【おべけの館】1話その1
皆さんはこんな噂を知っていますか?
悩みのある人間を救ってくれる場所、
『おべけの館』を。
そこはどんな大きな悩みでも、どんな小さな悩みでも、どんな悩みでも救ってくれます。
お悩み相談室?
そんなものではありません。
お客様を"アンラクシ"させるサービスでございます。
どうぞ、ごゆっくり…。
本日のお客様
・瓜 南美 様 13歳(うり みなみ)
・藤角 照 様 13歳(とうかく しょう)
「見てみてー!お母さんが買ってくれたんだ!」
ある日の昼休みに、チラチラと太陽光に反射し鮮やかな閃光を放っているビー玉の髪飾りを友達に自慢する同級生。
それを見た瓜 南美。
[南]「ねーね!何それ!めっちゃ綺麗!貸して、貸して!私もつけてみたい!」
同級生の子は「ちょっとだけね」と"恐る恐る"南美の手に。
南美は早速、満足そうな顔をしながら髪飾りをつける。
[南]「わぁ~!!とってもきれ~い!!」
太陽光に向かって首を振り、髪飾りをチラチラと反射させる。まるで日差しを反射した清夏の海のように光る。そんな髪飾りに夢中の南美。
すると…
ぱしゃぁぁぁりぃぃぃん……!!!
突然南美の足元に何か割れた音が。同時に騒がしかった教室が静まりかえる。
その音に驚倒した南美は慌てて足元を見る。
足元には惨めに、粉々に割れた髪飾りがあった。南美は一瞬頭が真っ白になった。状況が把握しきれない。
顔を上げると、割れた髪飾りを涙目で見つめる同級生が呆然と立っていた。
その子は南美の肩をゴッと強めに叩き、無言で髪飾りの破片を手のひらの中に集めた。ぎゅっと握りしめて友達に小さく「行こうっ」と囁き、哀愁に溢れた背中をこちらに見せながら教室を出ていった。
それを見ていた周りの同級生たちは気まずそうに南美の顔を少し見た後、その場を去っていく。その中に「瓜の奴"また"かよっ」「アイツ"マジで"近寄らんとこっ」と小さな声がぽつぽつと。その声は静かな教室の空間のせいか、南美の耳にダイレクトに入った。
そのまま誰も居なくなった教室。南美は一人静かに下唇を噛みしめ、今にも溢れだしそうな涙をグッと抑えた。
「ごめんなさい」
南美は常習犯だった。すぐにいろんなことに目がいって。気が散って。周りが見えなくなって。その度に問題を起こす、問題児だった。
そのせいで友達は1人もいない。周りからは避けられて、先生や親にはお決まりの説教ばかりの日々。
「ごめんなさい」
また別の日。親が出張でいない日。お菓子作りに夢中になり、学校へ登校することを忘れてしまっていた。その日は大事なグループプレゼンをする予定だった。
夕方、親が帰ってきた。
「アンタ学校から電話きたよ!!学校行ってなかったの!?今日、グループプレゼンするんだったらしいね!?あーあグループの子可哀想…。これ何回目?アンタ"最低"よ?」
と怒鳴った。
そこでも南美は下唇を噛みしめ、溢れだしそうな涙をグッと抑えた。
「ごめんなさい」
次の日、教室に入ると。グループの子からの白い目。冷たい視線。
「ごめんなさい」
「やっぱり藤角だよなぁ!!」
教室の真ん中で大きく聞こえる男子の声。
そこには友達に背中を軽く叩かれ、周りの人からは頼み事を聞いていている男の子がいた。南美の周りの空気とは違って、賑やかな空気が漂っている。
南美の幼馴染み、藤角 照。
幼馴染みと言っても幼少期から一緒なだけで、知っていることは顔と名前ぐらい。
照は南美とは真逆でとても真面目な性格の優等生。周りからは多く期待され、なにか困ったことがあればすぐに頼られる。
しかし、それは表の顔。実は極度の面倒臭がり。そのくせ完璧主義者の矛盾な性格。
家に帰ったらみんなから頼まれたタスクに取りかからなくてはいけないのに。体がダルい。
けど、けど、
「やらなくちゃ」
さらに、テストの点数も良く、親や友達からは
「照!凄いじゃない!!」
「さすが、照だな!」
「すっげぇ~憧れる!」
と褒められる。
それだけど、辛うじてこの点数をとっている。もう、勉強することに体が持たない。もう、勉強面倒臭い…。ダルい…。
けど、けど、
「やらなくちゃ」
1話その1はここまでです。長文ご愛読いただきありがとうございました。また、次のお話で。
絵・作 Hzk(ヘルツク)〔天乃 つくる〕