも(そして将来にも)描かれるべきテーマであるところ、特に陰謀論や分断、ポスト・トゥルースが当たり前になったいま、歴史IFにかけ合わせてニュータイプを描くことには、大きな意味があるように思う。そこを、マチュやシュウジといったキャラクターを通じ、どんな答えを見せてくれるのか、とても注目。

そもそも「ニュータイプ」は、ファースト以降は単に「特殊な人」の側面ばかり描かれ、人類におけるコミュニケーションの新たな在り方を提示した作品は(最近のやつあんま観てないけど)なかったように思う。

それこそアクシズ落としでのデウス・エクス・マキナ的な現象描写とかが、新規性としては最後ではないか。そこをアップデートできるとしたら、ジークアクスは記念碑的な作品になるだろう。改めて、そのあたりの回答に期待を持ちたい。


というかTV放送いつやるんだろう。
ザクの立体化が待ち遠しいよ~~

いいなと思ったら応援しよう!