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新加入選手紹介:渡大生 異色の、才能に溢れるストライカー

サッカーに詳しい方なら、この質問への答えはほぼ一致するだろう。性格的に変わった選手が多いポジションはどこか?

そう、FWである。恐らく、相手の裏を掻くことが大切なポジションだから少し変わっているぐらいのほうがいいのだろう。

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これまで、アビスパの選手を中心に何人もの記事を書いてきた。
しかし、これほど個性があって面白く、これほど書くのが難しかった人物はいない。

今季、大分から完全移籍で加入したFW、渡大生である。

渡大生という強烈な個性

選手の記事をいくつも書いてきたなかで、「プロになる選手はやはり似ている部分がある」と感じていた。
簡潔に言えば、努力を怠らず、自分を諦めず、発言にもどこか優等生感がある。

対して渡は自分がどう思われようと構わないらしく、過去に、プロになる気はなかったと公言したり、過去の所属先での出来事などをはっきりと発言している。それでいて、サブ組を盛り上げたいと考えていたり、また庶民的なところもある個性の強い選手なのである。

個人的には、やや変わっていて人間味溢れる選手というのは大好きだ。(記事に纏めるのは本当に大変だったが。)

相手を外すドリブルやシュートまでの流れるようなプレーが巧みな選手なのだが、まだ加入から間もなく、経歴などよく知らないという方も多いと思うので、どういったプレーヤーなのかをできるだけ伝えられたらと思う。

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中学・高校生の頃

先日、2020シーズン限りで引退となった中村憲剛の記事を載せた。その中に書いたが、憲剛はプロになれないと思ったことはないそうだ。渡はいきなり逆をいく。

中学生や高校生の頃、彼はプロになれるなんて全く思っていなかった。

親が美容師で同じ道に進みたいと思っていたこともあり、中学生の頃にいたってはサッカーはなんとなくやっていただけ。サッカーを見ることもなく、サッカーの熱は他の人より小さかった。

ただ、広島の強豪である広島皆実高等学校に進学して、全国高校サッカー選手権大会に出たいという気持ちは持っていた。

実際に広島皆実高校へ進学した渡は、選手権に出たいという目標のために高校時代は本当に努力した。周りの、プロになりたいという仲間と同じぐらいに。

その甲斐あって、2年時には早くも背番号10を付け攻撃的MFとして活躍すると、目標であった選手権にも出場する。

それでも高校3年生になってもプロになる気は全くなく、進学先も決め、将来は普通の会社に就職して営業をやるんだと考えていた。

予想外のプロへの道と、ギラヴァンツ北九州

そんな中、夏にギラヴァンツ北九州の練習に3日間だけ参加する。すると、後日もう一回来てと声をかけられ、その時には練習試合にも出場。そこで評価されて合格となり、プロへの道が突如開けたのである。

渡からすると驚きはあったがやはり嬉しく、ここから上を目指していくんだと、眠っていたハングリー精神に一気に火が付いた。

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晴れて2012年、北九州に入団。当時の北九州はまだJ2に参入して3年目。洗濯を自分でしなければならないような環境だった。

年俸も少なく苦しかったが、ここでハングリー精神を培ったことがこの先のプロサッカー人生に繋がっていく。

プロ1年目ながら第2節でJリーグ初出場を果たすと、第4節の水戸戦では早速Jリーグ初得点を奪ってみせる。

これらの活躍が評価され、6月にはU-19日本代表にも招集された渡。
これは、北九州にとって記念すべきクラブ初の代表招集となった。

一気に歩みを進めることとなった渡だが、この年の監督が三浦泰年氏だったことは大きな出会いであった。怒られることも多かったが、プロとしての覚悟を教わり、成長できていると感じていた。

しかし2013年、監督が柱谷幸一氏へと変わると空気感が真逆に。柱谷氏は和気あいあいとやることを大切にしていた。どちらが合うかは人それぞれだが、渡にとっては戸惑いが大きく、物足りなさを感じてしまう。

それでも北九州は、柱谷体制2年目にはJ1昇格プレーオフ圏内の5位と大躍進(当時J1ライセンスを持たなかったためプレーオフには出場できず)。
こういうやり方でも結果を出せるんだと知り、素直に凄いと感じていた。

4年目となる2015年も主力として7得点の結果を残すと、徳島ヴォルティスからオファーが届く。上を目指すという目標に向けて、渡は徳島への完全移籍を決断する。

徳島ヴォルティスでの量産

徳島1年目となる2016年、順位こそ9位で終えたものの、個人としてはリーグ戦で自己最多となる12得点。

また、徳島では洗濯をしてもらえ、クラブハウス、ロッカー、風呂もある。当時の北九州の環境を経験してきた渡にとってはこれらは当たり前のことではなく、毎日有り難みを感じながら練習していた。

リカルド・ロドリゲス体制となった翌年には、圧倒的な数字を残す。全試合に出場し、23得点。これはイバ(横浜FC、当時)に次ぐリーグ2位の得点数であり、J2が22チームになって以降、日本人選手の20得点以上は現在まででも5人しか達成していない。

渡は充実感を感じながらも、チームがゴールを獲ることに専念させてくれたからこそだと感じていた。

J1での3年間の経験

これだけの数字を残した渡をJ1のクラブが欲しがるのは自然なことである。2018年、地元のクラブであるサンフレッチェ広島に完全移籍しついにJ1へ挑むことに。広島を選んだのには、Jリーグで優勝したいという思いもあった。

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しかし、怪我の影響もあり、この年はリーグ1得点に終わる。

出場した際もサイドの裏に走って、後ろに戻して、守備をして。そこに意志はなく、相手との駆け引きもできていなかった。チームが勝つことは嬉しかったが、試合に出るのは自分じゃなくても良いんじゃないかとさえ思っていた。

それでも常に努力は続けたことで、広島での2年目、リーグの開幕戦でスタメンに名を連ねる。ACLのメルボルン・ビクトリー(オーストラリア)戦、大邱FC(韓国)戦では得点を挙げ、第7節の神戸戦では2得点を奪うなど序盤戦で結果を残すことに成功した。

だが、広島の選手層は厚い。次第にスタメンから外れることも増え、最終的にはリーグ戦で3得点。明確な数字は残せなかった。

翌、2020年には大分トリニータへ完全移籍。
スタメン、途中出場含め一定の出場機会が与えられたが、リーグ戦23試合で2得点。

そして2020年12月30日、アビスパ福岡への完全移籍での加入が発表された。

渡大生への期待

ここからは完全に私個人の考えになるが、渡大生というプレーヤーが活躍するには「いかに明確にプレーしてもらうか」が大切であるように感じている。

彼は元々、悩みが毎日あり一杯考えて1日を終えたい、というほどによく考えるタイプだ。

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試合においては、タスクに対してその理由をきちんと説明し、渡が迷うことなくはっきりとした答えを持ってプレーできるようにすべきであろう。

そしてそれは、長谷部監督の得意な部分でもある。

昨季のアビスパは守備の時間が長い試合が多かった。通常、選手は守備より攻撃をすることが楽しいものだ。基本的に攻撃は能動的に、守備は受動的に行うことが多いからだが、昨季のアビスパの選手からは「守備が楽しいと初めて思えた」というコメントが聞かれた。

長谷部監督が能動的な守備を志向し、プレーの意味を選手達に伝えられているからこそだろう。

渡が守備時も攻撃時も全く迷うことなくプレーできれば、守備で貢献しつつ、得点に絡むこともできる。そう考え、期待している。

彼は決して守備をしたくない選手ではない。むしろ、ボールを奪う時は相手に対して殺意に近い程の気持ちを、プレスをかける時も叩き潰してやるぐらいの気持ちを持っている。

試合全体に対しても、極めて強い想いを持って挑んでいる。
ここで死んでもいいとさえ思っていることもある。それ程のハングリーさを、迷うことことなく真っ直ぐ向けられるようにできれば、自然と数字は付いてくるはずだ。

人間性と個性は武器

広島へ移籍したのちにもなお、北九州時代の名残りで自販機でジュース1つ買うのにも抵抗があり、財布にほとんどお金を入れていなかった渡。

J1でプレーする選手とは思えないほどに庶民的で、自分もなかなか試合に出られない時を経験したこともあってサブ組を盛り上げたいという気持ちも持っている。

個性が武器になる、FWというポジションだ。すべきことが明確になった人間味溢れるストライカーが、今季の攻撃の中心を担っても何一つ驚きはない。


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