【独占禁止法叙説】5-3 共同行為の禁止(パート1)

一、「共同行為」としての不当な取引制限
 独占禁止法(以下「法」という。)は、「不当な取引制限」行為を禁止する(法3条後段)。不当な取引制限は、私的独占(法2条5項)と同様「公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為だが、その行為の態様は、私的独占と異なり「共同して……相互にその事業活動を拘束し、又は遂行する」ことである(法2条6項)。このように不当な取引制限は、「共同して」行われるところに基本的特徴が認められ、しばしば「共同行為」と呼ばれている(旧法4条、旧法24条の3および旧法24条の4参照)。

二、行為主体(事業者)
 不当な取引制限は「共同」行為とも称され、それゆえに複数の独立した事業者(法2条1項)により行われる(なお、私的独占〔法2条5項〕にいう「結合」・「通謀」の意義ないし位置付けについて参照)。多くの場合、競争関係(法2条4項)にある事業者間の合意や協定にもとづく行動であることが想定されるが、それに限られず、取引先事業者と共同して行う事業活動も不当な取引制限に該当する(シール談合刑事事件〔東京高判平成5・12・14高刑集46巻3号322頁〕および「流通・取引慣行ガイドライン」第2部第2-3-(1)注2。なお、新聞販路協定事件〔東京高判昭和28・3・9高民集6巻9号435頁〕参照)。

三、行為の態様
 不当な取引制限の成立には、「他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行すること」を要する(法2条6項)。この規定については、かねてより①「共同して……相互にその事業活動を拘束」する行為(「相互拘束」行為)と、②「共同して……その事業活動を……遂行する」行為(「共同遂行」行為)とに分けて整理されてきた(行為要件)。
 つまり、事業活動が「共同して」行われたというためには、後述のように当該事業者間において「意思の連絡」があることを要し、これとあわせて不当な取引制限の成立には「相互拘束」行為あるいは「共同遂行」行為のいずれかまたはその両方が認められなくてはならない。

(一)共同性とその立証
 不当な取引制限は、事業者が他の事業者と共同して行う行為である(共同行為)。「共同して」事業活動が行われたというためには、事業者相互間において何らかの「意思の連絡」が存在することが必要である(合板入札事件〔公取委同意審決昭和24・8・30審決集1巻62頁〕)。「意思の連絡」とは、複数事業者間で相互に同内容または同種の行為を実施することにつき共通の認識ないし予測が成立し(「共同の認識」の形成)、各々がこれに歩調を揃える意思があることを意味するとされる(東芝ケミカル事件〔東京高判平成7・9・25審決集42巻393頁〕参照)。
 したがって、不当な取引制限における共同性は、客観的・外形的な行動の一致があるだけでは十分ではなく、「意思の連絡」という主観的な要素が認められなければならない。その場合、「意思の連絡」は明示のものにとどまらず、黙示のもの(黙示による「意思の連絡」)でもかまわない。
 とくに黙示による「意思の連絡」の存在を直接証拠によって立証することは困難であることから、間接証拠や状況証拠にもとづく間接事実の積み重ねによって「意思の連絡」の存在が推認されることもある。間接事実による「意思の連絡」の存在を認定ないし推認するには、①事前の連絡・交渉の事実、②連絡・交渉の内容および③行為の外形上の一致の3つの要素が必要とされるとの考え方が採られている(3分類説・3要素説)。
 なお、「意思の連絡」は、しばしば論者によって「合意」ないし「協定」と言い換えられる。しかし、「意思の連絡」は共同行為につながる主観的要素であり、合意ないし協定は「意思の連絡」の結果、客観的に覚知されるにいたった当事者内部の一致の「表れ」である。したがって、共同行為の成立には、明示的ないし黙示的のいずれであろうと合意ないし協定までは必要なく、各々が同一の行動を取ることについて「共同の認識」が形成され、これと歩調を揃える意思が形成されることを「意思の連絡」と捉えるべきだろう。

(二)意識的並行行為
 不当な取引制限における「共同性」につき、いわゆる意識的並行行為との関係が問題となる。意識的並行行為とは、明示的ないしは黙示的な合意ないし協定の結果ではなく、事業者の独立した行為の結果として、それらの行動の全部ないしは一部が一致することを指す。寡占市場における企業間協調の一形態として行われ、寡占企業間の相互依存性によりもたらされるとの理解が経済学者を中心になされている一方、その背後に隠れた共同行為の存在もしばしば指摘される。
 意識的並行行為は、合意ないし協定(ないしその前提としての「意思の連絡」)を通常伴わないことから、「結合または共謀」を要件とする米国シャーマン法1条はもとより、独占禁止法における不当な取引制限の禁止(法3条後段)の適用も一般にはないとされる。しかし、価格の斉一化など市場における競争回避の傾向が顕著であり、寡占企業による市場支配の徴証でもあることから、何らかの対応が必要とされる。まず、寡占市場特有の現象として見出される真の意識的並行行為に対しては、シャーマン法1条の「共謀」概念を拡張し対応するか、または、わが国の「価格の同調的引上げの報告徴収」(旧法18条の2)の規定に見られるように新たなカテゴリーを創出し、規制することが考えられる。次に、隠れた共同行為を内実とする意識的並行行為については、すでに述べたように「共同の認識」の形成をもって「意思の連絡」と解することで対応することとなる。

(三)「相互拘束」行為
 不当な取引制限の成立には、事業者が「他の事業者と共同して対価を決定……する等相互にその事業活動を拘束……すること」が必要とされている(「相互拘束」行為)。これは、明白なかたちで合意を形成したり、協定を締結したりすることを典型として、事業者の事業活動を相互に拘束し合う場合を念頭に置いている。ここでいう「拘束」とは、「意思の連絡」のもと、相手方の競争回避行動に一定の予測可能性が生じ、共通の目的の実現のために各々が自制的な行動を採用する関係が形成されていることをいい、必ずしもその実効性が制裁等によって担保されていなくともよい。
 また、この場合、競争制限を内容とする合意の形成ないし協定の締結などがなされることにより、不当な取引制限は、即、成立すると考えてよい。けだし価格や数量に関する共同行為の場合には、かかる合意・協定の成立によって競争制限的な力が形成され、かつそれが市場における競争の実質的制限に連なることは明白であるからである(ハードコア・カルテル)。したがって、現実にこの合意や協定の内容にもとづいた事業活動が実際に行われることまでは必要ない(合意時説)。

(四)「共同遂行」行為
 不当な取引制限の成立には、事業者が「他の事業者と共同して対価を決定……する等……その事業活動を……遂行すること」が必要とされている(「共同遂行」行為)。これは、事業者間において、「意思の連絡」が明白なかたちで存在せず、事業活動の外形的な一致およびその他の間接事実から推認され、結果として事業活動が共同して行われたとされる場合をその典型とする。このように、必ずしも明白なかたちで合意ないし協定が認められなくとも、「意思の連絡」が推認されれば、ここにいう「共同遂行」行為に該当する。

(五)「相互拘束」行為と「共同遂行」行為の関係
 明白なかたちでの合意や協定が認められる場合には、通常、その合意ないし協定それ自体が「相互拘束」行為と捉えられ、この合意ないし協定にもとづいて行われる実行行為をもって「共同遂行」行為となる。共同行為は、この2つの行為をうちに含んでおり、通常、これら両方を一括して1つの違反行為が構成される。
 しかし、すでに見たように、「相互拘束」行為と「共同遂行」行為とは、それぞれ個々に不当な取引制限に該当する行為要件としての性格を備えている点にも、注意を要する。

(2024年2月5日記)


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