SONY Carl Zeiss Planar T* 85mm F1.4 ZA (SAL85F14Z)
このレンズの説明にある〝被写体とのコミュニケーションがとりやすく、かつ緊張感が保てる距離〟って、コミュニケーションってのは声が届くかどうかだと思うのですけど、緊張感ってのがよく判らないのですよ…
model : 志柿じゅみ
Planar T* 85mm F1.4 ZAは、2005年にKONICA MINOLTAとSONYの協業が発表、その後2006年1月にKONICA MINOLTAはカメラ事業から撤退、事業がSONYに移管される事になるのですが、その後の製品発表で存在が明らかにされたレンズです。
全くの想像ですが、事業譲渡(2006/01)から製品発表(2006/06)までの時期が半年程度と短く、発売(2006/10)迄の期間も考えるとKONICA MINOLTAとSONYが協業を発表した際(2005/07)、既に両社の間でレンズ開発が進められており、もし、KONICA MINOLTAが撤退していなくてもSONYからCarl Zeissブランドとしてリリースされていたような気がします。
85mmクラスは以前から各社ボケ質が良いレンズをリリースしておりましたが、AFレンズでのボケ質の良さを牽引したのはAF化に先んじた事もあり1987年に発売されたMINOLTA AF 85mm F1.4で有る事は疑いの余地はありません。
その後を追うように、Nikon Ai AF Nikkor 85mm F1.4D (IF)、PENTAX FA★85mm F1.4 ED [IF]、FA 77mm F1.8 Limitedと言った至宝クラスのスーパーレンズ達が世に出てきます。
2021年現在、現行品も含まれていますが、これらのレンズは〝ボケ質〟と言う点で、これが一番とか最強とかそういう馬鹿馬鹿しい競争とは埒外の存在で、どれも素晴らしく、どのレンズを使っても幸せになれるレンズだと思います。
model : 柳川 みあ
Planar T* 85mm F1.4 ZAもその一つで、先に挙げたレンズより世代が若い分、その描写力は当時卓越していましたが、レンズ交換式カメラ業界では新参者のSONYが青いバッジの威光を傘に借りドヤッたレンズと言えなくもなく、どちらかというと描写力ではなく青いバッジのブランド力で多少はαユーザーが増えたような、そんな印象のあるレンズです。
ただ、発売直後は供給不足がアナウンスされるなど注目度の高いレンズでありました。
35mm F1.4 Gのエントリーでその当時のαユーザーの状況を書きましたが、このレンズと同時発表だったSonnar T* 135mm F1.8ZA (SAL135F18Z)の存在は双方のレンズがFullFlameに対応していた事と、初代EOS 5Dの発表でFullFlameボディに対して現実感が出てきた事、SONYと言うセンサー製造メーカーが参入した事などが考えられますが、その現時点でFullFlameボディの影も形もないのにもかかわらず「遂に…遂に俺達にもFullflameがぁッ(歓喜)」と古参のαユーザーを浮き足立たせるには十分でした。
ま、その後2年待たされる訳ですけれどもwww
model : 百川晴香
知らない方の為に当時の状況を書いておきますと、2000年代後半まで優勢を誇っていたのは当時各社が主流にしていたCCDセンサーではなく、ノイズに強いと言われるCMOSセンサーを内製し自社製品に採用していたCanonで、純国内メーカーでは唯一Fullflame(Canonが言うところのフルサイズ)ボディの100万円近い高額機EOS 1Ds系を筆頭に、APS-Cより大きなAPS-Hサイズ(x1.3)のセンサーを搭載した高機動モデルとしてEOS 1D系をラインナップ、2005年には30万円台後半と頑張れば価格で旋風を巻き起こしたFullflameセンサー搭載中級機EOS 5Dを製品化、また、それに先立つ2年前の2003年にはエントリークラスのEOS Kiss Digitalを(当時としては)低価格販売と、ハイエンドからローエンドまでボディを充実させており、フィルム向け中心とは言え元々完成したレンズラインナップもあって他社に対して圧倒的とも言える大きなアドバンテージを持っていました。
当時まだカメラ事業を行っていた京セラもCONTAX N DIGITALという青いバッジの付いたカメラを出していたり、米国Kodak社もKodak DCS Pro 14nという、Nikonのフィルムボディをベースにしたボディを発売していましたが…この辺りは数に数える必要無いかなー
ああ、FullFlameではないですが、FUJIFILMもNikonのボディをベースに独自センサーを搭載したモデルを出してました。
それを言うと、EPSONも…w
これに対して、ライバルであるNikonはAPS-C機で対抗せねばならず、それ故に(フラッグシップをAPS-Cでリリースする関係上)Canonに対してAPS-CレンズやD100やD200、D70やD40と言ったローエンドからミドルクラスのボディは充実していったのですが、Fullflameに対する渇望とCanonに対する敵愾心は悲壮と言える状況でした。
ちなみに〝DXフォーマット〟という言葉は自社にAPS-Cしかボディの無いその当時使い始めた言葉で、他社と同じ単なるAPS-Cなんですけど、少しでも特別感を演出しようという苦労が忍ばれる単語であります。
PC98-NX感が漂うというか。
その後、2007年になってフラッグシップ機D3で初めてFullflameセンサー機を発売し(狂喜乱舞)、翌年にはD3と同一のセンサーを搭載した中級機D700(バカ売れ)と画素数を倍にしたD3Xを投入、同時期に〝超広角レンズの神〟AF-S Nikkor 14-24mm F2.8G EDを筆頭にデジタル描写に対応した強力なレンズ群や(おそらくはAPS-Cとの兼用を考慮して)他社に先駆け50mmレンズを抜本的に刷新し、ラインナップは豊富でもデジタル時代とは言えないレンズが多かったCanonに対して猛追を始めます。
木村拓哉氏を広告モデルに据えていたのは2000年代後半からじゃなかったっけ?
D3発売後〝35mmフルサイズ〟と言う言葉を使いたくなかったらしく〝FXフォーマット〟と言うこれまた特殊な用語を使い出すのはこの辺りからですねw
さて、二強以外のメーカーも当然FullFlameボディなどは無く、その代わりに現在では各社常識となったボディ内手ぶれ補正やセンサーのゴミ対策機能、ライブビューの実装など現在に通じる技術を二強に先んじて投入したものの一般的には大きく評価される事無く基本的に蚊帳の外であります。
この間、二強の技術で現在に通じるのはCanonのデュアルピクセルCMOSを除くと思い出せないほど技術革新という点では目立ったものが無かった印象ですが、二強の両社は(殆どは低価格キットレンズだと思いますが)〝出荷レンズ累計○○万本〟とか熾烈な競争をしていましたね。
説明が前後しますが、当時Canon/OLYMPUSを除く各社のデジタル一眼レフカメラに採用されるセンサ-は、その当時レンズ交換式カメラを持たずセンサーの外販業がメインだったSONY製のCCDセンサーで、NIkon D100で採用された600万画素のセンサーを、その後、PENTAXやKONICA MINOLTAと共に長年(3年以上かな?)使う事になります。
あ、LBCASTというNikon内製のセンサーもありましたが…搭載機のD2Hより画素数の多いSONY製(共同開発)センサーを搭載したD2Xを選ぶ人が多かったので、あんまり数は出なかったんじゃないかなぁ。
色々なゴタゴタ(?)でPENTAXはFullFlame機の発売がかなり遅れる事になったり、OLYMPUSはデジタル専用の4/3規格なのでFullFlameの観念はなく、この辺りのセンサーサイズ競争は無関係で独自路線という雰囲気はありましたが、SONYがカメラ事業に乗り出す前はCanonのひとり勝ちで、開発ペースの遅いSONY製のセンサーを各社(我慢して?)自社製品に採用していた雰囲気です。
そして以前から一部の間で囁かれていたFullFlame待望論が2005年の初代EOS 5Dの発売を契機に普通のカメラ使用者にも芽生え待望論が巻き起こりメーカーは順次発売、2013年のSONY製ミラーレスα初代ILCE-7系で135 FullFlameボディは一気に大衆化する事になります。
Planar T* 85mm F1.4 ZAに話を戻します。
このレンズが発売された2006年、前述したようにSONYにはFullflameボディは存在せず、それどころかエントリークラスに位置するAPS-C機α100しかボディが存在せず、本来の画角(性能)で使用するにはMINOLTAのフィルム一眼レフで使うしかなかった訳ですが、APS-Cで使用しても127mmと135mm感覚で使用でき当時としては圧倒的な高性能であった為に使いやすいレンズであったものの、やはり本領を発揮したのは本レンズ発売の二年後2008年10月発売のFullflameボディ、A900の登場以後でしょう。
A900は同時期に発売された〝一眼での動画撮影〟を提案し業界を席巻した名機Canon EOS 5D MarkIIのような動画撮影機能やライブビューといった機能は搭載されていませんでしたが、A900には過去最高を目指したという優れた光学ファインダーが搭載されておりました。
A900はそのままでも見易いファインダーでありましたが、MINOLTA時代に定評があったM型スクリーンというボケ量の判りやすい(反面暗い)カスタムスクリーンと交換すると〝至極〟と言える素晴らしい見え味を提供します。
金属製の鏡胴と同じくした金属製で適度な減衰感のあるフォーカスリングを操作すると、レンズのキレの良さもあってピントが目に飛び込んでくるあの感覚は、各社AF化されファインダーは明るく見易いけれども素通しに近くピントのヤマが判りづらくなった当時(今もですが)、最上と言える官能性能を見せます。
AFカメラなのですが、MFが最高に楽しくなる。
良いレンズはシャッターレリーズせずともファインダーを通して良さが伝わるものですが、Planar T* 85mm F1.4 ZAはそんなレンズです。
金属製なので寒い時は冷たいのですが〝金属とガラスの塊〟感はそのサイズも相まって合理性を求めたエンプラ製のレンズでは絶対に出せない存在感がありますね。
フードは金属とプラで構成され先端はゴム巻き。 内側は丁寧に植毛処理されており高級感があります(実際高額)。
model : 朝比奈 夢空
このレンズ、Planarの名の通り、素人にも対象型と判りやすいレンズ構成なのですが、先祖であるMINOLTA AF 85mm F1.4に比べ前の方が大きくなって後ろの方の枚数も増えています。
これ、このまま前の方がデカく(後ろが小さく)なったらSonnar型になるんじゃね?とか、光学など全く判らない素人は思ったりもしますし、実際、後継と言えるFE 85mm F1.4 GMはそんな印象ですが、使用目的に適う描写をしてくれればレンズ構成などどうでも良い事ですね。
書き忘れていましたが〝Carl Zeiss〟の銘が付いたブランドレンズですけど、SONY内のCarl Zeissブランドであり、Maide in Germanyではありません。 ガッツリ日本製。
KONICA MINOLTAとの協業から考えるに設計も日本企業で〝Carl Zeiss社の要求基準を満たしたレンズである〟というだけの話でありましょう。
先述しましたが、SONYが青いバッジのブランド力を借りただけで、2021年現在のように自社ブランドの認知が高ければG or GMブランドでリリースしていても不思議ではありません。
また、同時期にCOSINAから発売されたレンズとも異なります。 あちらはCOSINA社とCarl Zeiss社の協業製品。
設計製造がCOSINAでもTamronでもコニカミノルタオプトでも日東光学でもCarl Zeissの青いバッジがあればCarl Zeissです。
model : 華井アロマ
さて、肝心の描写ですが、これ以前のF1.4クラスは通常1.5~2段絞った辺りで好ましい性能が出るよう合理的に調整されていると感じますが、このレンズは絞り開放からの実用的性能を求めたと思われ、開放画質が(異論はあるでしょうが)これ以前のレンズと較べ周辺域まで非常に良好です。
中央だけでなく〝開放から隅まで使える描写力〟と言う脱真ん中番長の描写基準は、その後Nikon Nikkor AF-S 85mm F1.4 Gが押し上げてゆきます。
今回、この感想文を書くのに十数年ぶりに解放での撮影をしましたが、やはり解放の時点で周辺域まで性能が良いですね。
当然、2021年現在の最新レンズには及ばないのですが、最新のレンズも口径食や周辺減光はあるのでそれらを抑制しようとすれば結局絞って使う事となり、実使用に於いては(解像力では劣るものの)古いも新しいも似たようなものですw
シャキッとしてない、と感じられると思いますが、人物撮影に特化されているレンズで100m先の被写体を撮る事は想定外の使用方法であって、更に解放で撮影となれば気が違っていると思いますw
人物撮影の主体は数m先なのでその距離感に最適化するべきで、より近い30m程先の停止線近辺の方がシャープに描写されます。
但し、F4~F5.6で遠景もスッキリした描写になるので、遠くを撮りたい場合には基本に立ち戻って絞って撮れば良いだけです。
人物撮影の距離だと微妙なふわっと感を残しつつも解放からスッキリしています。 下は解放での撮影で当然ピントは目ですが、ピント面はキリッとしており、長辺の白いエプロンも十分に解像している事が判ると思います。
ピントを合わせた目でさえも中心から外れていますが、こういった〝開放から隅まで使える描写力〟は今時普通でも、2006年当時、開放F1.4のレンズは中央は良いけど周辺は駄目なレンズばかりで希少だったんですよね。
model : 佐藤絵里香
以前から高性能レンズが発売される度に「性能が良いので絞るのは被写界深度を操作したい時のみ」なんて喧伝する人も居ましたが、中央だけでなく周辺まで考えると本当に使えるレンズはこの時点で殆ど無かったのでは?
実際のところ開放描写は色収差が多く口径食や周辺減光も当然あって、絞って使う方が「やっぱりイイ」だったので、通常の使用では旧型と言えるMINOLTA AF 85mm F1.4 Gや他社製レンズとの性能差もそこまで大きくはなかったと感じますが、実用的な保険としての価値はありました。
MAX性能的にはF4~F5.6程度で全領域性能MAX、ボディ側の画素数にも左右されると思いますが、F8を超えても大きな変化はありません。
通常は中央が特別良好で、絞るに従い全体的に、特に周辺が上がってきてある程度の絞りで逆に中央は落ち込んでゆき、F4~F8辺りでだいたい平均的なバランスが取れるのですが、Planar T* 85mm F1.4 ZAにその常識は当てはまりません。
どの絞りでも周辺まで、その絞りなりの解像力が画面全域で得られるという理想的な描写特性を持っています。
そして、おねーちゃんレンズとして85mmクラスでは当然の事ですが、ボケ質が大変良好です。
大口径中望遠故にボケ量でボケ質を誤魔化す事は容易に出来ますが、本質的な面で良好なのでボケ量が減っても破綻する事はないです。
解像力とボケのバランスで考える、所謂〝オイシイ絞り〟はF2.5~F4くらいだと考えていますが、前述したようにその絞りなりの描写が得られるレンズなので〝全ての絞り値がオイシイ〟と言える事も出来ます。
Carl Zeissと言えば高いコントラストが特徴ですが、このレンズに関しては解放や浅い絞りでは標準以上ではあってもSonnar T* 135mm F1.8ZA (SAL135F18Z)程に卓越した高いコントラストではないと感じます。
85mmはその若干弱い部分が優しいボケ描写を生んでいるような気がしなくもなく、様々な用途に使われる事を想定した135mmとポートレートに特化した85mmとのキャラの違いを感じさせます。
〝とろけるようなボケ〟と言う言葉があります。
ボケ質がイマイチのレンズは縁が残ったようなボケ方をしますが、ボケ質の良いレンズは物体が滑らかに溶け合い、柔らかい印象を残します。
大概明るいレンズはその辺りが有利なのですが、ざわつくレンズも有るのでF値だけでは判断出来ません。 もしF値だけで判断するとしたら、F1.4をF2.8で使用すると〝劣った〟状態となる訳ですし、STFのような暗いレンズはボケ質が悪い事になりますが実際には違うので、F値ではなく〝元々レンズが持っている素性〟が重要になります。
ボケ質を左右する一要素である絞り羽根は9枚の円形絞り。
これはMINOLTA AF 85mm F1.4から続くもので、MINOLTAのレンズは絞り羽根の精度が高く、多くの状況で絞り羽根形状が露呈する事はありませんでしたが、SONYになってからもその精度は高く1.5段程度までは円形を維持し、自然光環境下であれば、絞り羽根が露呈する事はないレベルの高い精度を持ちます。
下は解放とF2.5ですが、二段近く絞ってもギリ円形と呼べる形状を維持している事が確認出来ます。
この絞り羽根耐性は後続と言えるFE 85mm F1.4 GMと変わりません。 口径食も同程度。 その後のレンズで11枚羽根は完成度が上がってゆくのですが、GMクラス初登場の時点では長い歴史を持つ9枚羽根に数字程には及ばない。
点光源描写では、内部にぐるぐるボケというか渦巻きが見えるレンズもあるのですが、このレンズにそういう描写はありません。
点光源内部の渦巻きは非球面レンズと言うものを使用していると出やすいと言われており、青いイルミネーションだと目立つ傾向を感じますが、非球面レンズを使用していない為にそういった描写とは無縁です。
点光源周囲にはシアンの変色が纏わり付く場合がありますが、青いイルミネーションでは同系色故に目立たないので、多くのレンズが苦手とする青いイルミネーションを逆に得意とします。
ブルーイルミ無双w
更に周囲との溶け込み具合も重要で、点光源周囲に強い縁がなく周囲に溶け込み一体化します。 こういった描写は最新の高性能レンズでは望む事が出来ない優れた描写で〝格が違う〟と言っても良い程の違いがあります。
最新の高性能レンズはこの辺り、本当に駄目。
たぶん、性能を求めてしまうと、この部分は劣ってしまう宿命なのでしょうねぇ…
ボケ質は主観的であるが故に〝絶対〟は無いかも知れませんが、2021年現在の最新レンズに勝るところはあっても劣るところは殆どないと感じます。
強いて言えば前述した点光源周辺の色づきですが、後処理で削減出来る場合もあるので、後でどうとでもなるような要素を問題視するより、どうしようも出来ない部分を問題視するべきですね。
ただし、二線ボケは多めで、特に前ボケは〝入って当然〟なレベルに無茶苦茶入ります。
後ろボケ最重視の極端な〝おねーちゃんレンズ〟としてのキャラ設定は、同時発表だったSonnar T* 135mm F1.8ZA (SAL135F18Z)とは異なるキャラで、双方の使用状況を鑑みて設定されたと思えますが、それにしても強烈です。
model : 廣川かのん
実はこの傾向はMINOLTA時代からあって「どーせキミ達は後ろしか見ないでしょ?」とでも言っているようにも感じます。
かつてのNikon DC-NikkorやCanon RF100mm F2.8 L MACRO IS USMをみれば判ると思いますが、ボケ質は前か後ろのどちらかを良くすると、どちらかが悪くなる、と言う性質があります。
その為、通常はその(使用用途を考慮しての)バランスを考えて設定されるもので、例えば200mmや300mmと言った望遠の焦点距離だと被写体の前方に障害物があったり、逆に被写体の後ろは溶けてしまう可能性が高いので前ボケを重視する設定とするのが合理的と考えられます。
85mmという焦点距離と用途だと前より後ろを重視するのが合理的では有るのですが…
それでも、自分を含め〝ボケ質が良い〟と言う評価は変わらず、二線ボケの有無だけが綺麗と感じる要素ではない、と言う事を感じさせる描写であります。
レンズの〝味〟という価値基準がありますが、味とは結局のところ〝描写として良くない事〟で、その良くない事をどの程度残すか、と言うのが重要な匙加減であり、単に性能を求めただけでは〝味〟は出せません。
昨今の、特に50mmクラスの高性能レンズの多くはどれも似たような描写傾向に感じますが、これは〝良くない部分を消す〟方に完全にシフトしていて、〝味〟と呼ばれる良くない事を残す方向ではない事が理由に思えるのですが、そういうレンズは機械的というか、凄さは理解出来ても人間味が感じられず、人物撮影に多く使われる(と、メーカーが自身が謳っている)85mmクラスにはあんまり好ましくないなぁ…とか思っています。
欠点はあっても良いんです。
欠点があってもその欠点を超える魅力があれば、それは素晴らしいのです。
model : 楠原安里梨
解放ではピント前後の変色、軸上色収差が目立ちます。
被写体や撮影状況にも依りますが、F2.8程度で気にならない程度に、F5.6まで絞れば消えます。
これは後の修正が面倒なので出ないに超した事は無いのですが、人物を撮るに際しては1.5~2段絞れば多くの状況で問題にならないと思われるものの、衣類の貴金属やアクセサリーでは気になる場合も有るかと思います。
フォーカス時に前玉は回転しませんが、焦点を合わせる際にはインターナルフォーカシングという方式を採用していない為にレンズ鏡胴からニョキッと1cmくらい伸びます。
インターナルフォーカシング方式の方がAFが速いらしく、それ以前から他社製品では採用されていたので、そこはちょっと旧い感じがしますね。
ただ、実使用では特に遅いと感じた事はないですねぇ。
速くて困る事は全く無いのですが、多くの状況で被写体は静止している上に人物撮影はAFが速いから良いカットが押さえられる訳ではありませんからね。
使用するボディによって合焦速度は大きく異なりますが、感覚的に静止した被写体なら多くのボディで苛つかない程度に、A99 IIであれば動きのある被写体でもギリ追える程度の速度です。
ついでに、対応したボディでは瞳AFも問題なく動作します。
レンズのフォーカス駆動に当時先端技術だった超音波モーター(SSM)ではなく、古典的なボディモーターを採用した事で一部の人から評判が悪かったのですが、初参入のSONYとしてはMINOLTAのフィルム一眼レフユーザーの需要も考えていた可能性も考えられるものの(SSMには対応したボディが必要だった)、機能としてSSMを採用しなかった事には何ら題はありません。
個人的にも他所有者の状況でも、超音波駆動の元祖であるCanon製のレンズはボディ内駆動に較べ故障率が高く、SONY製もSSM駆動は故障の憂き目に遭遇しています。
その点、ボディ駆動は故障した事がなく、経験則上耐用年数が長く長期間使用出来る上に、フォーカスはリングを廻したその位置で決定されるので、マーキングしておけば直ぐさま所定の位置へフォーカス出来ると言う利点もあります。
AF時にシームレスにMFに切り替える動作(Canonでいうフルタイムマニュアルフォーカス)はレンズ駆動の方が直感的という面もありますが、MINOLTA/SONYの中級クラス以上のボディに関しては右手親指で操作しやすいAF/MFボタンがあるので実使用上は全く困りません。 むしろ、AFが迷った時には強制的にMFに移行出来るので、音も無く迷い続ける超音波モーターより使い勝手はずっといい。
ボディモーター故にジィーコジィーコと動作音がするので最近の静粛なAF駆動レンズしか使った事がない向きは焦るかも知れませんが、撮影結果に音は入らないので気にしても意味ないです。
「超音波モーターじゃなければ嫌だ」というのは、スペックに拘るだけで殆ど撮らないような人じゃないかと。 実際に使用して不足であればそれは欠点ですが、そうではないなら問題になりません。
それよりも、フォーカスリングの〝遊び〟を問題視した方がいい。
これに関してはMINOLTA時代からガタつき(あそび)が大きく、減衰感は良いけど、とても好ましいとはいえない。
それと、左側に一つだけのフォーカスホールドボタン(FHB)。
人物撮影は縦位置が多いのに何故左側に一つしか無いのか、と。 縦位置グリップの向きを考えたら上に付けるべきで、左側では断じてない。
ただ、FHBに関しては後継と言えるFE 85mm F1.4 GM (SEL85F14GM)も同様なので、そういった詰めの甘さはこのレンズに限った事ではないです。
それから、Planar T* 85mm F1.4 ZA自体に罪は無いのですが、これより後に発売されたPlanar T* 50mm F1.4 ZA SSMと外見がクリソツなので50mmの方にPlanar T* 85mm F1.4 ZAのフードを使うと見分けが付かず間違えますw
50mmと85mmの間違えはでかい。
Planar T* 85mm F1.4 ZA (SAL85F14Z)は2021年現在、新品でも購入可能ですが、Aマウントが幕を下ろしE(FE)マウントに変更となった現在、A(α)マウントの中古レンズは値崩れが続いていて中古品は購入しやすくなっています。
進化の早いズームレンズはネイティブの方が良いと思いますが、A(α)マウントのレンズはFEマウントに比べC/Pが高いレンズやボケ描写に関しては最新より優れたレンズが多数あり、お勧め出来るレンズが多いのですが、このレンズはその筆頭です。
実使用においてPlanar T* 85mm F1.4 ZAの描写力は現在でも不足がなく、描写だけでなくサイズの点でも取り回しが良いのでFE 85mm F1.4 GMより使用頻度が高いくらいです。
対応ボディとLA-EA5があればAFが使え時間の節約になる上に疲労度も低いのですが、液晶ビューファインダーには〝ピーキング〟や〝ピント拡大〟という機能も有るわけでAFに頼らずとも静止した被写体に対してはMFに苦心しません。
MTFのような数値化した定量的基準では現在の各社F1.4クラスは勿論、F1.8/F2クラスにも確実に劣りますが、人間を撮る事が多いと想定されている85mmクラスの命はボケ質であってMTFでは有りません。
他焦点距離なら兎も角、メーカー自ら〝人物撮影に向く〟と売り出している85mmクラスで解像力を過剰に追求したり賞賛するのは、撮影対象である人間をモノと勘違いしてるんじゃないんですかねw
レンズの話より昔話の方がながい。
ここからは本編に関係ないのですが、〝超広角レンズの神〟と称したAF-S Nikkor 14-24mm F2.8G ED、同社他のF2.8通しレンズは登場後刷新されてるんですけど、このレンズは新装されず終い。
当時、このレンズの為にFマウントを追加する(戻ってくる)人もチラホラ居て、2470や70200は他社製品と大きな違いは無かったと思いますが、数字的にはより凄いレンズも登場したものの描写が追いつかず、これだけはその焦点距離と共に他社が追従出来ず刷新の速いズームレンズの世界で10年以上に渡って君臨したまさに〝神〟と評するに相応しいレンズですね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?