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周五郎とBTS

私の心に陽がさした。泣きたいほど情けないことがあって、つい弱気な記事を書いてしまったが、ちょうど懐かしい、私のバイブルのような小説に久し振りに再会したので、また暖かい気持ちが上がってきた。NHKラジオで朗読の時間という番組を半年ぶりぐらいに聞いた。若い頃におやつのように読んでいた「山本周五郎」の作品が流されていた。読んだことのない短編だったが、情があり義に固い主人公に、あふれるように彼の作品の数々を思い出した。彼の作品には日本で大切にされてきた「情」があふれている。時には情が過ぎて、主人公に厳しい道を選ばせたりする。

最初に読んだのは「ちいさこべ」。テレビで舞台になっていたのを見たので、原作を読んでみたくなった。それから「さぶ」を読んで深く感動し、しばらく次の作品を読めず、余韻にひたったものだ。彼の小説を読んでいると、国土も小さく身体も小柄な日本人だが、腹には引き締まった胆があり、一旦腹を決めるととんでもない力で事を成す。それは老若男女みんなそうである、日本人であることが誇らしくなる。周五郎の弱者に向ける視線が優しく、強者には仁義を守らせるため、厳しい道を選ばせる。日本人で生まれてきたことをうれしくも思うが、掟が厳しい世情が今も変わらないことに諦念を感じたりもする。

そしてどうつながったのか、同時にBTSのナムジュンくんが、どうやって楽曲を作ったか、それこそ彼の語るNoteをyoutubeに編集してあげてくださったARMYの作品を見て、BTSにみんなが熱中する理由がわかった気がした。ナムくんが愛してやまないメンバーの才能への信頼、ARMYへの愛。言語好きのナムくんの言葉のセンス、それに応えるグクはじめボーカルライン。日本はアメリカナイズされているけど、韓国はヨーロッパ、フランス色が濃い気がする。歌詞を作る過程がとても哲学的で単純ではない。「血、汗、涙」が私はとても好きなのだが、どっきりするほど生々しい題名だけれど、内容は単純ではなく成熟した女性の深い愛に縛られ、逃げられない若い男の子の話のような内容で、MVは退廃的な愛を描いているが、実はもっと広くて深い意味があり、人ごとにどうとるか自由。私は男女愛以上の人間愛のようなものを感じた。血を流すほどの辛い思い、汗だくになり、滝のような涙を流し、それでも切れない愛。彼らのテーマは自らの葛藤やARMYへの思い。それをメンバーとの統合性や歌力を考えながらまとめていくナムくん。圧巻だ。この若さでもうプロデューサーとしてできあがっている。そしてメンバーは歌、ダンスを寝る間も惜しんで自主練し、皆で合わせてはまた厳しいレッスンをしている。どれだけの時間を費やしているかは、完成度に比例してそれがおもんばかられる。そうしていくうちにやがて彼らは磨かれた宝石のように艶が出てくる。ARMYの存在がまた彼らの艶を増す。小さく生まれて大きく育つ、これだけ世界的に人気を得たことで、彼らは大きな何かを犠牲にしたはずだ。周五郎の描く主人公も義のために、自分にとって大事なものを犠牲にする。同じだ。つながる。私が大好きになるものは同じなのだ。