アビスパ福岡 ポジション別補強診断
新体制発表会に加えて本日必勝祈願も終わり、アビスパ福岡の今季のメンバーがほぼ出揃ったものと判断した。
そこで、ポジション別に昨シーズン(終了時点)と比べて単純な戦力値がどのように変化しているのかを比較。7段階(大幅なプラス→プラス→ややプラス→現状維持→ややマイナス→マイナス→大幅なマイナス)という形で表してみた。
最後には単純な戦力値では測れない部分を書いている。ちなみに、フォーメーションは昨シーズンと同じ4-4-2を想定。
CHは明らかに足りていないため、さらなる補強の可能性もある。
即戦力が加われば評価は大きく変わるため、これは1月23日時点のものということ、そしてあくまでも独断と偏見によるものということをご理解頂きたい。
GK
2020シーズン
セランテス、村上、山ノ井、杉山
2021シーズン
村上、山ノ井、杉山、永石
評価 マイナス
資金と外国籍枠を攻撃的なポジションに回すためと思われるが、2シーズンに渡って正GKであったセランテスが昨シーズン限りで退団。
代わりにセレッソ大阪から、昨シーズン2ndGKとして20試合にベンチ入りしていた身長191cmの永石を期限付き移籍で獲得している。
現状は昨季14試合に出場した村上が一歩リードしているように見えるが、シュートストップが素晴らしい一方でハイボールへの対応は不安。
大学時代は大学生No.1とも言われた永石、J1での経験が豊富な杉山、昨季最終節にJデビューを飾り好セーブをみせた山ノ井にも十分にチャンスはある。
誰がスタメンに定着するのか読めないポジションの1つだ。
そして、残留のためにはこのポジションの選手の活躍は欠かせない。
右SB
2020シーズン
サロモンソン、湯澤、藤井
2021シーズン
サロモンソン、湯澤
評価 現状維持
サンフレッチェ広島からの期限付き移籍であったJ2アシスト王のサロモンソンを、完全移籍へと移行できたことが事実上の補強のようなもの。
湯澤は信用できる。今季は左SBの層が厚くなったことで、アクシデントがない限り本職の右SBへと専念できるのではないか。
3番手だった藤井はザスパクサツ群馬へと移籍してしまったが、三國もここでプレーできるため大きな不安はない。
CB
2020シーズン 上島、グローリ、グティエレス、三國、篠原
2021シーズン グローリ、グティエレス、奈良、宮、三國、森山
評価 ややプラス
昨シーズンの軸であった上島が柏レイソルへと復帰。間違いなく痛手だが、グローリとグティエレス、昨シーズンの最終節で徳島を無失点に抑えたコンビが残ってくれたことは大きい。
そうだとしても補強が必要だということは強化部も分かっており、サガン鳥栖から完全移籍で宮、鹿島アントラーズから期限付き移籍で奈良を獲得した。
J1での経験も十分にある2人を加えたことで、上島・篠原が抜けたマイナスを多少のプラスへと変えた印象だ。
特に奈良は、コンディションさえ整えばJ1でも屈指の実力を持っている。
毎年着実な成長を見せる三國も、そろそろブレイクしたいところ。
U-18から昇格した森山は、主戦場がCBか左SBになるのか分からないためどちらにも入れている。
左SB
2020シーズン 輪湖、湯澤、桑原
2021シーズン 輪湖、志知、桑原、森山
評価 大幅なプラス
昨シーズンは輪湖が特に守備の面で安定したプレーを見せてくれたが、控えは右が本職の湯澤と出場経験の乏しい桑原のみ。層の薄さは否めなかった。
そこへ水戸でブレイクし、横浜FCでJ1での実績を積んだ志知孝明を完全移籍で獲得できたことで総合力は大幅にアップ。
端的に言うと守備の輪湖・攻撃の志知という構図の、極めて激しいポジション争いが繰り広げられることとなる。
この2人を、昨季特に守備面で堅実なプレーを見せてくれた桑原が追う構図か。森山もここでプレーする可能性。
右SH
2020シーズン 増山、福満、東家、北島
2021シーズン クルークス、吉岡、北島
評価 ややマイナス
昨シーズン主にこのポジションを担った増山と福満が、共に期限付き移籍期間の満了により退団となってしまった。
かなりのマイナスとなったが、オランダ2部のローダJCからジョルディ・クルークス、長崎から吉岡雅和を完全移籍で獲得し迅速に穴埋めを行っている。
3年目となる北島は突破力と左右どちらのSHでもプレーできることは強みだが、そろそろ目に見える結果が欲しい。
ポジション争いにしても評価にしても、まずクルークスの来日がいつになるのか。そしてスペースの少ない日本のサッカーにフィットできるのかが大きく左右することになる。
それまでは運動量豊富な吉岡が出場する可能性が高いだろう。
北島、もしくは中盤ならどこでもプレー可能な田邉もこのポジションに割って入る可能性がある。
CH
2020シーズン 前、重廣、松本、鈴木、田邉
2021シーズン 前、重廣、杉本、(田邉)
評価 ややマイナス
前、重廣という昨シーズンの中心だった2人を残すことができたことは非常に大きい。
他方で昨シーズン途中に広島から加入し、中盤に安定感をもたらしてくれた松本は期限付き移籍期間の満了により退団となってしまった。
長年アビスパの中盤を支えた鈴木も退団となり、選手層に大きな問題がある。
個人的にはもっと前の位置で見たいが、新加入の杉本太郎がこのポジションを担うことになるか。
SHのほうが輝けるように思うが、田邉もここに入る可能性がある。
最優先で補強すべきポジションは間違いなくここ。計算の立つ選手を加えることができれば杉本をより前の位置で起用できるようになるし、ややマイナスという現在の評価も大きく変わることだろう。
左SH
2020シーズン 石津、木戸、田邉、菊池
2021シーズン 石津、田邉、(杉本)
評価 ややマイナス
主に途中出場でチームに貢献した木戸はモンテディオ山形へ移籍してしまったが、昨季の主力であった石津、最終盤に違いをみせた田邉がいるため大きな問題はないだろう。
2人ともに特に守備面の成長が著しく、どちらが入っても一定の計算は立つ。
ただし、CHの補強があれば、個人的には杉本をこの位置で観てみたい。スタートポジションはここで、やや中に入りながらプレーし外から志知や輪湖といったSBがオーバーラップしてくる、という展開を作れると得点力の向上に繋がるように思うのだ。
なおCHが足りない現状を踏まえて、杉本はこのポジションでの評価には入れていない。
FW
2020シーズン 遠野、フアンマ、山岸、城後
2021シーズン B・メンデス、フアンマ、山岸、渡、城後
評価 プラス
昨シーズンのチーム得点王、遠野は期限付き移籍期間の満了に伴い川崎フロンターレへ復帰となってしまった。
ただでさえ得点の多くなかったチームだけに不安があったが、強化部もこのポジションに最も力を入れたようで最終的には補って余りある補強ができたと言える。
まず大分から、17年にJ2で23得点を決めた渡大生が加わった。昨年まで3シーズンをJ1で戦い、しかも今季は得意の2トップの一角としてプレーできそうであるため期待大だ。
さらに、最大の目玉として昨シーズンまでセレッソ大阪でプレーしていたブルーノ・メンデスを期限付き移籍で獲得。
2006年以降過去にJ1でプレーした年のアビスパを振り返ると、毎回FW陣の力不足は否めなかった。
その点B・メンデスはセレッソでの2シーズンで計15得点。J1でも得点が計算できるFWが加わったことは本当に大きい。
フアンマ、山岸、城後という実績がありすでにチームに馴染んでいる選手、そして渡、B・メンデスというJ1でプレーしていた選手を加えた陣容は、J1でも十分戦える。
チーム全体の戦力値
評価 ややプラス
期限付き移籍で加入していた主力のうちサロモンソン以外は退団となってしまったこと、加えてセランテスも退団となったことで、補強したにせよ「単純な戦力値」としてはややプラスに留まる。
だが、昨年以上に長谷部監督が求めるタイプの選手を揃えられたことは非常に大きい。簡単に言うと、CBは空中戦に強くしっかりと跳ね返せ、SHは運動量豊富で攻守共に貢献できる。FWにしても、得点能力はもちろん守備でもチームを助けられる。
良い選手だからととにかく掻き集めるのではなく、長谷部監督のサッカーにハマる選手をポジション毎に何人かリストアップし、そのリストから獲得可能な選手をチームに加えた、という印象だ。
さらに、昨シーズンは主力に期限付き移籍が多く彼らが所属元へと戻ってしまったことを踏まえ、今季に向けてはB・メンデス、永石と奈良以外は全ての選手を完全移籍で獲得している。
つまり今シーズンだけでなく、その先をも見据えての補強となっている。
もう1人CHを、特に前寛之の代わりが務まる選手を加えられると、選手起用においても幅が広がる。1人の存在が、結果を大きく左右するということはサッカーにおいて往々にしてある。
強化部には是非とももうひと頑張りを、お願いしたい。
また、SHも攻撃面がJ1で通用するかやや未知数な部分がある。献身的な守備は間違いなくしてくれる陣容だが、得点に絡む部分も重要なタスクであるため個々の成長にも期待したい。
総括と、開幕戦への期待
全体としては、かなり限られた予算でJ1に定着するため、できることは行ったと言える。
特にDFの質はかなりのものだ。
目標を達成するためにここから先重要となるのは、早めにチームの完成度を上げスタートダッシュを決めること。
開幕戦は2月28日。対戦相手は昨年3位で堅守が強みの名古屋グランパス。GKランゲラックがゴールに鍵をかけており、得点を奪うのは容易ではない。間違いなく難敵だ。
だからといって勝利を目指すという姿勢に変わりはない。昨年からいる選手や長谷部監督のもとでプレー経験のある選手を中心に組織力を上げることで、ジャイアントキリングを起こす可能性は高まるはず。
アビスパサポーターは2017年のJ1昇格プレーオフ決勝の悔しさを忘れていない。幻のゴールもあり勝つことのできなかった名古屋を相手に、昨季以上にアグレッシブに戦うであろう2021バージョンのアビスパ福岡があの雪辱を果たしてくれると信じている。