最近遊んだ・遊んでるゲームを一気にレビュー(2024年7・8月編)
Wizardryのソシャゲ版が評判もいいので楽しみです。
広告つき無料ゲーム
イロまぜインク店
インク屋さんでの仕事をモチーフとしたタップゲームとなっています。スマホ広告つきンプルな操作で遊べます。
インク屋さんらしく色彩を徹底的にゲームにしています。複数の色がぐるぐる回っていてそれが混ざると何色になるかを当てるゲームや色を明るさ順に並べるゲームをしてスコアを稼いでいきます。一見簡単そうに感じますが色が単純に「赤・青・緑」と言った感じではなく例えば同じ赤でも暗め・明るめと明度が違ったり、暗めの中でも少しだけ色相が違うなど、色が細かく細かく分類されています。なのでやってみると思った以上に難しく、色の世界の奥深さを味わえます。ちょうど色彩を学ぶ必要性を感じている時に本作を知ったので勉強も兼ねつつちょっとずつ遊んでいます。
今作のよさとして、他にはなかなかないんじゃないかってぐらいゲームのテンポがいいことがあげられます。さらにそのテンポのいいゲームプレイの中で店長であるココがどんどん小気味よく動き、その姿がとにかくかわいらしく心地よいのが楽しいです。特にインクを梱包して送るアニメーションはテンポ・かわいさともに最高で、ついついもう一回、もう一回と遊んでしまいます。ゲームを遊ぶたびに溜まるポイントでココの衣装の色違いが手に入るガチャが遊べるのも続けるモチベーションになります。来年をめどに色彩検定3級を受けたいと思っているので合格したら作者様にお礼を言いたいです。
フリーゲーム
ショートケーキの埋葬(体験版)
死体を埋めるという悪夢のような出来事の先に起きる更なるドラマ、そして街を巡る秘密を描いたクライム・サスペンスノベルゲームの体験版となります。
今作の作者であるNANTEDOW様は互いに「ずぶずぶの関係」と言い合うほど縁が深い存在です。有料頒布作品をいただいて実況をするという、私にとって初めての「案件」をした方でもありますし、おそらくNANTEDOW様の全ての作品において私が初実況をしたはずです。クリエイター・実況者として立場は違えど共に成長していった「同志」とさえ勝手に思っています。
なので今作に対する私の評がフラットでバイアスがないかと言えばそれは保証できないでしょう。その上で体験版を遊んだ段階の感想ですが、今作は飛びぬけた作品になる予感がしています。分岐なしでとにかく読み進めていくのですが、とにかく読むのが全然止まらなかったです。「続きは!?続きは!!??」となる、ハラハラドキドキのサスペンスに溢れています。
体験版の段階で、死体を埋めた主人公の物語と街を覆う謎を追う警察官や記者たちの物語が別の路線で進みながらもそこにぶつ切り感がほとんどなく、少しずつ重なり始める予感を見せています。片方の物語の中に、もう一つの物語を読み解くカギになりうる伏線が埋められていたり、両者が共通して行くことになる場所が非常に印象的なシーンとなっているなど、作劇的な工夫が非常になされていて飽きません。
また、今作には家族・ジェンダー・労働環境など現代的な問題が通底音として描かれています。ただ、それを雑多に取り入れるのではなく、「じゃあ物語って何ができるのか?」をかなり丁寧に考えているんじゃないかな?と思わされます。とりわけ主人公がある女性へするある行動は、そこまでの描写・ロケーション・構図、そこから浮き上がる意味も含めて本当にいいシーンでした。そのあと違う物語が急展開になるのもたまらないです。
きつい描写はありますが基本的には間接的な表現にとどまっていますし、今年発表予定の完成版に向けてぜひ体験版を遊んで備えていただければと思っています。
海鳥野ガクの精神鑑定録
精神科医となり母親を刺したという患者の精神鑑定を行う、会話とポイントクリック、そして行動や発言の選択で進むアドベンチャーゲームとなります。
クトゥルフ神話ADVを謳うだけあり、精神鑑定をしていく中で予兆的に異常事態が起き、それに振り回されていくうちに神話的・冒涜的な事象が起きて、大変なことになっていきます。
遊んでいる間はちょっとずつ違和感と嫌な予感が募っていき、その予感の通り、いやそれ以上のことが起きるというのがとてもクトゥルフ神話的で大変楽しませていただきました。そのため何が起きるかはここではこれ以上言えません。原作でもTRPGでもそれを元にしたゲームなどの創作でも、クトゥルフ神話、あるいはそれに準ずるものが好きな方は恐怖、謎解き、その先の展開も含めて確実に楽しめる作品だと思います。何よりエンディングの切れ味が最高です。それでこそクトゥルフ!!って感じでとてもテンションがあがりました。ゲーム中にもやはり死亡要素はありますがちゃんとリトライすれば確実にクリアできる難易度となっているので、ぜひ遊んでもらいたいです。
さらに今作はドット絵のデザインがとてもいいです。特にUIやタイトルは美しいドット絵が気持ちよく動いて、それを見ているだけでわくわくします。私の周囲ですとクトゥルフ神話TRPGが好きな方が本当に多いので、そのような方はぜひやってほしい一作です。
手芸ex
スカイダイビング中にボタンの外れたYシャツを拾いそのボタンを縫い合わせていく「エクストリームソーイング」をテーマとしたアクションゲームです。嘘はついていないです。もちろん「エクストリームソーイング」は架空の競技ですが、本当にそういう作品です。私もこの紹介を見て「どういうことなの…?」と思ってプレイしました。
キーボードのWASDで主人公を動かしてYシャツを拾い、マウス操作でボタンに糸を通していく、異なる操作をノンストップで同時にやっていくアクションゲームになります。やってみると目線をどっちに向けていくか。どっちの操作を優先するかで手と脳がぐわんぐわんしてきますが、それがうまくいくと「エクストリームソーイングできてる!!」と楽しくなってきます。また、最後にはワンタッチでボタンが縫えるEX状態があって、一気にボタンがついていく感じが爽快で楽しいです。
シンプルなゲーム性で誰でも軽く楽しめるのでちょっとスコアアタックしてみるのはいかがでしょうか?あと、ダイビングする時に主人公がこっち見てくるのが何度見ても面白いです。「こっちみんな」を全力で味わえます。
ビビの恩返し
亡くなった小鳥が、うつになってしまった飼い主のため天使に転生して奔走する短編アドベンチャーゲームとなっています。
レトロポップに溢れたデザインとチップチューンのBGMがすごく調和していて、それを見ているだけで「エモ」が心の中に募っていきます。
ゲームプレイとしては小鳥であるビビになって飼い主が少しでも前を向けるようそっと手伝っていくことになります。そこで描かれる、飼い主だったリルカの姿や言葉、そしてリルカの部屋の様子が鬱の表現として非常に解像度が高いのが一番グッときます。私自身の過去の鬱にも当てはまるところが多くあり、思わず唇を嚙むような切なさと後ろ暗い懐かしさを感じました。そこでビビが何を手伝うのかというのが、うつの人に必要な支援のメタファーとして理にかなっていますし、その結果リルカの人生がどう変わるか、それは決して大きな変化ではないんだけど、でもその小さな成功が少しずつ彼女を支えていくだろうという終わり方がとても真摯だなと感じます。「あの頃の自分にこういう存在がいたら」とちょっと思ってしまったのも素直なところです。
本当にメンタルのことを真摯に取り組まれている作品で、終わる時には涙が流れました。優しい気持ちになりたい時、背中を痛くない程度に押してもらいたい時に遊んでほしい作品です。
また、同じ作者様の「少女の亡国」も同時期に遊んだのですが、こちらはまた違う形であの時代の「心」に向き合った作品だと思います。今作にインスパイアされた記事を書いていますのでお読みいただければと思います。
ヘデラの花が枯れるまで
今作、本当の意味で「何もネタバレしてはいけない」作品なんですよね…。でも強烈に印象に残ったので紹介させていただきました。30分ぐらいしか空き時間がないのに「ノベルゲーム!今ノベルゲームがしたい!」と思ってその場でブラウザで始めたという思い出込みで非常に印象に残っています。本当にいい作品です。実況外で遊んだのですが何度も声が出ました。
リンクからぜひトレイラー画像を見ていただいて、そこから醸し出される暖かさと違和感に惹かれたら遊んでほしいです。
おまけ
ショートケーキの埋葬体験版の実況を紹介いたします!本当に鮮烈で、細やかな演出とドラマツルギーに溢れた作品ですので完成版に向けて、遊んで、実況見て備えていただければと思います。
(この先成人向けゲームの紹介があります。)
成人向け同人ゲーム
ヤギ症候群
私が神だと思っているノベルゲーム作家のポロンテスタ様の新作となります。
12年前に起きた誘拐事件の被害者たちを中心に物語は進みます。その誘拐事件によって被害者たちがどのような変化、転落、堕落をしていったのか、それが12年の時間、そして現代に起きる様々なことによりどう回復していくのか、あるいはしないのか、悪化するのか、そして誘拐事件に隠された真相は何なのか。彼らの過去・現在・未来を、様々な視点から語られる物語を通じ少しずつ知っていくことになります。
ポロンテスタさんはとにかくストーリーテリング能力が圧倒的に高い作家です。複雑な構造の作品でもすっと読めるようにまとめられますし、かと言って単純な作品にならず、ものすごく何とも言えない、飲み込めるけど飲み下しきれない感情と、不思議なカタルシスをくれます。
今作を含め性的な作品を多く作られている作家様ですが、私自身は性的うんぬんというより作劇や物語構造の美しさやうまさに感動するタイプなのでそこにいつも感動し高揚させられます。あと絵のデザインに非常に特徴があり「ああ、ポロンテスタ作品だ…」と絵を見るだけで思えるのもすばらしいです。今作も異なる時系列・異なる人物の立場が合い交じりながらも全く混乱することなく物語に没頭できます。
また、今作は若者や青年の会話が中心になっていることもあるのか、非常に短い、端的な表現が使われているように感じました。ただそのセリフや地の文の中に多義的な意味づけが無駄なくされていることが結構あって、字数以上に受け取るものが多く何度も驚かされました。特に日常会話や性的なシーンに急に出てくる知らない単語や名前が、その場では違和感と不安を作りつつ後にしっかりと強烈な意味を持ってくるところは本当に読んでいて高揚したりずしんと来たりしました。全体に言葉選びが相変わらず、いやいつも以上にうますぎて、非常にきつい物語なのにすらすら読めて、それでいてちゃんと琴線に触れる、絶妙な言葉のリズムとレトリックと平易さのバランスになっています。なんなんだほんとこの方…(褒め言葉)
個人的に最序盤の「朝昼は自由に遊んで、夜は自己啓発セミナー」という言葉を見た瞬間の「ああもうダメだここ」って感覚と声に出したくなる不思議なリズム感が大好きです。
登場人物は決して善良ではなく、みんな性的にも人間的にも歪みまくっています。犯罪被害者であるということを考慮してもそれにしても歪みすぎだろ、って感じです。でも、だからこそそれがむしろ人間らしく、感情移入と哀しさがどんどん募っていきます。特にトリ男くん……彼はね………。そんな彼女ら彼らの魂が、最後にどこにたどり着くかも本当によかったです。決して救い過ぎず、でも救わないわけじゃない。許すわけじゃない。でも赦す。その塩梅が抜群で「やっぱりポロンテスタ様すごいな…」と改めて思わされました。短く、エクストリームな作品でありながらも各所にとにかくバランスがよくて、強烈かつ繊細に心を揺さぶってくる素晴らしい作品です。