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アビスパの2020総集編、そして向かうべき未来
これまでに載せたシーズン総括、簡易レビューの記事を合わせて大幅に加筆修正し、全選手のシーズンレビューを追加して1つの記事にしました。
1万字超えと極めて長いですが、2020シーズンのアビスパ福岡の戦いを振り返る材料にして頂けると嬉しいです。
それでは本文です。
シーズン総括
前年、2019シーズンはまずもってチーム編成が上手くいかず。6月には突然の監督退任もあり低迷し続けた。自信を失ったチームは残留することで精一杯。降格圏と勝ち点差4の16位でシーズンを終えていた。
しかし今季はあれほどまでに苦しんだJ2で白星を重ね、12連勝というクラブ新記録も達成。クラブ史上最低とも言うべきシーズンからたった1年後、アビスパはJ1への切符を手に入れた。
チームがこれほどまでに変わることができたのにはいくつもの理由がある。
その中でも主だった3つを挙げていく。
1つ目は、やはり長谷部監督の招聘だろう。
昨季までの2年間水戸を率い、昨季はプレーオフ圏まであと一歩の7位というクラブ史上最高順位へと導いた手腕は本物だった。
アクシデントの影響もあり順位の上がり下がりは大きかったものの、攻守の切り替えの速さ、CBとボランチ、SHを中心とした堅守を武器に勝ち点を積み重ねた。
終盤の試合では攻撃の連動性も向上していた点も見逃せない。
恐らく、長谷部監督は今シーズンは理想よりも結果を優先した。チームの現状をしっかり見た上で、より勝てる確率の高いサッカーを選択し、昇格を目指した。
また、長谷部監督のもとでプレーをしたいという選手達を補強できたという部分も大きい。
中でも水戸でプレーをしていた前寛之は、J1のクラブからのオファーもあったにも関わらずアビスパへの移籍を決断。
そしてキャプテンとしてリーグMVP級のプレーを見せてチームは昇格。この移籍が正しい判断だったことを自ら証明してみせた。
2つ目は、強化部の補強の方針と素早さ。
失礼を承知で言わせてもらうが、過去のアビスパは、リーグで一定の実績を残してはいるものの争奪戦にはならなそうな選手を数多く獲得してきた。
ところが、2020シーズンに向けては前述した前をはじめ、大宮のエースストライカーだったフアンマ、ラ・リーガ2部のヌマンシアでレギュラーだったグティエレスなど競争率の高そうな選手の獲得を果敢に目指し、実際に獲得することでこれまでにないほどのクオリティと選手層を用意して長谷部監督に託すことができた。
さらに、グティエレスが右膝前十字靭帯損傷の大怪我を負うとポルトガルのマリティモからグローリを、實藤が横浜FMへと移籍をすると横浜FCから藤井を、即座に獲得。ボランチの軸だった前と重廣が相次ぎ離脱すると広島から松本を期限付き移籍で獲得するなど、常に次の選択肢を用意しておくことで、予想外の出来事にもチーム力を大きく落とすことはなかった。
3つ目に、選手達のメンタリティ。
今季は苦しんでいた時期にSNS上で「諦めたやつはもういらない。闘えないやつはもう必要ない。(中略)魂込めて戦おうぜ。」と発した上島、「もう負けない。ただそれだけ」と発した増山など、勝つことへこだわり抜くことができた選手が多くいた。もちろんプロは誰しも結果を求めている。その中でも、今季のアビスパの選手達は特に秀でていた。
このこだわりによって一度勝ち出すとチーム全体に大きな勢いをもたらし、これが新型コロナの影響で過去にないほどの過密日程となってしまったシーズンにおいて大きなプラスへと働いた。
チームが強くなるためには、監督と強化部、その両輪がどちらも同じ方向を向き、上手く回転することが欠かせない。
それが叶って初めて監督が心の底からの自信を持て、その様子を見て選手も監督の目指すサッカーへの自信を持つことができるのだ。
それでは、紆余曲折ありながらも選手、フロント、スポンサー、サポーター、クラブに関わる全ての人が同じ方向を向きながら戦うことのできた2020シーズンを振り返っていく。
シーズン序盤戦
2020シーズン、長谷部アビスパ1年目の物語は2月23日。ミクスタでの北九州戦、福岡ダービーから始まった。
スタジアムを埋め尽くしたサポーターの熱気が伝わったのかお互いにアグレッシブな好ゲームとなったが、決着をつけたのはこの試合がJリーグデビューとなった遠野。
見事なボレーシュートで1-0の勝利に大きく貢献し、チームも好スタートを切った。
しかしここから、新型コロナウイルスの影響でJリーグは大幅な中断となってしまう。
サッカーがなく、いつ再開できるかも分からない日々。その辛さをサポーターだけでなく選手も感じたことだろう。
それと同時に、サッカーというものがいかに生活に、人生に根付いているかを改めて感じさせられる機会にもなった。
それでも様々な分野の関係者の方々の、多大なる努力のおかげで、無観客試合ではあるが6月28日にシーズン再開。
ここから、5連戦が当たり前という怒涛のシーズンが始まった。
再開直後のアビスパの選手達のコンディションはあまり良くなく、第2〜4節を1分2敗と苦しむ。
ただここは、過密日程を見越してあえてコンディションをあまり上げていないようにも見えた。
第5節の磐田戦で増山のゴールが決勝点となり、観客もいる中でのホーム初勝利。
続く第6節の徳島戦、第7節の岡山戦と3戦全て1-0で勝利し3連勝。勢いに乗ったかにみえた。
しかし、ただでさえ実力拮抗のJ2で、コロナ禍のなかでの戦いはそう簡単にはいかない。7月27日にチームスタッフ1名に陽性反応が出てしまうと、第8節の愛媛戦では引き分け。
さらに第9節の大宮戦までの間に、キャプテンでチームの中心だった前寛之に陽性反応が出てしまい、濃厚接触者もいたために第9節は延期に。
第10節からは開催できたものの、キャプテンの前はもちろん濃厚接触者数名を欠いたチームはベンチ入りぎりぎりの人数しかプレーできず。難しいやりくりを余儀なくされ、試合でも苦しんだ。
第10節からの7試合を1勝2分4敗。
第14節の栃木戦こそサロモンソンの直接FKで勝利したものの、あれよあれよと順位は低下し、第16節の千葉戦に引き分けた時点で17位にまで下降してしまう。
しかし、転機になったのもこの千葉戦だった。
1-2とリードされて迎えた後半アディショナルタイム、それもラストワンプレー。
素早いスローインから松本が上げたクロスにフアンマが頭で合わせ、土壇場で同点に追い付いたのだった。
シーズン中盤戦
この粘り強さ、そして待望の前の復帰で、第17節の山口戦からチームは大きく変化を遂げる。
苦しい試合であっても白星を積み重ねることで自信を深め、さらに結果に繋がるという好循環。
延期分の第9節も含めて第27節まで怒涛の12連勝でクラブ新記録を更新。一気に首位にまで浮上した。
この中で、印象的なゴールがたくさん生まれた。
連勝のスタートとなった第17節・山口戦での湯澤のクロスに合わせた遠野のダイビングヘッド、第21節・群馬戦での前のロングパスに増山が抜け出して左足で決めたゴール。
第22節・長崎戦のフアンマの落としから石津の完璧なボレーシュート。
さらに、第23節・栃木戦、大幅にメンバーを入れ替えたこともあり膠着した試合での、プロで初めて蹴ったとは思えない福満の完璧な直接FK、決まったあとの咆哮。
第26節・新潟戦での、追い付かれて流れを持っていかれそうになりながらも、新潟のCKから増山が一気に持ち上がっての福満の決勝ゴール。
もちろんこれら以外のゴールもだが、これらは特に勝利への強い意志を感じる素晴らしいものだった。
ただ、もちろん白星の行進はいつまでも続くものではない。第28節の町田戦で得点を奪い切れずに0-0でストップすると、第30節の磐田戦と第32節の松本戦に敗れたこともあり、徳島に抜かれて2位が定位置となってしまう。
シーズン終盤戦
新型コロナウイルスの影響で例外的に設けられた秋(10月)の移籍市場が昇格争いに大きな影響をもらたす。アビスパは昇格へのラストピースとして、10月6日に山形のトップスコアラーだったFW山岸を獲得。
すると3位長崎は、28日にC大阪からDF庄司、29日には2019シーズンJ1で11得点を奪ったFWエジガル・ジュニオを獲得した。そしてエジガルは早速、第30節から4戦4発。チームも4連勝し一気に迫ってきたが、それでも粘り強さこそ今季のアビスパの真骨頂。
第33節の琉球戦に山岸のアビスパ加入後初を含む2ゴールで勝利すると、そこから引き分けはあれど毎節勝ち点を積み続けていく。
最終盤では、第39節のホーム・金沢戦で0-2の劣勢から田邉、遠野のゴールで追い付いたことが大きかった。
このドローで一時的には長崎との勝ち点差が2に縮まってしまったが、チームとしては再び勢いを増す。続く第40節の京都戦では今シーズン最高とも言うべき内容で2-0の快勝。
第41節・愛媛戦にも2-0で勝利。同時刻に行われていた長崎と甲府の試合が同点のまま終わった瞬間、ついに決着の時を迎えた。
その勢いのまま最終節では首位・徳島にも勝利し、最後は10戦負けなし。得失点差で徳島に及ばず2位ではあったが、勝ち点84は見事な成績であった。
来季に向けて
来季も続投することが発表された長谷部監督と共に、5年ぶりのJ1へ挑むこととなる。
昇格はゴールではなく、あくまでもアビスパ福岡がJ1に定着し、将来的に強豪クラブとなるためのスタート。
来季はその大きな目標に向けての第一歩となるが、事はそう簡単ではない。
今季は降格するクラブがないために来季のJ1は20チームで争われるが、2021シーズンにはチーム数を通常通りの18に戻す。つまり、来季は4クラブが降格となってしまう。
そんな過酷なJ1を戦い抜き、何がなんでも悲願である残留を果たさねばならない。そのための戦いはすでに始まっている。
来季に向けたチーム作り
チーム作りというものはしばしば、料理に例えられる。
来季も長谷部茂利という優れたシェフがその腕前でできる限りの創意工夫を重ねるだろうが、そもそもの材料が良くなければそれにも限界がある。
だからこそ、調理が始まるよりも前、つまりはチームのトレーニングが始まるまでに良い材料=選手を集めるという強化部の仕事が極めて重要なのだ。
そこで、J1で目標を達成していくためにクラブが、特に強化部がどういった方向性で進むべきなのか、個人的な考えを纏める。
現状と来季に関しては現実を直視し厳しいことも書いているが、全ては来季残留を達成ほしいからで、そののちにはJ1で強豪になってもらいたいからだ。
もしかすると読んでいて腹の立つ方もいるかもしれないが、ご了承いただければと思う。
なお、今回記したのはあくまでも方向性であり、あえて具体的な選手名は出していない。
まず前提として、アビスパが来季目指すべき姿と数年後目指すべき姿とでは、大まかな方向性では同じでも目的地はやや異なっている。
アビスパの現状
来季はきっと、クラブとしては中位を目指すという発言になるだろう。が、現実的に考えると残留さえできれば100点と言っていい。
早速現実を突き付けることになってしまうが、来季のアビスパは、資金力ではJ1の中でおそらく下から1〜4番目。
また現在のチーム力を単純に順位で評価すると、J2の2位ということはJ1においては1番下ということになる。
さらに、今季のチームの主力は期限付き移籍で加入していた選手が多い。
主力のうち、遠野(川崎)、上島(柏)、増山(神戸)、サロモンソンと松本(広島)、福満(C大阪)と6選手。怪我での離脱が多かった菊池を含めると7選手も期限付き移籍での所属だった。
期限付き移籍とは選手を借りるということであり、借りたものは返すのが基本。
すでに福満は期限付き移籍期間の満了と千葉への完全移籍が発表されたが、残す6選手のうち2人を期限付き移籍の延長という形であっても残すことができれば上出来だろう。
ということは主力が複数人抜けるのは確実ということになる。
そして上にも書いたように、来季は4チームが降格する。
つまり、お金はない、戦力もJ1では厳しい。期限付き移籍期間が満了し所属元へ戻る主力もいる。降格するチーム数も多い。
という状況からスタートし、補強をして残留しなくてはならない。
ここまでネガティブなことばかりを書いたが、とはいえもちろんポジティブな要素もある。
長谷部監督はただ理想を追うのではなく現実をしっかりと見つめ、現有戦力を最大限にいかすということに長けている。
今季にしても、本当ならば水戸を率いていた頃のように、より前から、より攻撃にエネルギーを割くサッカーをしたかったに違いない。
現に開幕戦の北九州戦ではその片鱗が見えていた。
けれども、何よりの目標は攻撃的に戦うことではなく開幕前に掲げた勝ち点81。極端な過密日程と選手の適正を照らし合わせ、その目標を達成できる確率の高い方法を選んだのだろう。
守備ブロックを作り、まずは失点のリスクを減らしながらカウンターでゴールを目指す。そうやってウノゼロ(1-0)の勝利を重ねていった。
この現実を見ることのできる目は、より厳しい戦いとなるであろうJ1の舞台でも発揮されるはずだ。
さらに、チームの背骨とも言うべきセンターライン(GK、CB、CH、FW)の戦力が充実している。
GKは村上(セランテスは契約満了)、CBにはグローリとグティエレス。CHは重廣、前。FWにもフアンマと山岸。さらに昨日、大分から突破力とシュートの上手さを持つ渡の獲得が発表された。
それ以外にもCB上島、CH松本、FW遠野と期限付き移籍組が残る可能性もあるが、彼らが所属元のクラブへと戻ってしまったとしても、過去の昇格時にここまでセンターラインが整っていたことは一度たりともなかった。
また、川森社長をはじめとするフロントが前回の昇格を経験していることも大きい。期待と共に大きな危機感を持ってJ1に挑むことができる。コロナ禍のためできないこともあるにせよ、可能な限りの用意周到さは大切だ。
来季目指すべき姿
さて、現実を並べ終えたところで、では具体的にどうすべきかだ。
もちろん最初にすべきは、期限付き移籍組の慰留。ここはすでに着手しているだろう。
完全移籍への移行が無理であれば期限付き移籍の延長という形でもいい。すでに長谷部サッカーが浸透している主力は可能な限り残すべきだ。
ただ、期限付き移籍組だけでなく現在の主力が引き抜かれてしまう可能性もあるし、そもそも現有戦力でJ1に挑むのは無謀というもの。
残留のためには補強が必要不可欠となる。
問題なのは、資金力に乏しいなかでどういった選手の獲得を目指すかだ。
そこで参考になるチームが、近場にある。
大分トリニータだ。大分は、資金力ではJ1で最下位。だが、順位は昨季は9位、今季も11位と中位に付けている。見事な成績だと言っていい。
その秘訣は、「片野坂監督のサッカーに合う、J1での実績があまりない選手」を補強できていることにある。
具体的に挙げると、湘南で活躍したが鹿島では出場機会を失っていた三竿雄斗、甲府で光るものを見せていた島川俊郎、J2の横浜FCと徳島で活躍した野村直輝など。大分はそれに加えて優れた新卒選手を獲ることにも長けているが、そこを真似することは1年では難しいだろう。
もちろん片野坂監督の手腕は素晴らしい。けれども、資金力の乏しいクラブが残留するためには監督の手腕に加えて強化部の手腕というものも大切なのである。
(ただ、上の大分の部分を書いたのちに、島川俊郎、田中達也など主力の多くが他チームへ移籍することが発表された。やはり、2〜3年のうちに資金力を増すことは欠かせない。)
アビスパも来季に向けて、長谷部監督のサッカーに合う、名より実の補強で着実にチーム力を上げるべきだ。
つまり、J1で出場機会に恵まれていない選手やJ2の資金力のないクラブで活躍している選手を狙うべき。
FW渡の獲得と、先日報道があった鳥栖のCB宮へのオファーというものはまさにこの狙いに当てはまる。
また、残留だけが目標となる来季はともかく、2022シーズン以降は有望な新卒選手の獲得、そして実を結ぶまでに時間のかかるユースの強化にも力を注ぐ必要がある。
3~5年後目指すべき姿
来季は何がなんでも残留し、その後も残留を繰り返すことで少しずつ資金力を上げていく。もちろんその中では主力を引き抜かれることもあるだろうし、引き抜きなり解任なりで監督交代を迎える可能性もある。
主力選手は複数年契約を結んでおくことで移籍金(違約金)を得て、次の補強の原資とすることが求められる。監督交代に関しても、長谷部監督と同じ方向性の人物を精査して招聘し、路線は変えてはならない。
もしもこの途中で低迷してしまった場合も慌てて身の丈に合わないことをするのではなく、ピンポイント補強で乗り切ることを考える。
それでダメであれば、どこかが間違えていたのだろう。照査し、反省し、もう一度最初からやり直せばいい。
強くなることはもちろん大事だが、一番でない。長期に渡ってクラブを安定して運営することこそが、一番大事なことだからだ。
その先、目指すべき姿
次の段階は中位で安定しての残留が目標となる。
この頃には新卒選手の獲得への競争力も少しずつ上がってくるだろうし、フロントの頑張りで年間予算も今よりは大きく増えていることを期待したい。
そうなってきたならば、次に目標とすべきクラブはサンフレッチェ広島だ。
資金力では真ん中より下なのだが、2012、13、15年とリーグ優勝を経験し、今季も8位。
広島はユースが強く、そこから上がってくる選手が多い。それ以外でも優れた新卒選手を獲得し、育成することに長けている。
だから選手の獲得にお金を使うことが少なく、若手を積極的に起用する土壌もある。そうやって日本代表クラスの選手を何人も生み出してきた。
また、広島は意外とベテランの選手も多い。
実はベテランには大きなメリットがある。キャプテンシーや自らの経験をチームに還元してくれることもそうだが、若手選手と比べて引き抜かれにくいのだ。だからある程度の資金力があれば、計算の立つベテランを適正な人数保有しておくことで、短い期間での大幅な戦力低下を防ぐことができる。
資金力が決して豊富でないクラブが優勝を狙えるまでになるためには、ユースの強化と優れた新卒の獲得、実力の確かなベテランの確保。
加えて期限付き移籍で借りる側ではなく貸す側になること、外国籍枠も駆使して足りない部分はピンポイントに補強を行うことも大切だ。
だが、それらの条件を満たせばJ1優勝も決して不可能ではない。サッカーは、特にJリーグは、資金力=順位ではないことはこれまでの歴史が証明してきた。
ここまで来る過程にはもちろんアップダウンがあるだろう。それでも、フロントは常に一定の方向を向いていなければならない。
アビスパ福岡への想い
夢物語のように聞こえるかもしれない。
後半部分は理想論に思えるかもしれない。
けれども、実際にやれているクラブがある。
フロントのより一層の努力はもちろん必須だが、福岡という大都市に本拠地を置くアビスパがやれないわけはない。
ただし、そういったクラブになるためには多くの時間がかかるだろうし、その過程では再び低迷してしまう時期も来るかもしれない。
それでも、大事なことだから何度も言うが安易に方向性を変えないこと。
鹿島しかり、広島しかり、川崎しかり。綺麗な花を咲かせたクラブは、それぞれの哲学や方向性を定めたうえで種を撒き、地道に育ててきたからこそ達成できた。
どこかのタイミングでそこをどうしても変えるのならば、相応の理由と覚悟が必要不可欠となる。
誰になんと言われようと、アビスパ福岡というクラブがJ1で優勝しアジアや世界を相手に試合をする、その日が訪れることを本気で信じている。
厳しいことも言うが、全ての根本にはクラブへの愛情がある。
これまでの25年間の歴史は悔しい思いをすることが多かったが、悔しさは強くなるための糧となる。喜びを増幅するものにもなる。だからいつか報われると信じて、我々は来季もまた応援するのである。
2020シーズンの個々の出場数(最大42試合)、出場時間(最大3780分)、採点(平均5.5)と寸評
今シーズン終了時点でアビスパに所属していた全選手の簡単なデータと、シーズン全体の採点と寸評を纏め、独自にMVPも選出した。
採点には異論もあることだろうが、文句を言うことも含めて楽しんで頂けると嬉しい。
GKセランテス 26試合 2340分出場 7.5 村上の台頭で出場数は昨季よりも減ったが、出場時のプレーはさすがの一言。金沢戦の左足でのセーブや大宮戦の片手セーブなど、ビッグセーブでチームを助けた。しかし、今季限りで契約満了に。
GK山ノ井拓己 1試合 77分出場 5.5 最終節についにJリーグデビュー。これまでの悔しさを晴らすかのように2つの好セーブを見せた。足が攣っての交代はご愛嬌。来季、J1での活躍に期待。
GK杉山力裕 2試合 103分出場 5.5 準備を怠ることなく、ベテランらしく出場機会が訪れた際には安定したプレーを披露。また、選手会長として若手選手の手本になった。来季はJ1での豊富な経験をいかしたい。
GK村上昌謙 14試合 1260分出場 6.5 セービングに関してはセランテスにも全く引けをとらず、中盤戦ではポジションを奪ってみせた。ただ、ハイボールへの対応と飛び出すかの判断の部分はJ1で戦う来季への大きな課題だ。
DF湯澤聖人 26試合 1604分出場 6.0 両SBを務められるユーティリティさで大きく貢献。ミスもなかったわけではないが、試合をこなすごとに対人守備が安定した。来季も、湯澤は信用できる、と言わせてほしい。
DFエミル・サロモンソン 39試合 3200分出場 7.0 抜群の右足の精度で10アシスト。J2のアシストランキングトップに輝いた。疲労が溜まった際にはっきりと精度が落ちることはマイナス点。
DFカルロス・グティエレス 5試合 450分出場 6.0 キャンプに入る前に右膝前十字靭帯損傷の大怪我。それでも終盤戦に復帰すると、長谷部監督が「凄いですよ」と言うだけの実力を披露。柔の守備で、来季はCBの軸の1人としての期待がかかる。
DF三國ケネディエブス 19試合 532分出場 6.0 線の細さがだいぶ解消され、CBとして昨季より安定したパフォーマンス。第8節の愛媛戦ではFWとしてゴールを決めた。
DF輪湖直樹 34試合 2405分出場 7.0 攻撃で目立つシーンはやや少なかったが、対人守備に強く、シーズンを通してプレーの質が非常に安定していた。来季、2017シーズン以来となるJ1で左サイドの門番となる。
DF桑原海人 2試合 171分出場 5.5 第23節の栃木戦でデビュー。身長こそ小さいが当たり負けせず、出場した2試合では持ち味をしっかり示した。
DFドウグラス・グローリ 28試合 2397分出場 8.0 グティエレスの怪我をうけての緊急補強だったが、すぐに主力として定着。潰すことと跳ね返すことにおいて右に出る者はいなかった。来季の契約更新が発表され、J1での活躍にも期待。
DF篠原弘次郎 12試合 872分出場 6.0 出場機会は限られたが、堅実なプレーを見せ出来は決して悪くなかった。来季は松本山雅へ完全移籍することが発表された。
DF藤井悠太 9試合 285分出場 6.0 ボランチとして出場した際は苦しんだが、RSBとしては非常に堅実なプレーを見せた。来季は群馬へ完全移籍することに。
DF森山公弥 採点不能 今季2種登録され、来季はトップチームへ昇格。J1でのプロデビューを狙う。
DF上島拓巳 41試合 3480分出場 8.0 MVP。チーム最多の出場数、出場時間を記録。闘う姿勢を前面に出し、ディフェンスリーダーとしてリーグ最少失点に輝いた守備陣を纏めた。
MF前寛之 30試合 2389分出場 8.0 序盤は離脱したが、復帰して以降チームは大きく変貌を遂げた。ポジショニングの良さで常にチームのバランスを保ち続けた。来季、札幌にいた17年以来のJ1の舞台で、大きく成長した姿を披露する。
MF重廣卓也 19試合 1414分出場 7.0 怪我での大幅な離脱は残念だったが、終盤戦は出場するごとにコンディションを上げ、最終節ではほぼ完璧な内容。契約更新も発表され、来季への期待は大きい。
MF鈴木惇 19試合 1171分出場 5.5 序盤戦は離脱者の相次いだボランチの貴重な戦力となった。しかし長谷部監督のサッカーにアジャストできず。今季限りでの契約満了が発表された。
MF増山朝陽 36試合 2187分出場 7.0 スピードと運動量を武器に、RSHの一番手として攻守に躍動。5得点を挙げた。ただ、終盤は研究されて縦を切られ、苦しむ試合も。
MF福満隆貴 26試合 1403分出場 6.0 中盤戦では離脱してしまったが、SHとして昇格に貢献。天才肌のプレーを見せる一方で無理のあるパスもちらほら。来季は千葉へ完全移籍することが発表された。
MF田邉草民 20試合 1180分出場 6.0 序盤はボランチ、終盤はLSHとして出場。上手い選手から上手くて闘える選手へと進化し、最終盤のキーマンの1人となった。J1をよく知る者として、来季は残留に大きく貢献してくれるはずだ。
MF北島祐二 8試合 290分出場 5.5 中盤戦まで一定の出場機会を得たが、大きなインパクトは残せず。突破力は魅力であり、今後に期待。
MF菊池大介 16試合 734分出場 5.0 10試合でスタメンに名を連ねたが、フル出場は一度もなく、第23節の栃木戦が最後の出場に。期待を考えると消化不良のシーズンとなってしまった。
MF松本泰志 25試合 1699分出場 7.0 8月20日に加入すると、即座にレギュラーに定着。目立つプレーが多いタイプではないが、チームにリズムをもたらしてくれた。
FWフアンマ・デルガド 34試合 2370分出場 7.0 ポストプレーや献身的な守備でチームに大きく貢献。ただ、警告10は多過ぎるし、期待値を考えると8得点は満足の数字とは言えない。来季はJ1での二桁得点に期待。
FW城後寿 25試合 681分出場 5.5 スピードの衰えは否めないが、主に途中出場でピッチを駆け回った。来季の契約更新も発表。福岡のバンディエラは背中でチームを引っ張り、今度こそ残留に導く。
FW山岸祐也 17試合 1135分出場 6.5 昇格へのラストピースとして、10月に山形から完全移籍で加入。3得点と得点数は伸びなかったが、巧みなボールコントロールとキープで攻撃へのスイッチ役を担った。来季、J1で活躍するための課題はパスを出したあとにゴール前へ入る動き。
FW木戸皓貴 26試合 735分出場 6.0 FW登録ではあったが主にSHとして出場。守備の強度が大きく上がった1年だった。完全移籍で、来季は山形でプレーすることが発表された。
FW石津大介 26試合 1468分出場 7.0 今年一番変化を遂げた選手ではなかろうか。昨年の大怪我でスピードが落ちた代わりに、守備力がこれまでと比べ物にならないほどに向上した。来季、神戸時代以来のJ1で暴れてくれることを期待。
FW東家聡樹 13試合 466分出場 5.5 SHでプレーする機会が多かった。身体を入れ替えて突破するなど一瞬の上手さは見せたが、FWとして得点に関わる姿を見たい。
FW遠野大弥 41試合 3012分出場 8.0 開幕戦の決勝ゴールに始まり、昇格を決めた愛媛戦での2点目まで、Jリーグ1年目ながら11得点を奪いチーム得点王に輝いた。守備でも大きく貢献。ダイヤの輝きは今後も増すことだろう。