新加入選手紹介:吉岡雅和 出場さえできなかったJ1で
シーズンオフの間、アビスパの右SHは選手が足りない状態が続いていた。
昨季、豊富な運動量とスピードで活躍をみせた増山朝陽が所属元のヴィッセル神戸へと復帰。さらに増山とポジションを争っていた福満隆貴も期限付き移籍期間の満了、そしてジェフユナイテッド千葉へ完全移籍をしたからだ。
明らかに補強が必要な状況だった。
その後、オランダ2部のローダJCからクルークスを獲得したものの、緊急事態宣言の影響もありいつ来日できるのかはっきりしない状況となっている。
昨シーズンは左SHが主戦場だった田邉草民はいるものの、層の薄さは否めない。どうするのかと不安があった中、1月12日にV・ファーレン長崎から吉岡雅和の獲得が発表された。
吉岡はおそらく田邉とのポジション争い、クルークスが来日すれば三つ巴の争いになることが予想される。
吉岡のサッカー人生、そしてどんな選手なのかを纏めた。
学校の歴史に名を刻む初出場
長崎県南島原市出身の吉岡は、雲仙市の雲仙エスティオールというクラブチームでサッカーを始めた。
中学生年代までエスティオールでプレーを続け、選んだ進学先は長崎総合科学大学附属高校。
現在でこそサッカーの強豪校として有名だが吉岡が入学したのは、国見高校を全国屈指の強豪校に育てたことで有名な小嶺忠敏氏が2008年に総監督(その後監督に)に着任して以降メキメキと力を付けつつあった真っ只中。
まだ全国高校サッカー選手権へ出場したことのない、新興勢力にすぎなかった。
吉岡はここで寮生活を送ることになるのだが、親元を離れてでもこの高校でサッカーをしたかったのだろう。
小嶺氏ら指導者からサッカーのことはもちろん、「普段の生活とサッカーは繋がっている」ことなど指導を受け選手としても人間としても成長。
3年時の2012年度には、新人戦、高校総体、県リーグと3冠を達成。そして念願の選手権でも県大会決勝へと進出した。
全国高校サッカー選手権初出場をかけて挑んだ長崎日大高校との決勝戦で、FWとして出場した吉岡が輝きを放つ。
開始早々の前半2分、左サイドを突破してシュートを打つと、こぼれ球を味方が決めて先制。
その後2-0としたのちに1点を返されたが、後半31分にはクロスに吉岡が頭で合わせて3-1と突き放す。
そのまま試合を終え、学校の歴史に残る全国高校サッカー選手権初出場を、2得点に絡む活躍で手繰り寄せてみせた。
全国の舞台でも初出場ながらベスト16まで進出し、長崎総合の名を日本中に広めている。
ちなみに吉岡は高校生の頃にはすでに、当時JFL所属のV・ファーレン長崎のファンだったそうだ。
駒澤大学と長崎での1年目
高校卒業後は、関東大学サッカーリーグでプレーしてみたかったこと、指導者から勧められたことで駒澤大学へと進学。
はじめは高校生の頃とはまるで違うフィジカルとスピードに戸惑ったものの、4年時には背番号10を付けるほどに。
第90回関東大学サッカーリーグではベストイレブンにも選出されている。
卒業前に、J2の舞台で戦っていたV・ファーレン長崎からオファーが届き、2017年に入団。開幕戦のザスパクサツ戦で早速スタメンに入りJ初出場と、順調なスタートを切った。
その後も第3節までスタメンだったが、結果を出せずベンチが定位置に。それでも途中出場を重ね、第37節のレノファ山口FC戦でついにJリーグ初得点。
このシーズンはシャドーの位置で19試合に出場し2得点1アシスト。
チームは初のJ1昇格を達成した。
翌年、J1へ挑むチームにおいて、しかし吉岡は苦しむ。コンディションが安定せず、6月にはJ3のカターレ富山へと育成型期限付き移籍。
怪我とコンディション不良に悩まされ、3試合出場0得点とここでも数字を残せず。
これを受けて他クラブへの放出も検討されたようだが、2019年長崎へ復帰する。
本人いわく「チームメートの中で1番下」からスタートしたが、交代浴や食事の節制などコンディション維持に努めることで結果が付いてくるように。
左右のSHの位置で、途中から出場して流れを変えるジョーカーとして定着するなど計30試合に出場して4得点。
また、ルヴァンカップでは8試合で4得点を決め、得点ランキング3位タイと数字を残した。
一定以上の活躍は見せたように見えたが、本人はメンタル面のムラを反省点に挙げるなど決して満足していなかった。
2020シーズンは背番号を7に変え、さらなる活躍を誓ったが名倉などの台頭もあり14試合1得点と前年越えはならず。
そして昨日、J1に昇格したアビスパ福岡への移籍が発表された。
長崎を出るという覚悟
個人的には吉岡の移籍を知った時、柏レイソルへ復帰した上島拓巳の「スケールの大きい選手になるためには心地良すぎる環境から抜け出して、より厳しい環境に飛び込む必要がある」というコメントを思い出した。
長崎で生まれ、学生時代からV・ファーレンが好きという長崎愛に溢れた吉岡が移籍を決断したということは余程の覚悟を持ってのものだろうし、上島と同じような心境でアビスパへの移籍を選択したのだろう。
その覚悟が強さに変わり、2018年には出場さえ出来なかったJ1で活躍してくれることを期待したい。
ルヴァンカップでJ1勢からも得点を挙げたように、コンディションを整えられれば力は十分にあるのだから。
長谷部サッカーとの適合性
長谷部監督がSHに求める、豊富な運動量は吉岡の大きな武器でもある。
高校時代は嫌々走っていたそうだが、それでもちゃんと走っていたことで「運動量豊富なアタッカー」という吉岡のプレースタイルが確立されることへと繋がった。
2列目ならばどこでもプレーできるし、ボールコントロールの技術も高い。
個で運ぶというよりも周りとの連携からパス&ゴーでゴール前に入っていくタイプのため、早いうちからチームメートとコミュニケーションを取っていく必要があるが、その点においては明るい性格が役立つはずだ。
ただ、正直なことを言えば、現時点でアビスパサポーターからの期待はあまり大きくない。
だが思い返してほしい。昨年ブレイクした上島や遠野も、この時期は同じような評価だった。
成長のために長崎を離れた吉岡の覚悟がメンタル面のムラをなくすことへと繋がり、そしてサポーターが掌返しをするような活躍を見せてくれることを期待したい。
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