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イヤホンを忘れた日。
いつも肌身離さず持っているイヤホン。
移動するときも作業するときも家でも大体いつも音楽を聴いているし、布団に入ってからも寝付けないと音楽に耳を貸す。
でも今日はそんな体の一部のようなものを家に忘れた。特に急いでたというわけでもないけど、ふと忘れてきてしまった。
家を出てすぐに気づいたんだけど、たまにはそういう一日があってもいいか、と来た道を帰ろうとした足をもとに戻した。
イヤホンを忘れた日。
それは五感で秋を感じた日だった。
厳密には味覚以外だが、そんなことは今はどうでもいい。
イヤホンを着けずに街を歩くと色んな音が聴こえる。車の走る音、誰かの足音、風の音、道ゆく人の話し声、自転車のブレーキ音、信号の音、葉っぱが揺れる音、かすかな虫の声。昼間は少し騒がしいが、夜は穏やかな空気が流れる。
音が聴こえるのは当たり前だが、イヤホンを外すと目と鼻の受け取る情報も変わることに気がついた。
耳に集中していた意識が全部に分散された感じ。
気づいたら日が暮れるの早くなったなとか、葉っぱが色づき始めたなとか、この道にこんな花咲いてたっけとか、そんなところに目がいく。
今日は空が晴れていて夜空は雲一つなく月も綺麗でした。
そして秋の匂いを感じた。
近くにあるはずのない金木犀の香りがどこからか風に運ばれてきたみたいだった。どこか懐かしい感じもするし、新しい季節の訪れを知らせる新鮮な感じもする不思議な気分になった。
秋は一瞬で過ぎる。
やっと夏が終わったな、でもちょっと名残惜しいなとか思って気づいた頃には上着が手放せないほど寒くなって、もう冬だと言っているのがオチだ。
毎年秋を楽しむ間もなく冬がやってくるので今年は秋を味わいたい。
食では既に満喫中だ。
芋栗かぼちゃに目がない私にとって幸せこの上ない季節。さんまもきのこも好きだ。
というか嫌いなものがほとんどないから食べ物は大体全部好きなんだが、秋だけ季節の食べ物というのが強調されるのはなぜだろう。
芋も栗もかぼちゃも秋以外でも食べられるし。
調べたら出てきそうだけど今日はそういう気分じゃないからなかったことにする。
食以外といったらやはり読書だろうか。
最近は夜寝る前に必ず本を読んでいるが、涼しくなってきたから公園で読書するのも良さそうだ。自然のなかにあるカフェなんかに行くのもいい。
よし決まりだ。次の休みはそんなのんびりした時間を過ごそう。
あとは山にも行きたい。
山でなくてもいいから紅葉を見に行きたい。
自然を求めるようになってきたのは歳をとったからなのか。それとも普段忙しく働き、スマホを開いてはネット上の情報に揉まれているせいなのか。
自然に触れると人間本来の在り方を取り戻せるような気がする。息を吸って、吐く。太陽の光を浴びる。風を感じる。雨に打たれる。夕陽を眺める。それだけで幸せを感じる。この世界に生を受けたことへの感謝で胸がいっぱいになる。
私はこの感覚を忘れたくない。
話を戻す。
イヤホンを忘れた日。
いつもは絶望で始まる日。
今日は季節の変わり目を感じて心豊かになった日でした。
おやすみなさい。