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さあ、農業をしよう!家庭菜園が日本を救う⁉︎脱サラ農家がおすすめする野菜づくり

2024年8月に農林水産省が発表したデータによると、2023年度の食料自給率はカロリーベースで38%でした。
2008年以降は38%〜40%前後で推移し、横ばい状態が続いています。
政府は2030年度までに食料自給率を45%に引き上げる目標を掲げていますが、このままでは達成は難しそうです。

今回お話をうかがう桑原夕佳さんは、農業従事者の割合が減ってきていることに危機感を持っています。

江戸時代末期の農家は人口比率で85%でした。
近代化が進み、2020年の基幹的農業従事者(1年の半分以上を農業に従事している人)の人口比率は1.1%にまで減少しています。
いくら農業技術が進歩したといっても、確かにこれでは日本の食糧を支えるのは難しいかもしれません。

桑原さんは大学で農業を学び、卒業後は家業の手伝い、環境ボランティア、花関係のお仕事を経て、40代で脱サラして農業を始めました。
落ち込んだ食料自給率を回復したいと考えていて、自身が野菜を生産する以外に、ある取り組みを始めています。

未来の子どもたちが、これからも安心して暮らしていくためには、安全で安定した農作物の生産が大切だと考えます。
どうしたら農作物の自給率をあげることができるか、桑原さんにそのヒントになるお話をうかがいました。


家庭菜園のススメ

桑原さんによると、農作物の自給率を高めるために、まずは自分で作ってみる体験をすると良いといいます。

取れたて野菜は長持ちする。
畑で収穫してきたばかりの新鮮な野菜なら、普段は食べない大根の葉っぱやブロッコリーの葉っぱもおいしくいただける。

収穫体験をしてそんなことを知りました。
その美味しさを知った今は、畑に植っている大根の葉っぱを見て「美味しそう!」とまじまじと見つめてしまうくらいです。
スーパーで売られている野菜を買っているだけでは知ることができない、わくわくの素が畑にはあります。

自分の庭やベランダで野菜を作れたらいいなと思いますが、一方で「畑は難しそう」とも思います。
農業未経験者でも野菜をつくることはできるのでしょうか。

桑原さんは個人のレベルに合わせた農業でいいと提案しています。

【桑原】
虫が苦手なら収穫だけでもOK。
しっかりやりたい人もいると思うし、ちょこっと自分が食べる分だけ収穫して、あと面倒なことはやっておいて、っていうのでもいいと思う。

そういう人のための畑のサブスクもありなのかなって。
例えば、ある区画に「年間いくら払いますので、野菜を育てておいてください。育てた野菜は収穫させてください。」っていう。
農家さんの安定収入にもなるし、会員さんは旬の美味しい野菜の収穫体験ができるよね。

しっかりやりたい人なら、毎日使う簡単な野菜は家庭菜園でつくればいい。
家でつくるのが難しい椎茸とか、もやしとかスイカとか、面倒なものとか、あとちょっと変わったチコリとかそういうのは買ってくればいいと思う。

ちょっとした野菜は自分でつくって、足りない分をスーパーで買ってくるっていう社会にしたい。

旬の野菜はおいしい。栄養価も高い。
自分で野菜をつくることで旬を体感してほしいそうです。

同時に、農業の大変さも知ってほしいと。
「もっとおいしい野菜をつくるためには?」
「安定して野菜を消費者に届けるには?」

農家さんが苦心しているあれこれを想像してみてください。
自分で野菜を作ることで、育ててくれた農家さんや育ってくれた野菜に対して、感謝していただくことができるようになります。

【桑原】
日本の野菜ってかなり安いのよ。安いから農家さんが育たない。だって儲からないから。
やっぱりある程度の値段はしてもしょうがないよね、と思える環境を作ってあげたい。

自分でつくれないからつくってもらおうっていう感覚よりは、自分もつくれるし、誰かプロがつくってくれたものには感謝していただく
自分でつくったものには思い入れもあるし、新鮮だし、美味しいって思えるはず。

っていうのを理想としたい。
そんな日本をつくるための一歩として、体験農場をつくりたい

体験農場ではどんな野菜がつくれるの?

体験農場とは、野菜を育てたり収穫したりする体験ができる場所です。
農業のことを学べるだけでなく、自然とふれあいながら楽しく過ごすことができます。

体験農場にはいろいろな種類があります。
・野菜収穫体験農場
・果物狩り体験農場
・米づくり体験農場
・動物ふれあい体験農場
・ハーブ、花摘み体験農場
・自然学習型農場
・バーベキュー付き農場 など

桑原さんがつくりたいのは「体験型オーガニック農場」です。
無農薬・有機栽培の方法を学びながら収穫体験ができるものです。
桑原さんの体験農場ではどのような野菜を育てることができるのでしょうか。

【桑原】
つくりたい野菜をつくればいい。
食べたいなと思うものを育てるのが一番
自分はさつまいもが好きなのでたくさんつくるんだけど、種芋の分まで食べてしまいそうになる(笑)

今、体験農場と同じ敷地で育てているのは、
大根、二十日大根、紅芯大根、カブ、ミニ白菜、ミニ青梗菜、小松菜、水菜、正月菜、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、そら豆、玉ねぎ、えんどう豆、スナップエンドウ、絹さや、レタス、わけぎ、人参、春菊

夏になると、
トマト、なす、キュウリ、ピーマン、オクラ、ジャガイモ、さつまいも、里芋、バジル、モロヘイヤ、カボチャ、スッキー二

年中植えているのは、
小松菜、水菜、青梗菜、ほうれんそう
旬は今(冬)だけど、栽培期間が短いのであまり環境に左右されにくい野菜。
夏場なら1ヶ月くらいで収穫できちゃう。冬なら2ヶ月くらいかな。

家庭菜園に挑戦してみたけどうまくいかなかった、という方も多いのではないでしょうか。
「自分は野菜を育てるのは苦手なんだ」と落ち込んでしまったり。

野菜づくりを諦めかけている方にも、ぜひ成功体験をしてほしいと思います。
ちゃんとした畑で、教えてもらいながらつくれば、1人で悩みながらつくっていた頃よりずっとおいしい野菜ができるはず。

コツを教えてもらったり、他の人のやり方を確認しながら育てる野菜。
下手でもいいんです。下手だからこその体験農場なのですから。
つくる過程を楽しみましょう!

【桑原】
「畑を借ります。自分で適当にやります。」
「畑を借ります。教えてください。」
もちろん、どちらもOK。

自由に野菜づくりを楽しんでもらえばいいです。

他に「ベランダでやってみたいけどうまくできない」っていう人に対してもアドバイスをしていけたらいいなと思っている 。

野菜をつくる場所がない

自分の家の隣に小さな畑があって、食卓にのせる野菜を使うたびに採りに行く。
いつも新鮮な野菜を食べられる。
というのが理想の暮らしです。素敵すぎてめまいがしそうです。

少し郊外の住宅街では、ところどころに畑が残っていて、いろいろな野菜を育てているのを見かけます。
定年後に、家の近くで野菜などを育て始めて6年目という方がいらっしゃいます。
年々その品質は向上しているそうで、いちごやレタスなどはすでに販売できるレベルです。

そんな理想の暮らしをするために家庭菜園をやってみたいけど、場所がなくてあきらめている方も多いと思います。
庭がない、ベランダが狭い、日当たりが悪い、など。

もし身近に農地があったらどうでしょうか?
公園で遊ぶように、畑で野菜づくりを楽しむ。
そんな生活があってもいいのかなと思います。

住宅街の中に農地を確保するために、桑原さんから提案があります。

【桑原】
これからどんどん人口が減っていくなかで、農地を考えた時に、農地を相続した人はみんな農地から宅地に変えて売却すると思うんだよね。

でもね、もう宅地は要らない
宅地にすると高い税金がかかるし、そのまま農地として活用できる方法を選択してほしい。

どんどん街中にも畑と宅地が共存するようになればいいと思っている。
緑被率のアップにもなるし。

農地が減少しているのは都市だけではありません。
地方では高齢化、過疎化が進み、耕作放棄地が増えています。

【桑原】
田舎の畑は残ってるんだよね。
そして荒れちゃって。

農作物をつくらなくなって荒れてしまった耕作放棄地を、観光農園にするのもいいよね。 
そういうとこを管理する担い手をつくってね。

耕さず、里山農法でSDGs

桑原さんは「不耕起農法(ふこうきのうほう)」というものを実践しようとしています。
不耕起農法とは、文字どおり「田畑を耕さないで作物を栽培する農法」です。

繰り返し耕されると、土壌の保水力が失われて、砂漠のような土地になります。
そうなると雨や風で土が流されたり飛んでいってしまいます。
これまで当たり前とされてきた「耕すこと」が生態系を壊し、その土地が本来持っている生産力を損ねることになるというのです。

この農法は、脱サラして農業を勉強した時に、先生から教えてもらったそうです。
アメリカやオーストラリアなどいわゆる農業国といわれる世界の国々では、「不耕起農法」が注目されています。

【桑原】
不耕起農法といっても、何もしないわけではない。
畝はつくる。

つくるときに、落ち葉とか枯れ草とか籾殻とかいわゆる炭素分を入れる
畝をつくったら、もともと土の中にいる菌が炭素分を分解するのを待つ
菌糸と野菜の根が共存するようになれば不耕起農法は成功。
厳冬期以外なら2ヶ月くらいで完成する。

菌として納豆をそのまま入れる人もいるけど、もともと土の中にいるキノコの菌糸が良い。
キノコが菌糸を伸ばして炭素の分解を始めると、副産物として窒素分を出す。
その窒素分を野菜が吸収する。

キノコの菌糸が窒素分をつくってくれて、リン酸とカリは必ず土中にあるから、肥料を追加する必要がなくなる

また、土の中にいる菌類が放出するグロマリンという成分が、土の粒同士をくっつける糊のような役割を果たしている。
くっついて団粒構造になった土は保水性が高く、植物を育てるのに適している

桑原さんは「里山農法」も日本の風土にあっていると考えています。
里山農法とは、自然農法の一種で、山や森林と田畑をうまく調和させる昔ながらの農業のやり方です。
木を使った燃料や落ち葉を肥料にするなど、自然を大切に利用します。

【桑原】
いわゆる昔の日本の原風景、山があって川があって畑があって家がある。
木や果樹があって、その下に草が生えて、野菜を育てる。
プラス家畜もいてその糞尿が肥料にもなり、落ち葉も肥料になる。

そういった昔ながらの農業は無理や無駄がない。
資源を循環させるので、肥料を買うお金もそれを漉き込む労働力も省くことができる。
実にSDGsだ

農業の進化といえば、情報やデータ技術を利用して生産システムと運営を最適化するスマート農業が注目されているけど、野菜工場と大規模農業には反対。

生産管理のデータ化などはいいと思うが、ドローンを使ったり農業を集約していく必要はあるのかな?って。

里山みたいにちっちゃい農業をみんながいっぱいつくればいいと思ってる。
「スモール農業をたっぷりと!」

自分でつくる野菜はプライスレス

もし自分で育てるならどんな野菜をつくりたいか?と考えるだけで楽しくなります。

好きだし簡単につくれそうな小松菜とゴーヤはマストだとして、スーパーで売り切れがちなパクチーと、花も綺麗なオクラもいいな〜なんて。

珍しい品種を育てるのもありですよね。
自分でつくって配ったら喜ばれるかも。

お子さんやお孫さんがいるなら、一緒に育てるのもいいですね。
どんな野菜が食べたい?なんて会話しながら。
収穫だけでもきっと喜んでくれるのではないでしょうか。

畑で野菜をつくることのメリットはたくさんあります。
体を動かして健康になるとか、食費が抑えられるとか、家族と会話が増えるとか。

【桑原】
伝統野菜という、その地域で昔からつくられてきた野菜がある。
八事五寸という伝統野菜の「種取り」グループに入っている。

八事五寸は、根の先がずんぐりとしているのが特徴で、甘くておいしい五寸(15cm)くらいの人参。
種取りとは、安定して同じ品種を作るために、その特徴を有したものを残していく活動のこと。

八事五寸の場合は、収穫した後、ずんぐりした形のものを選別してまた畑に植え直し、花を咲かせて種を採る。

春になるとにゅーっと伸びて花が咲く。
ちっちゃい細かい花が咲くから、それをとってガーって擦ってやると、種がぴやっと落ちる。
その種をとっておいて夏にまた蒔く。その繰り返し。

桑原さんは、昨年秋から新しい土地を借りて畑を広げたそうです。
土づくりも進めながら、体験農場の準備や出荷先用の野菜も育てています。

そんな大忙しの桑原さんですが、飲食店のオープンも計画しているとか。
どうして飲食店をしようと思ったのか、理由をお聞きして納得しました。

【桑原】
実は、飲食店をやりたいな〜って思っている。
昼間は野菜を使ったレストラン、夜はバーっていう。
実はもうお店の場所は決まっていて、あとはシェフを探し中。

ターゲット層は、30代〜40代の女性会社員を想定している。
ランチで野菜たっぷりの料理を食べてもらい、気に入ってもらえたら体験農場にもきてもらうっていうね。

飲食店をやる理由は他にもあって。
体験農場は収入が不安定だから、他に安定して収入が得られるものが欲しいなと。
まずは、そっちから固めようと動いているところ。

迷ったら楽しいほうへ

新しいことに踏み出すには、勇気が必要です。
でもちょっとの勇気で開ける世界があります。
楽しそうだなと感じたのなら、チャレンジしてみませんか?

上手くいかなくても大丈夫。それは失敗ではありません。
「できなかった」という経験というだけなので、いつかは上手くいきます。

まずは自分ではじめられそうなものからで良いので、農業に触れてみてください。
そして野菜を育てたり収穫して感じたことを、よかったら聞かせてくださいね。


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