冬霞の巴里@花組BrilliaHALL

指田先生が描く、業を背負った女が好きです。
今回のアンブル、そして『龍の宮物語』の玉姫。過去に囚われ執着に生きる、誰よりも美しい女。その強く儚い生き様にどうしようもなく魅せられます。
また、現実と幻想が交錯して溶け合って繰り広げられる舞台もとても素敵で飲み込まれるような感覚を覚えます。
指田先生が作り上げる作品をもっと見てみたい、そんな思いに駆られる作品でした。

我慢できずにドラマシティ公演の配信で予習したものの、正直配信を見た時は消化しきれず、画面越しでも強烈に美しいひとこさんの復讐劇ということで頭が一杯でした。そのため生の舞台を観たときに作品自体の印象がかなり変わって面白かったです。

舞台の幕が降りて強く心に残っていたのは、この復讐は、オクターヴとアンブルが2人でいるためのものだったんだという思いでした。なんて仄暗く甘い復讐の物語かと思います。
姉弟であること、血の繋がりを強い絆として寄す処にしつつ、2人の距離感は近く曖昧で、2人が抱く想いは何なのかということに思いを巡らせたく(ある意味で邪推したく)なります。オクターヴとエルミーヌ、アンブルとムッシュ・ボヌールの互いへのあてつけようなやり取りと確かに漂う嫉妬心のシーンなどは印象的で、またオクターヴとエルミーヌのやり取りには確かにオクターヴの心をほぐしているように見えて、しかしオクターヴもアンブルもどこまでも選ぶのは互いであるという関係に、好きとか美しいとかを通り越して揺さぶられるような思いで舞台を観ていました。

ラストシーン、全てが終わった2人の会話が一番好きな場面です。
迷子のように、でもどこか期待すら漂わせてアンブルに問うオクターヴと、それでも姉弟であると言い切るアンブル。そしてそれに答えるオクターヴ。
姉弟でも恋人でももはや名前は何でもよく、世界にただ2人の男と女となって寄り添って生きていくオクターヴとアンブルの後ろ姿がただただ美しくて目に焼き付いています。

オクターヴ@永久輝せあさん
こんなにアンニュイで耽美なビジュアルで、まぶしいくらいの光の人でした。この退廃的な復讐劇の中で最初から最後まで誰よりも強く、破滅が似合わない。徹底的にひとこさんの持つ輝きの強さを見せつけられた心地です。根底にあるものが強いので、オクターヴによって物語全体の迫力が一層増したように感じられて本当に素敵でした。

アンブル@星空美咲さん
ひとこさんのオクターヴには星空美咲ちゃんのアンブルでなければいけなかったと、そう思わされる熱演でした。大人っぽい落ち着きや包容力がひとこさんに対して存分に発揮されていて、ひとこさんの圧倒的強さに対して強すぎずしかし控えめすぎたり弱すぎたりすることもなくしっかり隣に並び立っていて、ぴったりはまっていたと思います。堂々としたお芝居ができる娘役さんなので、次の作品も楽しみです。

和海しょうさんの存在感と二面性にもう惚れ惚れしながら観てました。父親としての優しく温かい顔と、手段を選ばず非道も厭わない実業家としての顔を使い分けるお芝居が息をはくように自然で同一人物であることに違和感がなく、だからこそクロエらの心に根付くオーギュストの底知れない恐ろしさが際立ってました。
クロエは美貌が爆発していて最初紫門ゆりやくんだと気づきませんでした。本当にため息が出るほど美しいです。オクターヴとアンブルにとっては冷淡な母親である一方で、ミッシェルやエルミーヌ、特に現在の夫であるギョームに対しては深い愛情を持っていることが一挙手一投足から感じられるのが良かったです。お芝居でもショーでもオーギュスト&ギョーム&クロエの3人で組む歌やダンスがあって、これがすごく素敵でした。

ヴァランタンの聖乃あすかさん、前回の元禄バロックロックの静かに佇んでる雰囲気からうって変わってすごく濃く面白い役で見応えがありました。一樹千尋さんや美風舞良さん、春妃うららさんは安定感があるのにキャラが色濃くて登場すると自然と目がいってしまいます。ミッシェルは希波らいとさんの好青年ぶりが良かったんですが、終盤の晩餐会でお母さまの肩を抱きつつ背中にかばわれていていくらお母さまが一番強そうだからって…とか婚約者おびえてるから守ってあげて!とか思ったことがやたら記憶に残ってます(ちゃんと婚約者もかばってました)。なんかすみません。

愛蘭みこさんのエルミーヌ、良い意味での押し出しの強さがあって可愛かったです。可憐で、芯の強さが感じられるお芝居が印象的でした。
気になった娘役さんはプログラムを買ってないので確信が持てないのですが、おそらくエリーニュスの咲乃深音さんだと思います。要所要所で歌があったのですが、透き通った歌声がとてもきれいでもっと聞いてみたいと思いました。

今回はショー付きでした。少しでもショーがあるとやはり楽しいです。
全体的に大人っぽいシックな雰囲気ですごく好みでした。
ひとこさんと星空さんのデュエットダンスが、お芝居の延長のような、2人の何とも言えない距離を感じさせる空気感でドラマを感じて素敵でした。

冬霞の巴里は珍しく配信を観るのが先だったため、配信では見えなかったり感じられなかったりしたことが劇場で体感できて、改めて生の公演を観ることの面白さも感じました。次の花組公演、そして次の指田先生作品、両方とも期待が高まる作品です。