価格の同調的引上げに対する報告徴収の狙い#5(5/6)

 1977年(昭和52年)の独占禁止法改正によって導入された「価格の同調的引上げに関する報告徴収」(旧18条の2)は、一定の寡占市場(市場規模600億円超かつ上位3社の市場占拠率の合計が70%超)において、同種の財ないしサービスの価格について、首位事業者を含む2以上の事業者が「3か月以内に、同一または近似の額または率の引上げをしたとき」に公正取引委員会がその理由について報告を求めるものである。
 公正取引委員会は、当該報告徴収のあと、その内容を年に一度刊行される公正取引委員会の年次報告書(独占禁止白書)において公表する。年次報告書は、国会での報告を経て、他の政府機関の白書と同様、刊行物としてまた電子データとして国民一般の目にさらされることになる。
 この規制は、やや迂遠ではあるが、価格引き上げの理由を国民に示すことで当該行為を国民の目にさらし、社会的な批判のもとに置き、安易な価格引き上げを思いとどまらせようとするものといえる。また、寡占企業が価格引き上げ行動をとる契機を的確に把握することを通じて、のちの審査活動に活かしていく狙いもある。
 しかし、実際には、こうした期待された機能を果たすことはなかった。現在ならばいざ知らず、かつては公正取引委員会の活動を逐一国民が知る方法は限られていた。公正取引委員会の活動を知るきっかけは、日々のニュース報道や年に一度の報告書くらいであり、時宜に適したかたちで価格引き上げの理由を耳にすることはなく、数ヶ月後、場合によっては一年後の年次報告書の公表を待つしかなかった。これでは、国民の目にさらし、社会的な批判のもとに置くことなんてとてもおぼつかない。
 また、この規制にもとづく報告が公正取引委員会の審査活動に活かされることもなかった。審査を担当する部署と報告徴収を受ける部署は別の局のもとにあったからである(2023年11月5日記)。

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