第33節 北海道コンサドーレ札幌vsアビスパ福岡
この試合の争点
今節のスターティングメンバーを見た時、驚きと共に思い出されたのは第節、川崎フロンターレ戦のことだった。
この試合でのアビスパ福岡は、無敗で首位を快走するフロンターレを相手に前の試合からメンバーを大幅に変更。圧倒的なパスワークで得点を量産している相手に前線からの猛烈なプレスという積極策で対抗し、途中出場のジョルディ・クルークスのゴラッソで1-0の勝利を収めていた。
いや、ある意味ではこの時以上の驚きだったかもしれない。
北海道コンサドーレ札幌の持ち味は、2018シーズンから指揮を執る、ミハイロ・ペドロヴィッチ監督が作り上げた3-4-2-1システム。
それをさらに進化させるべく、欧州のトレンドの1つ「オールコートマンツーマンディフェンス」を昨季から取り入れている。
相手の陣形に合わせて人に付き、高い位置でのボール奪取を狙う戦い方は数多くのチームを苦しめ、2020シーズンの第26節ではその後優勝を果たす川崎フロンターレに2-0での勝利を収めている。
この難敵を相手に、アビスパを指揮する長谷部茂利監督が選んだのは3-4-2-1。
昨季から約2シーズンに渡ってほぼ毎試合使用してきた4-4-2ではなく、あえてコンサドーレと同形にしてぶつけたのである。
目指したのは「目の前の相手に負けないこと」と「コンサドーレのプレスを受けないこと」。
前者は昨季から大切にしてきた部分であり、コンサドーレの良さを消すことにも繋がる。
同形にすることで浮いている選手を作らせず、WBには対人の強さに優れる湯澤と志知を起用し、CHには対人の強さに加え人に付くことに長けたカウエを配置。
これによってコンサドーレを無失点、決定機も前半に小柏剛に抜け出された1回に抑えた。
後者は今季のアビスパが、プレスに長けた相手と戦う際に用いる策の1つ。
リスクのあるエリアでは無理に縦に繋ごうとはせず、ピッチの横幅を使える場面では少ないタッチ数で横へ。横幅が使えない場面ではシンプルに前線の選手への長いボールを選択。
これらにより、コンサドーレのパスワークをいかした攻撃に対しては球際の部分で激しく戦い、ボールがアビスパに渡ってコンサドーレが激しくプレスをかけようとする場面ではプレスが届く時にはボールがそこにない状態を作り出した。
他方では、弊害も招くことになる。ボールを無理に繋がず、それでいて持つ時間が短いということはボール支配率が下がるということ。
だがアビスパの選手達にとって、それはストレスを溜める要因にはなり得ない。
今シーズンの平均ボール支配率はリーグ最下位。「いつものこと」でしかなかったのである。
講釈が長くなってしまったため、ここから先は多少巻きで。
前半戦
全体の適切な距離感、カウエと前のCHコンビ、CB3人の頑張りでコンサドーレの攻撃を封じた。
しかし唯一、31分にコンサドーレに訪れた決定機は非常に危険だった。
直前のプレーに対しオフサイドをアピールしていた宮がポジションを修正するのが遅れ、小柏剛にスペースを突かれた。
GK村上が飛び出したものの、冷静にかわされかけ失点やむなし。かと思ったが、小柏が足を滑らせたことで事なきを得た。
後半戦
後半開始から、プレーは悪くなかったもののイエローカードをもらっていたカウエと杉本太郎に代えて中村駿、山岸祐也を投入。
直後の47分、湯澤が足を滑らせ奪われる。そのまま持ち込んだチャナティップにシュートを許したが、ここは枠の外。
その後はアビスパの時間帯が続いたが、中でも後半から投入された山岸が器用さを見せ、受け手としても出し手としても奮闘したことは大きかった。
50分に宮のカットから、その山岸、メンデス、前、スペースに飛び出した渡と全て2タッチ以内で繋いだシーンはこの試合最大の見せ場。だがコンサドーレのGK菅野が立ちはだかりゴールならず。
山岸は58分にも、素早いターンで前を向くと、シュートフェイントから切り返し相手をかわしてシュート。GK正面だったが良さを示し続けた。
その後もやや優勢に試合を進めたアビスパは、84分にも少ないタッチ数で前線へと運び、山岸が縦に突破してフアンマへラストパス。完全にGKと1対1だったが、フアンマのシュートは懸命に戻った田中駿汰のブロックに防がれた。
コンサドーレをシュート5本、枠内は0に抑えたアビスパだったが、最後までゴールは奪えず。
スコアレスドローでの決着となった。
採点(及第点5.5)、寸評
GK村上昌謙 6.0 見せ場は少なかったが、集中力切らさず堅実にプレー。
CB奈良竜樹 6.5 高さと強さを古巣に見せつけた。間違いなく、チームに欠かせない選手の1人。
CBドウグラス・グローリ 6.5 抜群の強さ。22分に見せた突破に対するブロックなど、五分五分に近かった前半を無失点で終えられたことへの貢献度は非常に大きかった。
CB宮大樹 6.0 セルフジャッジから被決定機に繋がった31分の場面は要改善。それ以外は読みの鋭さと、精度の高い縦パスで攻守に貢献。
WB湯澤聖人 6.0 クリアミスから危険なシーンを招いたが、豊富な運動量で右サイドを縦横無尽に走った。
WB志知孝明 6.0 目立つ場面は多くなかったが、堅実なプレーと冷静な判断で貢献。出血によりアビスパ伝統のスイムキャップ姿にも。
CHカウエ 6.0 相手と同システムで人に付くという、この試合の戦術にマッチ。ただイエローカードをもらってしまい、前半のみの出場となった。
CH前寛之 6.5 古巣相手に成長を存分に示した。パスミスもあったが、幅広く動き攻撃の目を潰し続けた。
ST渡大生 6.0 攻守に走り続けたが、50分の決定機を決められず。出場の度に貢献しており、課題は明白だ。
ST杉本太郎 5.5 札幌のフィジカルコンタクトに潰されることが多く、求められていた役割を全うできなかった。
CFブルーノ・メンデス 6.0 自陣に深くまで戻るなど一定の献身性を見せたが、やはり彼は2トップの一角が最も適している。
CH中村駿 6.0 後半開始からカウエに代わり出場。3バックが基本の湘南にいたからか戦術理解度の高さからか、いつもと違う戦術にもピタリと嵌ってみせた。縦パスの精度も上がっている。
ST山岸祐也 6.5 後半開始から杉本に代わり出場。自分で相手をかわしてシュートにいく場面もフアンマに決定的なパスを出す場面もあるなど、器用さを存分に見せた。
CFフアンマ・デルガド 6.0 62分からメンデスに代わり出場。84分には1対1を迎えたが、慎重に行き過ぎブロック。高さをいかしCKに合わせる場面もあったが、ここもゴールならず。
ST金森健志 6.0 62分から渡に代わって出場。普段より中央寄りで見せた縦への推進力と積極性は、五輪代表候補だった頃を彷彿とさせた。
長谷部茂利監督 6.5 苦手な3バック相手に、同システムをぶつけ内容で上回ってみせた。結果は引き分けだが、オプションを示したことを評価。
印象的だったシーン
今回は特定の場面ではない。おそらく急造の陣形だったが、試合時間の経過と共に精度が上昇。監督の声かけはもちろん、プレーが切れる度に選手同士が声をかけあっていた。その姿勢があってこそだ。
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