見出し画像

「サンプリング」というもてなし

粋、ということに関して、陶芸家の安藤雅信さんはこう述べている。粋とは「陰性のお洒落」である。と。2019年BRUTUS「ことばの答え」より。

気づいた人にはちょっとした気持ちよさを。気づかないならないで居心地の悪さもない。気づくか気づかないかは関係なく、相手のことを思い陰ながら整えておく。する側にも、された側にもインテリジェンスが求められる営みだ。だがそこに憧れる。

「してあげた俺すごいでしょ」という見返りを全く求めていない点で、直接的な気づかいよりも素晴らしい気がしてしまうが、粋な計らいができる人間は、目に見える部分に関しても大抵さらりとやってのける。できた人間というのはどこまでも洗練されているものだ、時に嫉妬してしまうほどに。

その点で言えば、ブラックミュージックにおけるサンプリングも「粋」な文化であると思う。サンプリングとは、既存の楽曲の1フレーズ(それは歌詞でもトラックでも良い)を自らの楽曲に取り入れ、全く新しい解釈で音楽に再構築するという手法である。

ではここで、最近見つけた面白いサンプリングをひとつ。U-zhaan × 環ROY × 鎮座dopenessによる「Tabla'n'rap」は「日々日々日々良い感じ インド日本グッドミュージック」という歌詞から始まる。

ストレスフルな毎日を全肯定してくれるピースフルなリリックに思わずふふっと笑みがこぼれてしまうが、このフレーズはthe notorious b.i.g.のHypnotizeのフック「Biggie, Biggie, Biggie can't you see? 」からのサンプリングだ。知らないならないでかわいい曲だが、hiphop好きなら二度笑えるサンプリングである。

サンプリングという文化は、原曲へのリスペクトという点で語られることの方が多いと思うが、リスナーとしては、その意図は我々リスナーにも向けられているものであったらいいなと思う。それもファンの音楽知識を試すようなふるいとしての役割ではなく、気づいてくれたファンへのおまけの楽しみのような、優しいものであればいい。

1割のリスナーのにやける顔を想像して、こっそりとサンプリングを差し込んでいるとしたら、サンプリングはまさに「陰性のお洒落」と言える。少なくとも、揶揄されがちなhiphopのいかつさやチャラついた雰囲気はそこに存在しない。むしろ日本的な奥ゆかしさや、品の良さすら感じてしまう。

2021.08.27

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?