見出し画像

『スモールワールズ』一穂ミチ

いわた書店さんの一万円選書、六冊目。

積読をしていることがいまは苦痛で、少しでも未読の本を減らそうと半ば義務感から読み始める。

しかし、読み始めると止まらない。

適当に読み進めていこうと思っていたけど、気が付くと夜が更けるまで一気読みしてしまった。

六つの短編から成る本作は各話が繋がっていたりいなかったりする。

後味の悪いもの、背筋がぞくりとするもの、思わず笑ってしまうもの、心が温まるもの、どれからも共通して一人の人間の感情のもつ複雑さが感じられた。


中でも私が気に入ったのは四本目の「花うた」だ。

この短編は主に、兄を殺された被害者とその加害者の獄中での文通で構成される。

情景の描写は直接的に書かれていないものの、手紙の中から浮かび上がってくる。

漢字とひらがなの使いわけが上手くそのことからも各人の様子がうかがえる。

余計な描写はないのに、情景や人物像が脳内に自然と浮かんでくる、素敵な話だった。


後半の二本、「愛を適量」「式日」では自分の持つ偏見を突き付けられるような思いがした。

「愛を適量」の主人公の父親がFtMの子どもと15年ぶりに再会するシーンでは、父親と同じように、この人物は「男」なのか?「女」なのか?と形にはまっていぶかしんでしまった。

「式日」では、本編中で明記されていないにもかかわらず、男性であろう「後輩」に想いを寄せていた「先輩」は女性なのだろうと思い込んでしまった(先輩が後輩と自分を合わせて俺たちと表現することから二人とも男性であろうかと予想はされるが最後まで明言はされないのでわからない)。

普段から二元的な性やセクシュアリティについて考えているにもかかわらず、物語の中とはいえ他者にはありきたりで閉塞的なジェンダーを押し付けてしまっていたことに気がつかされた。

完全にフラットな思考は残念ながらできないだろうが、自分がバイアスにまみれているということには自覚的でいたいと改めて思う。


一穂さんの本は初見だったがとても気に入った。

一度読んだ本はあまり読み返さないのだが、本書はいつか読み返すことになりそうだと思う。

書店で見かけてはいたものの自分では手に取らなかったであろう本書を読むことができてよかった。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集