在籍期間の長い選手に捧ぐ:石津大介
こんなことを言うと批判の意見を食らうかもしれないが、僕は一昨年まで、自分の中で石津大介のことを「パートタイムプレーヤー(※個人的な造語)」と呼んでいた。
運動量が特別多いわけではないのにスタミナが90分(フルタイム)保たず、途中交代することが多かったためだ。
しかし昨年の1年間で、石津のプレースタイルは大きく変貌を遂げた。
90分を通して、攻守両面でチームに貢献できる選手へと。
私見だが、昨季の石津は増山と並びSHのベストプレーヤーだとさえ感じている。
おそらく、一昨年負った大怪我によりうまれた覚悟、そして長谷部監督との出会い、その2つが重なったためにここまで変わることができたのだろう。
一昨年までの石津大介
とはいえ、もちろん一昨年までが守備をしなかったわけではない。主戦場は現在と同じく左SHだったし、常に守備での働きも求められてきた。
主に対面するSBの攻め上がりを牽制しつつ前方へのパスコースを切るという、左サイドを上下に守るという形で。
福岡大学を卒業し2012年にアビスパに加入した石津の最大の武器は、相手の逆を取る切り返しを駆使したドリブルからのシュートだった。
この強烈な強みはアビスパではもちろん、期限付き移籍で2014シーズンの途中から約2年半プレーしたJ1のヴィッセル神戸でも一定の評価は受けていた。実際にその間、リーグ戦計59試合へ出場している。
しかし2019年7月6日に、右膝前十字靭帯損傷・外側側副靭帯損傷・外側半月板損傷という大怪我を負ったことが彼を大きく変えるきっかけとなった。
昨季の進化
クラブはその後2020シーズンに向け、全員に素早い切り替えと攻守に貢献することを求める、長谷部茂利氏の監督就任を発表。
さらに長谷部サッカーの肝であるSHには、運動量豊富な福満や菊池、スピードとドリブルに特徴を持つ増山を立て続けに獲得した。
即戦力を3人獲得したうえ、監督の求めるものと石津のプレースタイルとは合致しない。それも足に大怪我を負ってしまいスピードやキレが落ちる可能性も十分にある。そんな状況で長谷部監督が彼をどう起用するのか、注視していた。
そして迎えた昨シーズンの開幕戦。アウェー、ミクニワールドスタジアムで行われたギラヴァンツ北九州戦のスタメンの中に、石津はいた。
シーズンの始まりを告げるこの試合で、大怪我による長期離脱から復帰を果たしたことにまず喜び、プレーを観て驚いた。
明らかに運動量が増し、守備にも積極的に関与しているのだ。試合終盤はさすがに疲労を感じさせたが、そのままフル出場。一方で、怪我をする前と比べてスピードが落ち、ドリブルで相手を抜けなくなってもいた。
その後の試合でも守備で貢献するシーンは増え続け、ポジショニングも明らかに良くなっていく。
アビスパの右サイド側から攻められた際に素早く帰陣して中央に絞り、バイタルエリアを守る姿には非常に嬉しい驚きがあった。
攻撃においても、突破力は失われたがシュートの巧みさは以前のままだったし、むしろボールを持ち過ぎてロストするシーンが格段に減少している。
きっと彼自身が怪我を経て改めてサッカーに向き合い、自分のできることとできないこと、長谷部監督のもとで試合に出場するために必要なことをよく理解できているのだろう。
個人的には華麗な突破を見せていた石津以上に、攻守にアグレッシブに戦い労を惜しまない石津のほうが、より応援したくなる。
今季への期待
今季、J1という日本最高峰の舞台で活躍するためにはまず、新加入の杉本や田邉などとの争いを制さねばならない。
それでも、石津は果敢に戦い続ける。昨季のプレーを観て、そう確信できる。
溺愛する愛娘にとってカッコいいパパで居続けるために。そして一定の活躍しか出来なかったJ1に、アビスパの選手としてしっかりと名を刻むためにも。