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英文解釈演習室2024年2月号

【訳文】ペンネーム I am a cat.

この常軌を逸した原子爆弾により、あらゆる国の人々がみな道徳心から怒りの頂点に達し、これまで恐れをなす特段の理由がなかった人たちですら、多くが怖気(おじけ)づいています。

たいていの人にとって、つねにこの世は生きるにはあまりにも危(あや)うい場所であり、いかに気が進まなくても、それが当然の状態であると耐えてきました。それなのに戦争のための新たな武器が発明され続け、そのたびに人々は戦慄と義憤をもって迎えています。その武器を開発できなかった人たち、つまりその武器によって最初に威嚇された人たちは特にそうです。弓矢にはじまり、石の砲弾、黒色火薬、火打ち石銃、拳銃、ダムダム弾、銃器用消音器、マシンガン、毒ガス、装甲戦車などなど、そしてついには壮大な頂(いただき)である――これで終わりになればの話ですが――ヒロシマへの試みにいたるまで。原子爆弾はナガサキにも投下されたのは、覚えておられるでしょうか?(中略)

したがって、私たちに戦禍をもたらした罪人(つみびと)の源をさかのぼれば、最初に火打ち石から火を取りだした人間にたどり着きます。というのも、その瞬間から着実に進んで私たちはこの日を迎え、この爆弾を発明し、そしてその投下へといたったのですから。他にどのような道をとるように忠告できたでしょう? 人類は洞窟の中に座って生肉をかじったり、骨を武器にしてお互いの頭を殴りあったりし続けるべきだったとでも?

それでも私たちの世界はバラバラに壊れる瀬戸際にあるのではなくて、まだできあがっておらず、不規則な断片が正しく組み立てられるのを待っているのかもしれません。もっとましな世界を求めれば、手に入るのではないでしょうか。ひょっとすると、この出来そこないの世界を手にするために支払ってきたのとおなじ代償しか払わずにです。
※( )内はルビ

【検討会後の反省点】
(あとで追加する予定)

【訳文提出前に考えたこと】
Katherine Anne Porter, "The Future Is Now"
女性作家ということを意識して、「です・ます」調で訳してみた。

『英文解釈その読と解』筒井 正明
『本格派のための「英文解釈」道場』筒井 正明
※語順は、できるかぎり原文を尊重している。
※(中略)の部分は、ネット上の情報でざっと確認した。課題文の前後は確認していない。
※筒井先生の『続本格派のための「英文解釈」道場』も以前に読破しているが、今回は参照していない。

(1パラa) This lunatic atom bomb has succeeded in rousing the people of all nations to the highest point of unanimous moral dudgeon; great numbers of persons are frightened who never really had much cause to be frightened before.
(考えたこと)
who の先行詞は (great numbers of) persons
つぎの文の the greater part of the earth's inhabitants とは違い、これまでは安全地帯にいた(or いると自分では思っていた)人たちだと解釈。
→ 訳文:
この常軌を逸した原子爆弾により、あらゆる国の人々がみな道徳心から怒りの頂点に達し、これまで恐れをなす特段の理由がなかった人たちですら、多くが怖気(おじけ)づいています。

(1パラb) This world has always been a desperately dangerous place to live for the greater part of the earth's inhabitants; it was, however reluctantly, endured as the natural state of affairs.
(考えたこと)
desperately = extremely
it was … endured 英文では受動態だが、そのままでは日本語として不自然なので、訳文は能動態にした。
→ 訳文:
たいていの人にとって、つねにこの世は生きるにはあまりにも危(あや)うい場所であり、いかに気が進まなくても、それが当然の状態であると耐えてきました。

(1パラc) Yet the invention of every new weapon of war has always been greeted with horror and righteous indignation, especially by those who failed to invent it, or who were threatened with it first ... bows and arrows, stone cannon balls, gunpowder, flintlocks, pistols, the dumdum bullet, the Maxim silencer, the machine gun, poison gas, armored tanks, and on and on to the grand climax — if it should prove to be — of the experiment on Hiroshima. Nagasaki was bombed too, remember?(中略)
(考えたこと)
by those who A , or who B は「または」ではなく「つまり」と解釈。最初に脅されている人は、当然その新しい武器を発明できていないわけで、B は A に含まれているため。
if it should prove (= turn out) to be (the grand climax) の省略と解釈した。
the experiment on Hiroshima いわゆる「核実験」ではない。「人体実験」にしようか迷ったが、最終的には「試み」でお茶をにごした。
→ 訳文:
それなのに戦争のための新たな武器が発明され続け、そのたびに人々は戦慄と義憤をもって迎えています。その武器を開発できなかった人たち、つまりその武器によって最初に威嚇された人たちは特にそうです。弓矢にはじまり、石の砲弾、黒色火薬、火打ち石銃、拳銃、ダムダム弾、銃器用消音器、マシンガン、毒ガス、装甲戦車などなど、そしてついには壮大な頂(いただき)である――これで終わりになればの話ですが――ヒロシマへの試みにいたるまで。原子爆弾はナガサキにも投下されたのは、覚えておられるでしょうか?(中略)

(2パラa) Our protocriminal then was the man who first struck fire from flint, for from that moment we have been coming steadily to this day and this weapon and this use of it.
(考えたこと)
Our protocriminal 直訳すれば「私たちの犯罪者の原形」などとなるだろうが、このままでは意味不明なので説明を加えた。this weapon and this use of it も同様。
→ 訳文:
したがって、私たちに戦禍をもたらした罪人(つみびと)の源をさかのぼれば、最初に火打ち石から火を取りだした人間にたどり着きます。というのも、その瞬間から着実に進んで私たちはこの日を迎え、この爆弾を発明し、そしてその投下へといたったのですから。

(2パラb) What would you have advised instead? That the human race should have gone on sitting in caves gnawing raw meat and beating each other over the head with the bones?
(考えたこと)
1文目は仮定法で、直訳すれば「(もし機会があれば)あなたは、それ(=現状?)に代わるどのような忠告をしたでしょうか?」。2文目は全体が名詞で、忠告の具体的な内容と解釈した。
beating each other over the head with the bones 余談ではあるが、映画『2001: A Space Odyssey(2001年宇宙の旅)』で、猿人が骨を武器にしはじめるシーンを思いだした。
→ 訳文:
他にどのような道をとるように忠告できたでしょう? 人類は洞窟の中に座って生肉をかじったり、骨を武器にしてお互いの頭を殴りあったりし続けるべきだったとでも?

(3パラa) And yet it may be that what we have is a world not on the verge of flying apart, but an uncreated one still in shapeless fragments waiting to be put together properly.
(考えたこと)
shapeless
= not having a clear or definite shape (Longman)
= without a clear form or structure (Cambridge)
「形がない」というよりは、「明確に決まった形がない」「不規則な」と解釈。ジグソーパズルのピースをイメージした。
→ 訳文:
それでも私たちの世界はバラバラに壊れる瀬戸際にあるのではなくて、まだできあがっておらず、不規則な断片が正しく組み立てられるのを待っているのかもしれません。

(3パラb) I imagine that when we want something better, we may have it: at perhaps no greater price than we have already paid for the worse.
(考えたこと)
something better = a better world
the worse =(something better と比較しての)the worse world = the current world と解釈。
pay the price
= to experience something unpleasant because you have done something wrong, made a mistake etc (Longman)
= to experience the bad result of something you have done (Cambridge)
「犠牲/代償を払う」ということだろう。

at … no greater price than …『本格派のための「英文解釈」道場』p. 175 には「no が情緒的な否定で…同じくの意味を」含んでいる。ただし、ここはいわゆる「クジラの公式」=「~と同じく…ではない」ではない。つまり、「より悪い世界を手にするために代償を支払わなかったのと同様に、代償を支払わずに」ではない、ということ。なぜなら、「より悪い世界」=「核戦争の危機に瀕している世界」を手に入れるために、二度の世界大戦を含むとんでもない犠牲を人類はすでに支払ってきたからだ。こんなに犠牲を払ってきたのだから、もっとましな世界が手に入ってもいいんじゃないか?
→ 訳文:
もっとましな世界を求めれば、手に入るのではないでしょうか。ひょっとすると、この出来そこないの世界を手にするために支払ってきたのとおなじ代償しか払わずにです。

【参考資料】


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