見出し画像

クズと現役弁護士。小堀さんとこたけ正義感さんに芸人の「希望」を見た【ショートエッセイ】【お笑い芸人】

 ここ2、3日でお笑い芸人さんに関するコンテンツを2つ見ました

 一つ目はガッポリ建設の小堀敏夫さんを描いたドキュメンタリーです。

 「ザ・ノンフィクション」が小堀さんを取材するのは二回目で、実は第一弾はnoteで感想を書いています。所属事務所であったワハハ本舗をクビになるまでの話でした。

 今回もドキュメンタリーのタイトルに「クズ芸人」とあるその通り、いやそれ以上に本当にどうしようもない小堀さんの姿が映されています
 事務所をクビになってもお笑い芸人を続けていた小堀さんが将来が不安だからお金持ちの女性と結婚するために婚活を始めるところからドキュメンタリーは始まります。
 お見合い相手に嘘と虚勢を張り、滞納した婚活会社の月額を払うため後輩や相方からお金を借りようとし、そこで調子に乗って事業を起こす金の支援を求めるものの…と、自分の友人にはしたくないし、友人の友人だったら「その人とは距離を置いた方がいいのでは…?」と言いたくなるような所業を繰り返します。吉岡里帆さんによるものすごく冷めたナレーションで最後に伝えられるオチも「うわ……」となりました。
 少し展開や言葉に大仰なところもあり、「芸人」がテレビカメラに映されている影響もあるように見えます。さすがに番組の面白さ意識してない?というシーンもあります。ただそれはヤラセというより、ドキュメンタリーが必然的に避けられない「カメラの存在による被写体の変化」でしょうし、むしろその現実と虚構が合い混じりクラクラするところも含めてテレビドキュメンタリーとして最高でした。また、なぜか少なくない人が彼に呆れ、怒りつつもどこか絆され結局彼のために動いているのも印象的でした。人間の何とも言えない人間らしさが表れているドキュメンタリーでした。


 もう一つは、現役弁護士芸人であるこたけ正義感さんの1時間漫談である「弁論」です。15日までyoutubeで公開されていて非常に評判がよかったので見ました。

 結論から言うとめちゃくちゃ面白かったです。感服しました。

 弁護士という仕事・立場から生まれるずれた日常の面白さに笑っている楽しんでいるうちに、2024年の大きく動いたこの国のある「正義・不正義」に話がスライドしていきます
 構成が練りに練られていて、「弁護士同士の夫婦はどうやって夫婦喧嘩をするのか」「弁護士であることを知った瞬間警戒しだす市井の人々」などの漫談の中に「正義」の話題をするための伏線が巧みに仕込まれていました。そのうまさゆえに、漫談がエンターテインメントを保ちながら、いかにこの国、この社会で恐ろしいことが起きていて、それを起きないための整備が全く進んでいないことが伝わります。
 その「糾弾」の中に「笑い」が維持され続けている
のもすごかったです。笑いながら同時に「でもこれって笑っていられるようなことなのか…?」と思いつつそれでも笑ってしまいます。しかもその「笑い」によって弁護士としての「矜持」や「思い」が薄まることになっていないのも本当にすごかったです。 個人的には社会派コメディ、特にこのような啓蒙的な笑いというのは現代においてはもう難しいのでは?と思っていたので「本当にすごい人って僕の浅はかな想像力なんて当たり前のように超えていくんだな」と感銘を受けました。


この二人は本当に対照的です。
でも、私はこの二人を見て、

「ああ、芸人って、希望があるな」

って心から思いました。

 こたけ正義感さんの「希望」っぷりはわかりやすいですよね。
 弁護士の専門性を生かしながらお笑いとしても法意識への啓蒙としても非常に高次元でスマートで、まさに現代と未来のためアップデートしアジャストした姿でした。こういう方がお笑い、ひいてはこの社会を少し前へ進めてくれるんじゃないかという輝きを見た思いです。


 一方、小堀さんは正直言って「クズ」という言葉でさえもったいないぐらい、決して肯定されない性格と行動を繰り返しています。アップデートしてるかどうか以前に現在・過去・未来のいつにおいても肯定されるような方ではないですし、世の中を前へ進めることも、何かを啓蒙することもないでしょう。
 でも、このような方が、少なくとも57歳まで、どんな形であれ「芸人」としてやっていけている、生きているということ、それ自体ってすごく「希望」なんじゃないかと改めて思ったんですよね。
 小堀さんのような方はどんどん時代と共に生きづらくなっているんじゃないかと思います。もちろんそれは社会がそれだけ洗練されていることでもしょうし、その洗練に救われている方々がいっぱいるのもあるでしょうが、でもそのような存在が「芸人」として生きていけた。その「芸人」のありようってすごく大切なものなんじゃないかと思うんです。今回のザ・ノンフィクションの中でも「普通に働いてはいけないだろうからお笑いで頑張れ」という趣旨のことを小堀さんは言われています。

 「お笑い」「芸人」の世界なら何とかやっていける。
 芸人の世界にはそのような「懐」があるんだと思います。

 その「懐」って、今私たちに必要なものだと思います。それがあるってことは「希望」なんだと思うんですよね。
 どんどん芸が洗練され知的になっていく「お笑い」の世界からこの「懐」がなくならないでほしいなと外側から勝手に思っています。正直こたけ正義感さん、あるいは最近ですと令和ロマンさんのように洗練されて知的で、勤勉にお笑いを磨いている方の芸の方が好きなんですけど…。

 最後に。
 私がいる個人Vtuberの世界も、現状ではこの「懐」がある世界だと思います。本当に色々なバックボーンやありようを持つ方が「Vtuber」という言葉の元に同じ場所で活動しています。
 その光景が私は大好きです。
 このまま色々なバックボーンのある人にチャンスや居場所がある場所であってほしいと心から思っています。ただ少しずつ洗練が進んでいるというのは芸人の世界と相似形ですが…。
 手前味噌ですがその件についてエッセイを書いたこともあるのでよければお読みになってください。


いいなと思ったら応援しよう!