ティラノゲームフェス2024お薦め作品紹介⑤しばらく心に引っかかる、言語化できない思いになる作品
はじめに
「ノベルゲームコレクション」の祭典「ティラノゲームフェス2024」のお薦め作品紹介、今回がついにラストです!やっぱりティラノフェスはいいですね…。バーチャルフェスも楽しみです。
去年に引き続き私がここまで遊んだフェス参加作品の中から特にお薦めしたい作品を紹介しています!ぜひ皆様にも個人制作ノベルゲームの世界に触れるきっかけしてください!
去年に引き続き5回の連続記事で3~4作の作品を紹介しています。去年とは区分を変え「私が遊んでどんな気持ちになったか」で区切らせてもらいます!どれもこれもお薦めの作品なのでぜひ遊んでもらいたいです…!
去年の作品紹介記事はこちらから!
各記事の紹介
しばらく心に引っかかる、言語化できない思いになる作品(今回)
今回は第5回「しばらく心に引っかかる、言語化できない思いになる作品」になります!このようなレビュー記事で作品の言語化を頑張ってしようと試みているのですが、それでも何かそこをはみ出してしまう、だからこそ指に刺さった棘の様に作品への思いがなかなか抜けない。一言で言えない感情を私たちにくれる、そんな作品を4作紹介します!
結果として全ての作品が狭い空間での対話劇となったので、今私が対話劇に強烈な感情を覚えやすくなっているのかもしれません…!
言語化できない思いになる作品4選
1:わだつみは水底に眠る
「すでに全てが終わってしまった」主人公と「ある存在」の対話を描いたノベルゲームになります。「全てが終わった」とはどういう意味なのかを読み進めていくたびに知っていくことになります。
古いテレビをモチーフにしたようなグラフィックに惹かれて遊んだのですが、とにかく読んでいる間、物語と心の距離がぐらつき続けました。紫を基調としたグラフィックと、文字も含めて一つの絵画であるかのようにフォント・間隔・サイズ、文章の切れ目、そして流れ方まで計算された文章が画面と調和していて心に沁みこんできます。文学的な読みごたえを強く感じる作品です。また、主人公が決定的な喪失を終えた後だからか、言葉・主人公・「ある存在」・そしてプレイヤーとの間に常に距離があって、それが水中にたゆたうように揺らぐところに独特の魅力を感じますし、そこが文学的に感じる所以なのかもしれません。。
主人公と「ある存在」は対話を重ねる中で互いの「喪失」と「終わり」について顧みることになります。その対話は当初どこかつかみどころがなく、哲学的で、でも「ある存在」の魅力的なデザインと合わせて不思議な色気のようなものを感じました。そして、最初から仄暗く見えていた真相が浮かび上がると、それはかなりきつい話で、そんなことを聞かされたら普通「ある存在」と主人公に感情移入できなくなってもおかしくはないのですが、でも、そこまで読み続けていると彼らを簡単に切り捨てられなくなって、すごく心が割れるような気持ちになりました。
ノベルゲームの総合芸術的な面をすごく感じる、美しくも苦しい作品でした。いい意味でため息が出るような物語です。注意書きを読んでいけるなと思ったらぜひ読んでいただければと思います。
2:妹浸蝕 -ソロリズム-
帰宅後に妹と「いつもと全く同じ内容の会話」をする中で間違いを指摘する短編ノベルゲームになります。「同じ内容の会話」というのが細かく決まっていて、妹がそれを守れているかどうかを都度判断していくというゲームプレイになります。この段階で「え、毎日同じ会話ってちょっと怖くない?」と思われる方も多いかと思いますが、本作はその不安を遥かに超えて戦慄する、そして心に刺さる大傑作となります。
「妹浸蝕」というタイトル
狭いマンションの部屋という
選択肢・セリフなど、文章の端々に感じる不安感
かわいいけど何かちぐはぐな妹の姿と会話
など、とにかくあらゆる方向から心がざわざわする中で会話をしていくことになります。
一見ほのぼのしたエンディングの隙間から姉妹それぞれの内面やその正体、そして何か不穏な事態がじんわりと滲んできて、「あっ!」となります。また、「こうなのかな」と思っていた不安がそのまま顕現して「やっぱり」となったかと思えば、想像と全く違う展開が訪れて「え?そうなの!?あ、でも確かに…?」と覆されたりと、読んでいてどんどん心がかき乱されます。本当にストーリーテリングがうまくて、いい意味でこちらが翻弄されるけど、物語に振り落とされるまではいかないので続きが気になって仕方なくなります。概要欄を読む段階で「ああ、これは辛いことになるよな…」と想像できてしまうし、そしてそれ以上の悲劇となってしまう作品ではあるのですが、それでも最後のあの姿に未来に一筋の希望がまだ残っていて、そこに向かっているんだと信じたくなる爽やかさも確かに感じました。
あ、でも、そのあと…、いや…でも……
ここは是非皆さんで見てください!
と今でも葛藤が生まれています。メニュー・UI・エンディングの名前・果てはノベコレの概要欄まで細部まで練りに練られています。ぜひ短い時間集中して全てを受け取めてほしい作品です。全てを読み終えて、あの瞬間を迎えた時、本当にいい意味で絶句しました。
3:イマジナリー・バッドフレンド
突然現れたイマジナリーフレンドと遊ぶノベルゲームです。彼と遊ぶ中で少しずつ違和感が生まれていきます。そして自身とイマジナリーフレンドに起きたこと、そして二人の関係性の真相に気づいていきます。
作者様がフードをかぶっているキャラクターが好きということで、かわいらしいフード姿に惹きつけられる人も多いでしょう。私もその一人でした。
その上で、今作は絵のめちゃくちゃに強く、雄弁な作品です。デザインのポップさ、構図、部屋や遊ぶ場所のロケーション、二人が同時に映るシーンの距離感、表情など全てが見ていて楽しいですし、同時に、プレイしている私自身の幼き日さえ想起させる普遍的な切なさや暖かさに溢れていました。同じ遊びを私がいていたわけでもないのに、その表情や距離感におそらくは私の幼いころに通じる郷愁があって「ああ、あったなぁ」と心がきゅんきゅんしました。今作は名前を入力して読む作品なのですが、自分が子どもの頃友人に呼ばれていたあだ名を入れて遊ばれるといいのではと思います。
私はイマジナリーフレンドがいたことはないのですが今作を読んでいると幼いころのリアルな友人を思い出します。その郷愁と前述の絵の力が相まって、本当に何とも言えない切なさで胸が苦しくなりました。実況でプレイした時は途中涙が流れ、最後には号泣しました。今回、この記事を書くために改めてエンディングを見たらまた涙が出ました。きっと、今作を遊ぶと昔遊んだ友人のことを思い出す人が少なくないのではないでしょうか。
あいつ元気かな…。
そんなことを感じるぐらい、「友達」というものに真摯に向き合った作品です。「バッドフレンド」とついている意味を、ぜひ知ってもらいたいです。ああ…ああ…。
4:夜半に道連れ
女性二人が、片方にとっては元恋人であり、もう片方にとっては配偶者に当たる男性を埋めた、そんな真夜中に繰り広げられる会話を読み続ける対話劇形式のノベルゲームです。対話を見届けていく中で「なぜ男を埋めることになったのか」「いったいなぜこの二人が共にいるのか」「二人はこれまでどう生きて、これからどうしていくのか」が描かれていきます。
とにかく今作は私にあらゆる面がぶっ刺さりまくっていて、正直
やれ!
とみんなに言いまくりたい、ていうか配信で実際に言った作品です。自分にとってはかなり特別な作品の一つになりました。
ゲームを起動してすぐ現れるタイトル画面が最高すぎるところから始まります。真夜中の怖さと魅力に溢れたピンクと紫を基調として、そこにLo-fiミュージックが合わさった雰囲気はいつまでも見ていられます。そこからもわかる通り今作は色彩設計がすばらしく、その中で二人が対照的な姿で表情をコロコロ変えながら喋るのを見ているだけでも満たされます。また、大事なところで挿入される一枚絵も全部やばいです。
それらの、美しいけれども閉鎖的な世界観で「男を埋める」というエクストリームな出来事の経緯と、二人のそこまでの人生を述懐する会話が行われます。それを読んでいるとまるでこの世界が全てはりぼてかのような生命感の欠如とLo-fiミュージックが調和して、起きていることは辛く激しいのに不思議と落ち着いた気分にもなって、こちらに複雑な感情を駆り立ててくれます。
また、今作はとにかく文章が素晴らしいです。女性同士の会話として自然な口語体で日常的な表現には声に出したくなるリズム感があり、そのリズムにドライブされるかのように二人の女性に感情移入が進みます。
もちろん「男を埋める」のは犯罪であり、二人は罪を犯しているわけですが、それでも「この二人…、この二人はなんとか………!いや、確かに犯罪してるんだけど、でもさ……!!」と思ってしまいます。暗澹たる展開やさらっと描かれる強烈な過去のエピソードが、心地よいリズムと、女性としての実在感を持って押し寄せてきて、その日常と非日常の対比が強烈なアンビバレントさで悶絶していまいます。
また、非常に細やかな演出が各所に張り巡らされていて、それにも心を揺さぶられているでしょう。特に二人の表情の変化はぜひ見て欲しいです。そして、そんな先で出会う3つのエンディングはどれもそれぞれに心を掴まれるものでした。ねえ、だって、あれからの、あれからの、あれだよ……!個人的にEND3で最後に出るあの絵を額装したいです。ぜひ、みなさんにもそこまでたどり着いてほしいです。
「夜半に道連れ」に関しては単独のレビュー記事もありますのでよければお読みになってください。ていうか遊んでください。
宣伝
今回でティラノゲームフェス2024のお薦め作品紹介記事は終了となりますが、フェスはまだ始まったばかりです!
これからも色々な作品を遊び、月例レビューや個別記事、あるいはノベルゲームコレクションのコメントで皆様に素敵な作品を伝えられればと思っております!ぜひ参考にしてもらえればと思いますし、皆様もフェスを楽しんでください!
また、今年もティラノフェスのスポンサーになりました!例年通りスポンサーお気に入り作品(今年からスポンサー賞ではなくなりました)の表彰は「5つの記事で紹介した以外の作品=フェス開幕後に遊んだ作品」を対象とさせていただきます。ここで紹介した作品は「殿堂入り」という扱いですので、ぜひ皆様と一緒に今回のフェスを楽しんでいければと思っております。
(追記)また、「イマジナリー・バッドフレンド」と「夜半に道連れ」は私の実況もありますのでよければご覧になってください!どちらもかなり悶絶しています…!
また2024年上半期のベストフリーゲーム10選+ベスト1記事を公開しています。ティラノフェス2024参加作品も多くありますのでぜひお読みください!