
『アフター・ウェディング』
2本目は自分がどんな映画が好きなのかみたいな自己紹介的な意味も込めて、2007年に日本公開のデンマーク映画、『アフター・ウェディング』の感想を書きます。
あらすじ
スサンネ・ビア監督による人間ドラマ。インドで孤児の援助活動を行うヤコブは、祖国の実業家ヨルゲンから巨額の寄付金の申し出を受ける。デンマークに戻ったヤコブは、ヨルゲンの娘の結婚式に誘われ、思いがけない人と再会し、ヨルゲンの真の望みを知る…… (映画.com)
雑記
監督はデンマーク出身のスザンネ・ビア。
最近だとNetflixで配信された『バード・ボックス』の監督をしてます。
そして主演が北欧の至宝、世界一顔がいいで有名(?)なマッツ・ミケルセン。
『007/カジノロワイヤル』やドラマ版の『ハンニバル』で有名です。
本当に顔が良い。
この2人が以前にもタッグを組んだ『幸せな孤独』という作品もありますが、そちらもとても素晴らしいです。
感想
この作品にはストーリー面で特段の目新しさや度肝を抜くような展開は用意されていません。
それなのに楽しめてしまう心理描写の描き方。
対照的なキャラクターをアイコニックに設定し、心理描写を繊細に描くことで彼らの見え方を変えてしまいます。
ーー
インドで孤児院を運営しているが経営難に悩まされる主人公のヤコブ。そんな彼に接触する資産家のヨルゲン。
主人公のヤコブが資産家のヨルゲンに招かれデンマークへと帰国するところから話は進みます。
ヨルゲンの娘の結婚式に招かれたヤコブはそこで2つの事実を知ります。
元恋人のヘレネがヨルゲンの妻となっていること。そして2人の娘、アンの本当の父親が自分であること。
物語はこの4人の関係を中心に回ります。
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ヘレネはヤコブが現れたこと、アンはヤコブが実父であること、
そしてヤコブは娘がいると知っていれば、一緒に過ごしていればそこにあったハズの過去に対してそれぞれが苦悶します。
なぜヨルゲンはヤコブと家族を接触させたのか。
これが今作のポイントになります。
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冒頭からこの結婚式のシーンあたりまで、ヨルゲンという男は思惑の知れないキャラクターとして描かれます。
家族へ向ける愛情、権力者然とした振る舞い、垣間見せる弱さ。
こういった描写が彼の人間味に説得力を持たせています。
対するヤコブは苦悶しながらも慈善活動にひたむき。
しかしヤコブのどこか空虚さを漂わせる雰囲気が、そのひたむきさの理由を探りたくなる欲求を持たせます。
ーー
物語が進むにつれて、彼らの人間関係と思惑が収束していきます。
アナとヤコブはぎこちないながらも親交を重ね、ヘレネとヤコブは互いの想いを吐露しあいます。
親子として失った時間を埋めるかのようなアナとヤコブのシーンは、切なさのなかに暖かさと微笑ましさがあるとてもいいシーンです。
そしてヨルゲンがヤコブを家族と接触させた理由、それが病によって余命幾ばくかの自分の代わりに家族の側にいてほしい、という想いからだということが判明します。
病を隠し、自分が去った後の家族のためにあらゆる手段を講じるヤコブ。
このヤコブの精神は高潔である一方、エゴイスティックでもあると思いました。
ここで出てきた「高潔さとエゴイズム」と
冒頭からあるヤコブの慈善活動+明らかになったヨルゲンの目的に共通する「他者の将来に干渉する権利と責任」
この2つがこの作品の主題なのかなと思いました。
個人的にこれらは、正解のない問答というか永遠のテーマというか、この作品においては誰に感情移入するかで受け取り方が変わると思います。
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ヤコブは、ヨルゲンから慈善活動への支援を受ける条件としてデンマークに残ります。
1度孤児院に戻り、1人の子供に「デンマークで一緒に暮らさないか」と提案をするが断られます。
人によって「その場所」か「その人(たち)か」
拠り所になる選択肢は異なる。
ふと、自分だったらどうなんだろうと考えさせられる場面でした。
ーー
この作品、主人公はヤコブなのですが、個人的に1番印象に残ったのはヨルゲンの最後のシーン。
寝室で、妻のヘレネと2人。
今まで家族の未来の為に死を受け入れたかのような高潔さをみせていたヨルゲンが、
「死にたくない」「なぜ死ななければならないのか」
と怒りと恐怖と執心を剥き出しにする。
彼の人間らしさが爆発し、いたたまれなさと憐憫と、身を裂かれるような思いを抱くとても強烈なシーンでした。
ーー
この作品は人物の眼や口元のアップカットが印象的で、とても効果的でした。
もちろん役者陣の演技の素晴らしさもありますが監督の状況作りの巧みさにより、そういったカットがセリフよりも直接的に感情を揺さぶってくるような表現がされていたと感じました。
また感傷的な内容であるが故のわざとらしさの様なもの(うまく言語化できない…)がなく、あくまでリアルな構成になっていたなと思いました。
あとがき
この監督は社会問題というマクロな題材と家族というミクロな題材を1つの作品に落とし込むのがすごく上手いなと思いました。
感想のところでも触れましたが、
貧困に対する救済活動をする男と自分がいなくなった後の家族のために未来を描く男。
「高潔さとエゴイズム」
「他者の将来に干渉する権利と責任」
みたいなことをかけはなれたシチュエーションできれいに描写されていてすごいなぁと思いました。
また主演のマッツ・ミケルセンはもちろん
ヨルゲン役のロルフ・ラッセゴードとアナ役のスティーネ・F・クリステンセンの演技がとても良かったです。
最後に
正直こういった映画は食指が伸びない人もいるだろうなぁと思いながら書いたので、
次はエンタメ色の強い作品についてにしようかな、とか思ったり思わなかったり。
後、次はネトフリとかで観れるやつにしなきゃとは思ってます。
気付いたらこの作品もネトフリから消えてたのでそこら辺はご容赦を。
2020/10/11
hyve
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