変化に柔軟に対応して生きる
新型コロナウイルスに世界中が苦しみ始めて1年半以上たった今、多くの人がコロナの蔓延を恨み、一刻も早い収束を願っています。
しかし、本当にコロナはただの悪者なのでしょうか。私たちにネガティブなものしかもたらさないのでしょうか。コロナもきっと何かしらプラスの面も持ち合わせていると思った私は、主に東アフリカで活動する日本人から、コロナをポジティブにとらえる方法を学ぼうとしています。
第8回目は認定NPO法人テラ・ルネッサンス職員である鈴鹿達二郎さんです。(テラ・ルネッサンスは以前、理事長の小川真吾さんにもお話を伺っています)
大学院は生態学を専攻し、研究のために浜辺で貝の数を数える日々だったそうですがふと、もっと世界や視野を広げた方が良いのではと思うようになりました。そこで、テラ・ルネッサンスと地雷ゼロ宮崎という市民団体が共催して主催する、カンボジア・スタディツアーに参加します。ここから鈴鹿さんの国際協力への道が始まったのです。大学院を卒業後の2007年から、青年海外協力隊員(現JICA協力隊員)としてタンザニアに駐在し、現地NGOとともにHIV感染予防の啓発や、現地スタッフのPCスキルの教育などの活動を行います。その活動の中で、鈴鹿さんは、現地の人たちの優しさや強さに触れ、「逆にアフリカの人々に助けられている」と感じ、恩返しがしたいという思いから、タンザニアの日本国大使館で働き始めます。草の根・人間の安全保障無償資金協力というODAの支援に携わりました。その後、東日本大震災が発生した2011年に帰国しました。
帰国後に現職場であるテラ・ルネッサンスの職員となり、震災復興を目的とした『大槌復興刺し子プロジェクト』担当として岩手県を中心に活動します。2015年からはアフリカ事業マネージャーとして海外勤務となり、現在はウガンダに駐在して主に南スーダン難民とホストコミュニティの支援活動などを行っています。
ウガンダ事務所で受益者と話す鈴鹿さん
鈴鹿さんにとってのコロナは「変わり続ける社会とその中で生きる人間の在り方を見直す期間」だったそうです。
2019年冬にCovid-19という未知のウイルス/病が突然現れ、このたった一つの事象で世界中が大きく影響を受けました。それによって人々の生活は大きく変わり、混乱を招いています。
鈴鹿さんは、以前から「世の中は不変ではない」と考えてはいたものの、コロナをきっかけに「世界は変わり続けるんだ」と再認識したそうです。もしコロナが無かったら、自分の中の「変化」の想定がもっと限定されたものになっていたと話されていました。ロックダウンや都市封鎖によって輸送や移動が出来なくなり、そのサイクルや循環がストップしたことによって、特に経済的に世界が繋がっていることが明白になりました。当たり前だったものが崩れ、世界規模で刻一刻と変化していることを体感したことは鈴鹿さん自身の中で良かったことだそうです。不変なものはないと想定していると、将来的にどんなことが起こりうるかを、予測は出来なくても、日常的に情報を得るスタンスや態度、アンテナの張り方を意識することが出来ます。考えたくはありませんが、今回のコロナの様な事が再度起きたり戦争が起きる可能性も否定はできません。さらにコロナ禍で、オンライン会議などのデジタル化が進み、その面でも世の中がとても大きく変わりました。このように、今までは映画や漫画など、フィクションでしか起こらないと思っていたものが現実に起こってもおかしくないものとなってきています。AIはその代表で、「仕事を奪われる」とよく批判が上がりますが、今まで人間がやっていたことのほとんどが置き換えられる日も遠くありません。これまでも社会は加速度的に変わっており、例えば2000年代に入ってパソコンやスマホなど飛躍的に進歩してきましたが、これからはより急速に変化することが考えられます。急速に変化し、複雑化している現在の世の中は「まさにVUCAの社会」であり、それに対応することが求められるようになってきている、と話されていました。
また、国家間の結びつきだけでなく、都市に一極集中している日本社会が見直されるきっかけにもなったのではとも言います。今の社会は東京に全てが集中しており、東京で大災害が起きた場合大変なことになります。また食料も外部に依存しているため、食料の輸入や物流など経済活動がストップしたら食料が手に入らなくなります。しかし先述したようなコロナ禍の変化によって、オンラインで仕事が出来ることが分かり、地方への分散が生まれています。それによって地方が自立し、地方を中心に日本が再生していければ、人口の面でも経済的な面でも良くなるだろうと話されていました。一方でウガンダは、その点に関して強いことにも気づいたそうです。ウガンダで主に農業で生計を立てている人は国民の68.9%(参照:国家開発計画3)もおり、ロックダウン中は都市部で働いていた人々も村に帰り農業を始めていました。首都ではロックダウンの影響を大きく受けましたが、先進国の様にお金が循環しないと生活全てが崩れるといったことは起きず、『生きる』為に必要な食料の自給がウガンダでは行われていました。このようなウガンダの柔軟な強さを目にした鈴鹿さんは現在、農業に関心を持ち、家庭菜園などを始めたそうです。
そんな鈴鹿さんの今後の目標を伺うと、その一つには、アフリカで農家の人たちの生活を改善する取り組みをしたい、と教えてくださいました。「ケニアで農業に関して活動されている方が『幸せな農村社会を作ること』を目指していて、この目指す社会にとても共感しています」と強く語ります。上述したように、ウガンダでは国民の多くが農業に従事していますが、意識の中に『農業は大変なのに儲からない』といった、負のイメージがあります。そのため、雇用を求めて都市部への人口・経済が流れてしまっているのが現状です。しかし、生きるために必要で、これから更に大切になる農業を通して自給も収入も得られるようになれば、農業従事者たちはより幸せに充実して生活が送れるようになります。不条理に『機会』を失った人々を見てきた鈴鹿さんらしく、その活動の中にストリートチルドレンなどの、本来活躍出来るはずなのに社会や環境のせいで機会を得られていない子ども達を巻き込んでいきたい、とも話されました。
鈴鹿さんからは、広い視点を持つことで、コロナが『目をそらしていること』を明らかにしていると気づけること、そしてそれを通して、この大きく変化している世の中で生きていくための考え方を学びました。地球温暖化についてなど、コロナが明らかにしてくれた反省点は他にも沢山あると思います。私も広く視野を持ち、明らかになった課題に向き合い続けます!