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Minimal movement, for maximum effect.(国際映画社OPアニメへの愛を)

半年前,我慢しきれずに,一日一回,『銀河烈風バクシンガー』のオープニング(OP)アニメを再生してしまう時期があった.

このOP,妙~な中毒性が有る.
時代がかったナレーションから始まり,ドアップで現れタラコ唇を見せつける主役ロボ,スライディングでカットインしてくるセクシー美女,そして「烈」!メロウと熱血が奇妙に融合する歌と相まって,「謎の魅力」に溢れている…

その「謎の魅力」にやられ,2週間くらい,「烈の旗」に詣でる日々を繰り返したが,その「謎」の答えには辿り着けずに,「まぁ,ダサカッコいいってことかな!?」と自分を言いくるめ,中毒から抜け出し,平穏な日常が戻った.

が...

半年後,また出会ってしまった.
『亜空大作戦スラングル』に.

『銀河烈風バクシンガー』に劣らぬ中毒性が,また私を毎日,亜空へ誘う...(ちなみに「亜空」とは,二連星バクサスα・βの間に存在する可住空間である.覚えておいて欲しい)

♪飛び~た~て~ば,亜空ゥ! 行くゥ! エクサイト!との熱唱後,畳み掛ける「ゴリラ」の連呼...重なるスペクタルフルなサウンド...ダサさとカッコよさの絶妙なバランス!
高い中毒性を持つOPだ...しかし,優れているとは認めたくない.
それは...アニメと言うには...あまりにも「動かず」...そして大雑把すぎた...

これだけ「動かない」のに,一体,何が,私の胸を撃つ?
中毒性の要因はどこにある??それが解らない...

ならば,他のスタンダードな名作OPを見て行くことで探っていこう.
サンライズ社制作『機動戦士Zガンダム』の流麗な前期OPが,これだ.

今では,Z(ゼータ)ガンダム等の優れた旧名作を未見の人も多いと思う.
そういう方々には,様々なアニメのOPだけを見ていくのをオススメする.
OPアニメは,映画の予告編と同じだ.作品の訴えたい世界観,メインテーマが濃縮されていて,短時間で作品のエッセンスを学び,楽しめる.効率的コンテンツ教養の摂取方法だ.(気に入ったら配信で全話見てね!)
このZガンダムのエッセンスは,「多彩な巨大ロボットのリアリティあるバトル演出」と「複雑な感情と思想を帯びたキャラ達が,波乱と愛憎の人間ドラマを始めそうな予兆」だろう.

特に,宇宙戦艦の滑走路がライティングされ,初期主役機体のガンダムMKⅡ(マークツー)が視点(カメラ)後方より追い越すように飛び立つシーンの素晴らしさ!これでワクワクしない男性がもし居るのなら,小一時間問い詰めたい...

その1年半後『機動戦士ガンダムZZ』の後期OPにも,(本編はともかく)名シーンがある.

開始33秒.主役パイロット,ジュドー・アーシタの振り上げた手が,その頂点でZZ(ダブルゼータ)ガンダムの手に変わり,振り下ろされる!

『ガンダム』の主人公アムロは、従来のロボットアニメの主人公たち ─ ─『 鉄人28号』の金田正太郎や『 マジンガーZ』の兜甲児 ─ ─ と同じように「 父」 的な存在からその身体を拡張してくれる機械の依代を預かることになる。
宇野 常寛. 母性のディストピア Ⅰ接触篇 (ハヤカワ文庫JA) 

まさに評論家・宇野常寛氏が書いたように,人間の身体の拡張としての「巨大ロボット」を見事に表現しているシーンだ.
しかし,この表現は,劇中では使われない.何故か?
ZZガンダムは,コックピットに座り,両手レバーと足元ペダル,他操縦席内部のスイッチやボタンを適宜操作する...という「設定」である.
つまり,劇中では,この場面,あり得ない.

巨大ロボットは,まだ現実には存在しない,フィクションである.
それに強固なリアリティを付与するのは「緻密な設定」だ.その大事な「設定」を壊してしまう表現は,視聴者の混乱を防ぐ為に,本編では流せない.

この一連の美は,OP限定!である.

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その「OPでのみ許される表現」を最大限活用したのが,前述の『銀河烈風バクシンガー』である.

「現実の3次元空間より2次元アニメの空間の方が,自由な表現が可能」
それには,殆どの人が同意するだろう.
が,更に自由な表現が許されるのが「OPアニメ空間」だ.

例として,幾つかのOPアニメを上げよう.
普通の女子高生が空を飛ぶ(あずまんが大王)
本編では実現しない組合わせで戦う(Fate/stay night DEEN版)
本編とは矛盾するが,許される…その理由は,「設定の遵守」より,「世界観の提示」がOPアニメでは優先されるからである.
(詳しい説明は,pixiv百科事典OP詐欺のページに譲る.
https://dic.pixiv.net/a/OP%E8%A9%90%E6%AC%BA)

例えばバクシンガーOPのこのシーン.

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宇宙空間で,敵ロボット「二オーム」(一部界隈での愛称は"くわまんロボ"!)の目から,トランプ柄風のビームが出て,その平面上を,主人公チーム"銀河烈風隊"が,コスモバイクで駆け抜ける!


ん...宇宙空間をバイク?

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そう,バイク.しかもノーヘル,ノー宇宙服で,宇宙空間を疾走(はし)る...新選組めいた隊服で...
SFファン界隈には,フィクション作品での,宇宙設定の不備を厳しく指摘する...「宇宙警察」的な方々が存在する...当然このシーンは,指摘の対象となりそうなものだが,OPならそのような方々も寛容だ.

が,ついでに本編1話も見てみると..…?

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いや,本編でもそうなん!? ヘルメットは被ってるけど!!
コスモバイクが宇宙空間を生身で駆け抜ける...その説明は,皆無!
思わず,「誰か説明してくれよ!」と叫びそうになる...

本編では「許せない」けど,OPなら「盛り上がる」...
設定を無視可能!という利点を最大限に活用し,極上のイメージPVを作る!
それが,伝説のアニメーター金田伊功ism溢れる(そしてOP詐欺に定評のある)国際映画社OP部隊の真骨頂なのだ!(おかげで本編制作陣は大変...)

...ちなみに,本編でのニオームは,目からビームも出せない,単なる雑魚である...
まったく,ぼやぼやしてると後ろからバッサリイカれちまうようなOPだぜ...

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『亜空大作戦スラングル』OPは,制作費用や期間の都合で,前述の通り全然「動かない」止め絵の時間が非常~に長く,使い回し画像だらけである.
だが,「動かない」からこそ,国際映画社の「謎の中毒性」...が解読可能だ!

OPの魔術師,国際映画社の謎の中毒性...その「秘訣」...とは,
「止め絵を最大化する為の最小限の動き」である.

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ファッションモデルも,スーパースターも,歌舞伎役者も,
相手の脳内に印象を残す為,同様の所作を行う.
「芸術的に止まる/一番良い絵で止める/見栄を切る」...
つまり,「止まる為に動く」のである!

馬鹿な?アニメは動いてナンボだろ!?...と思うなら,今まで見たアニメの印象的なシーンを,思い返してほしい.
多くの人が思い浮かべるのは,恐らく静止画だ.動画を思い描いた人でも,シーンの最後は,脳内で静止画となる...違いますか?

記憶に残るのが,むしろ静止画であるなら,「止まる為に動く」その割り切りが幾多の国際映画社アニメのOPを名作へ押し上げたのだ.

とは言え,国際映画社アニメはOPにリソースとステータスを割り振りすぎた,時代の徒花で...アニメ本編のストーリーやメカデザインなど,作品の存在意義の面では,「名作」とは言い難い.良いところもあるが,OPの素晴らしい完成度と比べると残念な出来である...

しかし,だからこそ自らの美学,強みを追求し続けた姿勢が,メインストリームとは別種の,独自の美しい花を咲かせたのだ.

ロケさんの国際映画社ロボ祭り

ガルビオン,アクロバンチ,ブライガー,スラングル...
この写真に並ぶロボット達を生み出した「国際映画社」は,ガンダムやマクロス,ボトムズなどを生み出した「サンライズ/バンダイ」により作られたアニメと比べれば,語るべき部分も少なく,アニメ史にもメカデザイン史にも,重要度は低い.
しかし...そのような,資本力や影響力の過小が作品の魅力の決定的な差では無いと,私は信じたい.
かつて,手塚治虫がその差に絶望すること無く,リミテッドアニメという手法で,「ディズニー」に一矢報いたように,OP限定ではあるが,「国際映画社」は,40年経った今でも,幾多のアニメに埋もれず,妖しい魅力を放ち続けている.

自分が,これほど国際映画社OPに入れ込む理由,今なら解る.
小さいが自分の特色を磨き,巨大な存在に対して「明るく/楽しく」挑み続けた彼らの姿「インディーズ魂」に惹かれ,自分の姿を重ね,見ていたのだ.
そして現在も,2日に1回は,国際映画社OPの数々に励まされて生きる日々が続いている.

画像協力 roketwo 様 @roketwo

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