全知②
あたしは全知全能…ではないけど、全知。世の中のこと、全部知ってる。
今立っているここから、全部が見渡せる。全部。全部。5分後のことから、1時間後のこと、一週間後のこと、一年後のこと、私が死んだ後のこと、未来のこと。そしてすべてが終わった後のこと、この地球が終わった後のこと、宇宙の未来、宇宙の未来の、そのまた未来。途方もないくらい先のこと。
今立っているここから、全部が広がっていく。「もしも」を考えれば、その「もしも」の先も、全部わかる。全部の可能性は、全部あたしの頭の中にある。分岐、選択、判断。全部持ってる。一本の幹から、無数に広がる枝。無数の枝から、さらに無数に広がる枝。そんな世界樹すら、あたしの目にはちっぽけにみえる。
ちっぽけな世界。ねえ、あなたは、例えばだけど、ほこりひとつを大事に思えるかしら?そうよね、気にも留めないわよね。そんな感覚よ。全部が見えるとね、人ひとりが、建物一つが、国一つが、星一つが、銀河一つが、宇宙一つが、世界一つが、ほこりひとつと同じになってしまうの。あなたは、ほこりひとつを構成する原子よりも、ちいさい。ちっぽけな存在。
無限を知るとね、無限の恐怖と、無限の不安に苦しむのよ。暗闇が怖いのは、一歩先の脅威を、直前で予測できるから。予測が恐怖の根源。無限を知るとね、そんな暗闇を、無限に歩くことになるの。そして、一歩先がどんな風になってるか知って、一安心する。するとまた一歩先が不安になる。また一歩、また一歩。ずっと暗い。
後ろを振り返れば、全部が遠いものになる。全部がちっぽけになる。一歩進めば、一歩前は無限の時を挟んだ後ろにある。
あなたたちは、あたしの言葉は間近に感じる。あたしからは、あなたたちは無限に離れているのに。
あたしからは、あなたたちに近づくことはできない。だから、お願い、あたしの言葉を聞いていて頂戴。近くにいて、そして、可能ならばあたしに触れていて。あなたたちの返答は、とっくに分かってるけど。