商品か機能か#5:悩ましい無償性(5/5)
オペーレーション・ソフトウェアであるウィンドウズとウェブブラウザのインターネットエクスプローラとを合わせて提供するマイクロソフト社の行為は、先月取り上げたエクセルとワードの抱き合わせ販売と同様に考えることができるだろうか?先月、最後に提起した問題である。
結論からいうと、競争法ないし独占禁止法の理解ないし論理からするとこれらは異なる行為と評価される。わたしは、前者の行為を注意深く「抱き合わせ販売」と呼んでいなかったことから気づく人もおられるだろう。
では、これらの間で一体何が異なっているのか?後者は、エクセルという表計算ソフトとして「一つの商品」であり、ワードはワードプロセッサソフトとして「もう一つの商品」である。つまり、それぞれが別個の商品として(有償で)販売されているという実態があるということである。これに対して、ウィンドウズとインターネットエクスプローラはどうか。たしかに、ウィンドウズについては有償で取引されている実態があり、「一つの商品」といいうるかもしれない(一定世代以上の人は、パッケージソフトとしてウィンドウズ95が売られていた事実を思い出すだろう)。しかし、インターネットエクスプローラはウィンドウズに添付されるなど、無償で提供されていた。
つまり「一つの商品」として取引の対象とされているというよりは、あたかもウィンドウズというオペレーション・ソフトウェアの「新たな機能」であるかのように存在していた。
案の定、マイクロソフト社は、ウィンドウズとインターネットエクスプローラの組み合わせは、前者のアプリケーションソフトウェアに新たな機能を付け加えただけと主張し、その証拠に無償性を指摘していた。
結局、米国において、オペレーション・ソフトウェアとウェブブラウザとの「抱き合わせ販売」は認められなかった。ネットスケープ社という競合企業の事業活動が明白に困難になったとしても。
いま、さまざまなソフトウェアやこれに関連するサービスが展開している。わたしたちは、すでに数十年前からソフトウェア同士の「抱き合わせ販売」やこれに類似した事例を経験してきたが、無償で付加される商品?機能?の取り扱いは都度悩ましい問題を提起している。こうした取引実態と問題に即した解決の工夫がまた再び求められている(2023年6月5日記)。