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かんたん解説:スーパーリーグ構想[全文無料公開]

欧州を中心に、世界中を騒がせた欧州スーパーリーグ(SL)。ニュースで目にした方も多いことでしょう。しかしその構想は事実上、あっという間に崩壊しました。

スーパーリーグ構想とはどういったものだったのか、なぜすぐに崩壊したのか。サッカーの知識があまりない方にも分かりやすく解説していきます(主観も入っています)。

まず、スーパーリーグ構想とはどういった物??

簡単に言うと、欧州のトップリーグからリーグの垣根を超えてビッグクラブを集め、ビッグクラブによるリーグ戦を行おうというものです。

レアル・マドリー(スペイン)のペレス会長を会長に、ユベントス(イタリア)のアニェッリ会長のを副会長として、12のビッグクラブの合意のもとで4月18日に発表されました。

具体的なクラブは
スペインのレアル・マドリーとバルセロナ、アトレティコ・マドリー。
イタリアのユベントス、ACミラン、インテル・ミラノ。
イングランドのアーセナル、チェルシー、リヴァプール、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナム。

これらに加えて、ドイツのバイエルン・ミュンヘン、ドルトムント。そしてフランスのパリ・サンジェルマンの3クラブが招待されており、これらの15クラブが常時出場。加えて前年の成績によって5クラブが参加。計20クラブで行われる、という計画でした。

ちなみに、こういった構想自体は最近生まれたものではありません。

何十年も前から、欧州各国のビッグクラブを集めたリーグを作るという噂は時折煙のように上がっていたのです。

そして2020年10月に改めて構想が持ち上がりましたが、FIFA(国際サッカー連盟)と全6大陸のサッカー連盟は拒否する声明を発表。

UEFA(欧州サッカー連盟)はCL(チャンピオンズリーグ=欧州No.1のクラブを決める大会)の形式を変更し、出場チーム数を増やすことなどでスーパーリーグ構想を阻止しようとしていました。

なぜ、今回具体的な形となって発表されたの??

このタイミングでの発表となった要因は、コロナ禍により財政面で大ダメージを受けたビッグクラブと、「サッカーのアメリカ化」を目指した者との思惑の一致が挙げられます。

まず現在、欧州のビッグクラブに限らず、世界中のサッカークラブがコロナ禍の影響を大きく受けています。
スタンドにサポーターを全くもしくは少数しか入れられないために入場料収入は激減し、業績が悪化する企業が増えることでスポンサー収入も減少している場合が多いのです。

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ビッグクラブの場合、その多くは大きな収入を見越して大きな支出を決めてしまっています。
また選手補強などへの積極的な投資により、コロナ禍になる前から多くの負債を抱えているクラブは少なくありませんでした。
そんな中で突如収入が少なくなると、クラブの運営は一気に厳しくなってしまいます。

一方で世界一人気のスポーツであるサッカーのクラブには、近年アメリカの資本が流れ込んでいます。
そうなるともちろん、クラブの役員にもアメリカ人が増えることに。

コロナ禍で経営面に問題が生じたクラブがそれを解決するためには、安定した収入、それもこれまでより大きな収入が必要になりました。

アメリカ人は、その方法をよく知っているのです。
トップレベルの選手だけを集めた、閉じたリーグを作ることだ、と。
野球のMLBやバスケットボールのNBAはまさにそういったものの代表例です。

そのサッカー版が、スーパーリーグだったのです。

バックにはアメリカの銀行・JPモルガンがつき、参加クラブには毎年3億5000万ユーロ(400億円以上)とも言われる安定した大きな収入が入る予定でした。

リーグの中身は前述したように15の固定されたクラブと、5つの入れ替わるクラブが欧州No.1のクラブを決めるというものです。

5つだけが入れ替わるという不思議なレギュレーションは、全てのクラブに門戸は開かれているとアピールし批判をかわす狙いだったのでしょう。

No.1を決める大会ならば先述したCLがあるじゃないか、と思う方もおられることでしょう。
けれど、CLは安定して出られる大会ではありません。
国内で上位に入らなければ出場できないし、出場できなければその分の収入は入ってきません。
さらにはその収入も、出場クラブがより多いこともありスーパーリーグよりも小さなものです。

それに比べて、スーパーリーグは15のクラブは入れ替わらず絶対に出場できます。たとえ国内のリーグで下位に沈もうと、2部に落ちようと。

さらには、集客の見込めるビッグクラブ同士の対戦がほぼ毎試合観られるわけです。
どちらがクラブを安定して運営することに繋がるか、一目瞭然でしょう。

サポーターもビッグクラブ同士の試合こそ観たいだろう、最高じゃないか。といったものが、ペレス氏をはじめとするスーパーリーグ構想を作り上げた人々の考えでした。

なぜ、スーパーリーグ構想は強く反対されたの??

確かにビッグクラブ同士の対戦もワクワクしますが、たまにあるからこそ盛り上がるのです。

また、スーパーリーグを推し進めた陣営には「サッカーのもう1つの本質」が見えていなかったのではないでしょうか。

つまり、サッカーがなぜ面白いのか。なぜ世界で最も人気のスポーツなのかという点です。

もちろん1番目には競技面での面白さがありますが、もう1つの大きな理由は開かれたリーグだからなのです。

具体的にいうと、全てのチームが1つのピラミッドに入っていて、カテゴリーや国を超えて勝利を掴める可能性があるから、です。

日本で言うとアマチュアチームがプロを破って天皇杯を制する可能性がありますし、日本のクラブがクラブW杯でビッグクラブを破って世界一になる可能性もあります。

欧州で言うと、下部リーグのクラブがビッグクラブを破りカップ戦を制する可能性もあればCLでローカル国のチームがビッグクラブを破り優勝する可能性もあります。

下部リーグのチームが着実に成長し、1部リーグで優勝することも可能なのです。

そんなこと起こらないでしょ、と思うかもしれませんが、サッカーは波乱の起きやすいスポーツとしても有名です。

事実、2004年のUEFA Euro(UEFA欧州選手権)では決して強豪とは言えないギリシャが優勝し、2015-16シーズンのイングランド・プレミアリーグでは20チーム中18番目の予算規模だったレスターシティが優勝。2016年のFIFAクラブワールドカップでは鹿島アントラーズが決勝に進出しレアル・マドリーから1度はリードを奪ってみせました。

そのドラマ性、後世語り継がれるようなエピソードも、サッカーの本質なのです。

スーパーリーグを作り閉じられたリーグにしてしまうと、この本質は消え去ってしまいます。

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けれど、レアル・マドリーのペレス会長らにはそこが分かっていない様子です。
それは「チャンピオンズリーグで格下のチームと戦うマンチェスターを観るより、バルセロナvsマンチェスターの方が面白い」という言葉からも明らかです。
自らがビッグクラブの会長であるため、視点がそこになるのは仕方のない面もありますが。

加えてペレス氏はスーパーリーグ構想について「サッカーを救うため」と発言しましたが、多くのサポーターにはビッグクラブを救うため、にしか聞こえませんでした。

そのように受け取った方は非常に多く、だからこそスーパーリーグ構想が発表されるや否やUEFAやFIFAはもちろん、6クラブの参加が見込まれていたイングランドを中心にサポーターや政界・さらには選手からも批判が続出。

サポーターはスタジアムに集結して抗議活動を行い、加えて各クラブのOBやイギリスのジョンソン首相までもが反対を表面しました。

招待されていたドイツとフランスの3クラブも参加を拒否し、少しずつ雲行き怪しくなっていきます。

さらに参加を表明した3カ国のリーグからは国内リーグなどからの締め出しという厳しい措置までも検討され始め、結局イングランドのクラブが相次いで離脱を表明したことで発表からたった約2日でこの構想は崩壊することになりました。


SLよりもビッグクラブが考えるべきことがある。

ビッグクラブが本当に考えるべきは、どんな手を使ってでも収入を増やすということではありません。

近年、スター選手の移籍金と年俸は上がり続けています。

移籍金で言うと、2019年にベンフィカ(ポルトガル)からアトレティコ・マドリーへ移籍したジョアン・フェリックス選手は約152億円。

2018年にリヴァプールからバルセロナへ移籍したコウチーニョ選手は約174億円など、移籍金が100億円を優に超える事例がいくつもありますが、現在までの移籍金ベスト5は全て2017年以降の出来事なのです。

もちろんサッカー選手を目指す人々が夢を見られるような環境は与えられるべきですが、とはいえ現状は行き過ぎなものに感じられてなりません。

ビッグクラブをはじめとするクラブが考えるべきは、放映権料の上昇によるサッカーバブルとも言うべき状況下で続いた、移籍金と年俸の過度な高騰をここで落ち着かせることではないでしょうか。

それを考慮せず、収入が減ったから新たなサッカーリーグを作って収入を増やそうというのはあまりに短絡的な考えでした。

つまりスーパーリーグとは、ビッグクラブのオーナーらが移籍金と年俸を高騰させてしまったことで自らの首を締め、同じ苦しみを味わっている者たちが集まり生み出した苦肉の策、だったように思えてなりません。

その証拠に、以前から健全な運営を行っているドイツのビッグクラブ、バイエルン・ミュンヘンとドルトムントは招待されたものの参加を拒否しています。

これでもう丸く収まった??

他のスポーツにおいてもそうであるように、サッカーにおいてもビジネスという側面が強くなっていることを考えると、こういったことは再び起こるでしょう。

とはいえ、5月7日にスーパーリーグからの離脱を表明した9クラブがUEFAに謝罪を行い、事実上の罰金を払うことで合意したことで、スーパーリーグ構想は完全に頓挫しています。

現在でもレアル・マドリーとバルセロナ、そしてユベントスはいまだに諦めていないようですが、すでに厳罰が検討され始めているとの報道もあり粘れば粘るほど重くなることでしょう。

各リーグもこういった構想への対策を考え始めています。
イタリアではFIFA、UEFA、FIGC(イタリアサッカー連盟)以外の私的団体が運営する大会に参加することが禁じられ、違反すると国内リーグへの参加が認められなくなる「反スーパーリーグ規定」がすでに可決。

このままでは、スーパーリーグを諦めていないユベントスは来季のセリエAから追放となる、とFIGCの会長が発言しています。

サポーターのためにもそれは避けてほしいのですが…。

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おわりに

クラブ間の格差は仕方のないものです。けれどそこを行き来出来ないよう分けてしまい夢を見られなくすることは、サッカーという自由なスポーツにとってあってはならないこと。

そこを変えてしまうと、このスポーツの面白さを大きく削ってしまうことになってしまうのです。

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