メイクのおはなし
メイクは、他人に媚びるためじゃなさすぎるよなあ、この世でいちばん自己中心的な行為だよなあ、と日頃から思っている。
周りの女の子よりも少し早く、私はコスメに手を伸ばした。ひとりっ子だからお手本にする女の子がいなくって、最初はママに手取り足取り教えてもらってた。
でもね、私のママ、めちゃくちゃ顔が可愛いの。ぱっちり二重で黒目はおっきいし顔はちっちゃくって、薄い唇。悲しいかな、私はママに顔が似なかったから、その真逆の顔をしているわけで。幼い頃から気づいていたけれど、メイクを始めるきっかけは結局顔面コンプだよなあって今更だよねー。
正直、ママのメイクなんてかけらも参考にならなかった。アイラインは引かないし、シェーディングもしなかったんだもの。ましてやリップなんて一色だけをべたーっと塗っちゃうの。私に蒙古襞がなければね、口ゴボじゃなければね、なんとかなってて、ナチュラルメイクなんて形容されてたかもしれないけれど。
だからYouTubeを見始めた。いわゆる美容系、のひとたち。もうそれはそれはきらきらだったの。確かに元が可愛いのもあるんだ、でもどう見ても努力で手に入れた、ほつれようのない縫い目の美しさが胸を叩いてきたの。ちょっと平成みの残ったかわいいリップ。きゅるんとくるりと上がったまつげ。私がなりたい姿は全部、インターネットにあった、インターネットにしかなかった。
キャンメイク、セザンヌ、マジョマジョ。足りないお金で、ちょっとずつ、ちょっとずつでもいいからコスメを集めた。YouTubeみて、新作確認して、買って試して。いちばん女の子してるなって感じがして大好きな時間だったけど、でもただの田舎の中学生が、(好きな人すらいなかったのに)ここまでメイク研究しなきゃなのは辛かった。もっと可愛く生まれてこれたらって、私の目がもっと開いてたらって、その時間中ずっと思うことになっちゃったから。
そしたら、拗らせるまでは行かないけれど、アイプチで二重作って、ピンクのリップ塗らないと学校行くのが怖くなっちゃった。お休みの日は、不自然なまでの涙袋と急降下のアイラインでどうにかこころを保たなければやってけないし。自分を愛するため、というよりも守るためにメイクをしてる。すっぴんの私、やだなあって咄嗟に思っちゃう、思いたくなんてないのに。でもね、
そうだ、そうだよ、メイクは武装だ。かわいいは武器だ。ぱんっぱんにした涙袋は、ほんとうにいつかお前の目の前で爆発する手榴弾なんだ。しゅっ、と通した鼻は鋭利で仕方なくって、お前の喉くらい掻っ切ってしまうんだ。ざまあ見やがれ、この可愛さがわからないだなんて、なんとまあ不憫な!
そんな気持ちで、今日も私は鏡の前に座る。
女優ミラーで反射された脂性肌、鏡を見ても一重の私とはなんだか目が合わない感じがするけれど。サムネイルのコスメたちは、値段もパッケージも関係ないくらいに愛を込めてるから、輝きは新品のときのまんま。
2時間後にはもう、正直に鏡を向いて、自分の信じた「かわいい」を見つめてあげられる気がしてる。
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