20代最後だから、という甘言―ずぶずぶのきっかけ
29歳の誕生日を目前に控えた去年の秋、わたしはどこか焦りを感じていた。
華の20代なのに、セックスレスでいいのかな。
大学の同級生で同じく既婚の友人たちは、早いところだと既に子どもは2歳近い年齢になっているし、同じ時期に結婚した界隈からも、年明けに出産するよ、といった妊娠報告が増えた。
もうすぐ結婚式から1年経つが、片手で数えられるほどしかセックスしていない。新婚旅行でもいちどもなかった。話してみてもやんわりと断られて、最近では寝室も別、お互いに誘うこともなくずるずるとここまで来ている。このまま一生誰ともセックスすることなく年老いて行くのかな。子どもができるとレスになるとはよく聞くけど、子どもがいなくてもレスなんだったら、これからは子作りのためだけのセックスだけして死んじゃうのかな。
それは嫌だな。。。
旦那はとても優しい。わたしのことを愛しているし、とても大切にしてくれている。同じ空気感でのんびり過ごしているし、自由にさせてくれている。一緒にいて、安心できるし楽しい。でもセックスはない。あれ、わたしって、セックス大好き人間だったよなあ。中学も高校も大学も、ちょっとエッチなキャラとして確立されていたし、飲み会のときは率先してセックスの話をしていたよなあ。いつの間にか、違う人間になってしまったみたいなかんじ。
思いつめて旦那に話したが、ここまで来ればもはや解決策なんてないのである。きっとお互いの好きな/求めるセックスが違っていて、いつの間にかそれをカバーしようとすることがお互いにとって負担になっていた。相性が良くない、という言葉で片付けてしまえば、それでおしまい。話したことで、余計にぎくしゃくするようになってしまった。
年末になり、友人との忘年会を終えた帰りの電車で、腐れ縁のような元彼から連絡がきた。中学の同級生で、もう人生の半分以上仲良くしている。
飯田ちゃん、今近くで飲んでない？会いたい！
わたしはこんなテーマでこんなnoteを書いているが、本来は「浮気なんて絶対だめ、浮気をするやつらは全員地獄に落ちてしまえ」と本気で思っていた人間である。会ってしまえばそういうことになるのは分かっていたので、旦那と付き合いはじめてから今までの数年間、こいつからは連絡が来ても断り続けて1度も会っていなかった。そういえば夏に、俺も結婚したよ、子どもも生まれるんだ、と報告をくれてなんとなく胸がくしゃっとなったっけ。
でも今日は、どうしても会いたくなった。自分に会いたがってくれる人間に、自分を求めてくれる人間に会うことが、どうしてだめなんだろう。いやいや、そりゃあだめだろう。向こうも既婚者なんだから。会って結婚おめでとうって言って、1杯だけ飲んで帰ろう。
いいよ、今電車だけど、そっちに戻るね。明日仕事やからちょっとだけね。
かなり久しぶりに会う彼は既に子どもが生まれて父親になっていた。子どもの名前は、偶然にもわたしの名前の一文字と同じ漢字だった。「いやもうそんなんわたしのこと無意識レベルで好きやん」「いやいやまじで今まで気付かんかった、怖」ああいつもどおりの懐かしいこの感じ。自信たっぷりに話す感じも、視線も、笑い方も、ぜんぶが久しぶりだ。あなたのこういうところが好きで、こういうところが嫌いだって、全部把握している。一緒になっても幸せになれないと分かってるけど、それでも大好きな相手って、きっと誰にだってひとりくらいいるんじゃないだろうか。
それからいろいろなことがぐるりと狂いだした。結婚ってなんなんだろう。レスというだけで思いつめてふらふらしだした自分と、子どもが生まれたばかりだというのにセフレに連絡を寄越すあいつ。最低な奴らじゃないか。なにしてるんだよ。
うーんでも、「この人の子どもが欲しい」と思う気持ちがあるからこそ男女ってくっついてるんじゃないのかな。そんな気持ちになったのは初めてだけど、そう思って抱き合うのって、なんだか正しくてすごく気持ちいい。これに気付けたことって、自分を正当化するようで言いたくないけど、すごく大きな出来事だったんじゃないかと思う。
これが、わたしのずぶずぶのきっかけ。
年が明けて、わたしは本格的に最低な人生をスタートさせた。20代最後だから、この1年足らずだけだから、最後の1年だけ遊ばせてください神様。自分はこれからどうやって生きたいのか決めていこう。いろんな人に会って、いろんな話を聞いて、刺激を受けて与えて、これからのことをちゃんと考えよう。狭い世界で悩んでいてはだめだ。
手っ取り早くいろんな人と交流したい、そう考えたわたしはTinderを使い始めた。
Tinderでのずぶずぶ話は、また次回に。
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