大輔とブイモンにとってのキメラモン戦とはどのような戦いであったか?
周知事項の固定記事で昨日お知らせしましたが、旧ブログ「明日の伝説」より過去の記事を現在少しずつnoteに移転作業中です。
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ということで、本題に入らせていただきます。
今回は『デジモンアドベンチャー02』の実質のクライマックスというかピークとさえ言える前半の総決算である20話と21話、カイザー基地でのキメラモン戦が大輔とブイモンにとってどのような戦いであったか?という考察です。
以前から何度かキメラモン戦については論じてきましたが、改めて最近片山福十郎をはじめとする新02キャストの皆様が語る「02とは何か?」を舞台挨拶で語っているのを見て、とても大事な点を見落としていることに今更ながら気づきました。
そしてそれが同時に無印との最大の違いであることに気付かされましたし、無印との比較を含めてもこのキメラモン戦はいい意味で浮いているというか、ある意味ではベリアルヴァンデモン戦以上に「02」を象徴する決戦なのです。
とても込み入っているお話になるので箇条書きにしますが、私自身も誤認があったことをこの場を借りてお詫びしつつ、なるべく客観的に事実に基づいた話をしていくよう心がけますので、よろしくお願いいたします。
そもそも「02」の戦いは単純に敵デジモンを倒して終わる話ではない
まず今回のキメラモン戦は単純にこの1シーンだけを切り取って論じてもあまり意味はなく、そもそも「02」の戦いがどのようなものであるか?という文脈を理解した上で論じられなければなりません。
その大きなヒントになったのが「ビギニング」の舞台挨拶で大輔役の片山福十郎が語っていた「02は闇と向き合う物語。最終的にはハッピーエンドで明るいが、道中は暗い場面がとても多い」からの一連の発言です。
無印と02は歴代のシリーズでも「光と闇」の向き合い方について格闘したシリーズですが、その成否は別として「02」は闇を「排除する」のではなく「向き合う」物語として描かれていると片山さんは論じています。
最終的に「元闇を本宮が照らす」とオチをつけて「そんなダジャレ誰も求めてない」なんて突っ込まれてましたが、一見バカっぽいようでいて実は「02」という作品の本質を深く鋭く突いていて、さすが大輔役の方は違うなと思いました。
そうなんです、「02」と「無印」の大きな違いは単純に敵デジモンを倒して万々歳という安易な勧善懲悪ではなく、戦いの切った張ったを安直に論じても本質は読み解けず、この本質を理解しなければキメラモン戦も読み解けません。
無印は関弘美の意向が歴代でも強く働いたシリーズであり、本来ならば自由だったはずのデジモンの進化の可能性を無理やり一本化した上、ウィルス種=闇=悪というおぞましい価値観を形成して敵デジモンを強引に排除してきました。
中でも高石タケルは13話のデビモンの件がずっとトラウマになっていて、ずっと闇というものを悪として忌避し憎悪は心の中で増し続けるばかりであり、それは「02」に入っても大きく変わることはありません。
しかし、争い合うだけでは誰も何も得られず根本的な解決にはならず、それどころか「02」はほとんどの場合において無印組のそうした勧善懲悪と排他的差別主義を履き違えた態度と行動の結果もたらされた悲劇の産物です。
デジモンカイザーにしたってゲーム「アノードテイマー」から連なるWSのミレニアモンシリーズをやればわかりますが、一乗寺賢に暗黒の種を植えつけたミレニアモンからすれば無印組なんて思いっきり目の敵でしょう。
だから太一のアグモンを狙ってイービルスパイラルを使って強制的に暗黒進化させる訳ですし、それに対して太一たちは憎悪を燃やし続ける訳ですが、もし高石タケルが主人公であったならこの時点で詰んでしまいます。
何故ならば「一乗寺賢をデジモンカイザーたらしめているものは何か?」をもう一歩踏み込んで解決しようという姿勢に欠けているからであり、それが同時に後述する大輔とブイモンとの決定的な差でもありました。
タケルは確かに相手を客観視する洞察力はあったとしてもその内面を理解はできません、彼の心の針は以前に考察した通りデビモン戦で止まってしまっているからで、その鬱積が溜まった結果19話の有名な暗黒進化に繋がったのです。
無印信者はそこを「タケル最強」だの「腹黒」だのとやんや言ってますが、私からすればダークトライアド一歩手前の危険な状態にしか見えず、マジで親御さんはどういう教育をしてきたのか?とかえって憐れに思えました。
「一乗寺!お前との勝負はまた今度だ!」と言っていますが、このセリフも含めて19話は「主人公・高石タケル」の残滓として表現されたと同時に、ある意味では「太一を継承する者」にして「無印組の象徴」としての集約だったのでしょう。
つまり無印組はどう足掻いても「敵を排除する」のには向いていたとしても「敵であった者と向き合い受け入れる」のは向いていない訳であり、だから「02」の物語は大輔たち02組でなければ導けないようにできています。
単純に敵デジモンを排除して勝利して万々歳という無印のような安直な排他的差別主義とはまるで違う物語であることを前提に置いた上で見なければ、キメラモンとの戦いが何であったかなどわかるはずがありません。
02のキメラモンは究極体設定、もしくは「究極体相当の完全体」設定
まずこの大前提を踏まえて次に見ていくのはキメラモンについてですが、このキメラモン戦についてはずっと風評被害がついて回っており、無印信者を始め視聴者のほとんどは「ロイヤルナイツの面汚し」「完全体ごときに苦戦」といった評価でした。
しかし、これも実は大きな誤解であり、アニメ「02」やその大元になった秋山遼シリーズにおいてはキメラモンは究極体という設定であり、実際に当時の雑誌には究極体と掲載されていました。
また、劇中での描写を見てもキメラモンの破壊描写や規模感は明らかに完全体を大きく超えた究極体相当であり、無印のヴェノムヴァンデモン戦やダークマスターズ戦にも引けを取らないレベルの戦いです。
特に街をことごとくキメラモンが破壊・蹂躙していき無辜のデジモン達が逃げ惑うシーンはそれこそ無印の48話、ムゲンドラモンが街を爆破するシーンを彷彿させるレベルでリアルタイムで見た時は衝撃でした。
こちらの強さ議論ではマグナモンがB+(完全体上位)でキメラモンA-(究極体下位)とされていますが、よくよく見てみるとキメラモンは暗黒の力によるバフがかかっているので実際のところはダークマスターズのムゲンドラモンと同レベルのA(究極体下位)でありましょう。
そしてまた、マグナモンもあくまで体力を随分消耗し切っていて力があまり残されていなかったから苦戦しただけであって、これが最初から体力満タンかつオリジナルの奇跡のデジメンタルであったら「Vテイマー」のパラレルモンの時のように余裕で瞬殺できていたと思います。
だから私の判断ではマグナモンは悪くてもA-、適切に評価してAクラスの強さはあったと見ています、ただあの時はいろんな悪条件が重なって全体的に劣勢を強いられていた中での最後の一手だったからあのような形になっただけなのではないでしょうか。
しかもキメラモンはずっとエネルギーを切らさずに戦い続けることができていますが、マグナモンは体力の限界というものがある訳で、最初に放ったエクストリーム・ジハードは光線程度のしょっぱい威力しか放つことができませんでした。
そしてキメラモンが究極体であると考えられるもう1つの理由は創造主であるデジモンカイザー≒一乗寺賢の言うことを聞かなくなっており、コントロールを失って暴走していました、まるで「ドラゴンボール」の人造人間17号・18号のように。
これが何を意味するかというと、カイザーは11話のライドラモン登場時には既にイービルスパイラルという完全体デジモンを操れるイービルリングの上位互換となる洗脳器具を持っていた訳であり、完全体までなら操れていたのです。
そのカイザーのコントロールが効かなかったということはもはやキメラモンは完全体を超越する存在であり、それは即ちキメラモンが究極体もしくは究極体相当の完全体であることを明示していたといえます。
単なる設定としてだけではなく描写としても明らかに完全体を超越した強さであることが示されており、だから一歩でも判断を間違えていたら大輔たち02組は間違いないく全滅しバッドエンドを迎えていたでしょう。
あのまま放置していたらデジタルワールドが全滅するか、もしくはムゲンドラモンと暗黒ジョグレスによりミレニアモンへ進化していた可能性がある訳であって、そのifを考えると身の毛もよだつ思いです。
だから「ロイヤルナイツの面汚し」「完全体ごときに苦戦」といった評価は上記の「02」が抱えている本質も含めて全くもってこの戦いが何であるかがきちんと見えていない証拠に他なりません。
「苦戦していたからカッコ悪い」というのであれば、無印40話で体力満タンで究極体が二体もいながら無策で突っ込んでピエモンに返り討ちに遭って無様に「惨敗」したウォーグレイモンとメタルガルルモンの方がよほどカッコ悪いです。
マグナモンは「苦戦」はしても「敗北」はしておらずきっちり「勝利」している訳ですから、そういう意味でも私は「途中に苦難があっても最終的には勝つ」大輔とブイモンらしくていいと思いますよ。
大輔とブイモンにとってのキメラモン戦は「救済」と同時に「最後の手段」である
上記を踏まえると、大輔とブイモンにとってのキメラモン戦は「救済」と同時に「最後の手段」であったことが前半の総決算として示されたという意味において、特異的な戦いであったのではないでしょうか。
なにせ進化の光を象徴する八神ヒカリをして「特別な進化」と言わしめるほどですし、上述の通り太一たちが4クール目に入ってようやく辿り着いたステージの戦いの「その先」を大輔とブイモンはここで経験したのです。
まず「救済」に関してはいうまでもなく「デジタルワールドの救済」と「デジモンカイザー≒一乗寺賢の救済」という二重の救済であり、特に大輔とブイモンにとっては後者の意味合いが大きく影響しています。
8話で大輔はデジモンカイザーの正体が天才少年・一乗寺賢であることを知ってショックを受けていましたが、それを受けて10〜11話の段階ですでにカイザーを「賢」と呼んでいました。
このことから大輔はタケルなんぞとは違って賢を「倒すべき敵」ではなく「救うべき哀れな少年」と捉えており、20話の時点で最初は敵だと思ったワームモンを信じて賭けてみたのもその下地があればこそでしょう。
正に「友情」そのものであり、ヤマトから継承した紋章を何一つ気負いなくサラッと自然に実践していて、だからこそ優しさの紋章を奇跡のデジメンタルに変化させてマグナモンに進化させることができたといえます。
そしてそんな大輔とマグナモンの姿に一縷の望みを託したワームモンは我が身を犠牲にしてマグナモンに己の全エネルギーを与える形でその恩義に報いた訳であり、これが後半のジョグレス進化にも繋がっているのです。
この時点で既にカイザーを除いた三者の間で奇妙な友情というか絆のようなものが形成されていて、キメラモンを倒せばそれがすなわちデジモンカイザー≒一乗寺賢を暗黒の支配から解放すると信じたのでしょう。
だからキメラモンを倒した時に他の京・伊織・タケル・ヒカリが後ろで見ているだけの野次馬連中と化し、キメラモンを倒したことで「やったー!」と言って能天気に浮かれている中、大輔だけはその先を行っていました。
そう、崩壊した賢の家庭と涙を流す両親のことを思って「お前、お家に帰れよ」って言うんです、これが正に片山さんの言う「元闇を本宮が照らす」であって、彼だけはもう既に自分なりの「選ばれし子供としての使命」を見つけたのかもしれません。
この経験がのちに「ビギニング」の「俺はルイを信じてる」にも繋がっていて、たとえ闇を抱えた相手だろうと奥底にまだ救いの余地が残っているのであれば倒さずに救済することができる彼ならではの「友情」なのです。
そして「最後の手段」ですが、彼は11話でライドラモンを起動させた時、太一先輩の大事なパートナーデジモンを殺す(倒す)覚悟で挑むという苛烈な試練を同時に課されてもいました。
最終的に倒さずに済んだもののあくまで結果論、下手すればアグモンはあそこで死んでいた可能性もある訳で、大輔はこの経験からいずれ敵デジモンを本気で倒す以外に解決の方法がない戦いが来ることも本能的に予感していたのでしょう。
その「敵デジモンを本気で倒す(殺す)以外に解決の方法がない戦い」の第一号が正にこのキメラモン戦であって、だから大輔は20話でそれまでメンバーの自由にやらせていた中で、撤退するかどうかの瀬戸際でこう言うのです。
このセリフが意味するものはもちろん「デジタルワールドの救済」であり、これこそが正に太一からゴーグル共々継承した「勇気」の意味なのかもしれません。
ただし太一と大きく違うのは太一が「悪即斬」以外の方法論を持っていないのに対して、大輔にとってのそれはあくまでも「最後の手段」であるというのが大きな違いです。
この差はのちの43話でも大きく出ていて、太一は「デジモンに似たダークタワーを変形させただけのものを倒すことしか大輔たちはしてこなかった」と言い、アグモンも同様のことを指摘していました。
しかし、これこそが実は誤認であって、大輔とブイモンにとってはダークタワーから作られていようが何だろうが同じ「デジモン」であって、そこに大きな差異はないのでしょう。
キメラモン殺しを担った大輔とブイモンはその後の「Vテイマー」の時にパラレルモンを倒すのを全く躊躇っていなかったし、京相手にも「倒さずに助ける方法があるのか?」ということも言っています。
そういう意味でこのキメラモン戦はそれ自体が二重の救済であったと同時に、大輔とブイモンのキャラのアイデンティティーというか方向性ががっちり固まった戦いだったのではないでしょうか。
まとめ
改めて多角的にキメラモン戦を読み解いてみましたが、こう考えるとあの戦いっていろんな意味での「02らしさ」が凝縮された象徴的な戦いだった訳ですね。
そう考えると、こんな過酷な戦いを4クール目ならともかく2クール目で経験させるって「02」がいかに無茶苦茶な難易度かがわかろうってなもんです。
無印でいうと20話なんてまだ太一たちがようやく完全体進化できるようになった頃ですし、その後の「テイマーズ」「フロンティア」「セイバーズ」でもそうであり、究極体相当とは戦っていません。
その事実もわからずにマグナモンがキメラモン相手に苦戦したという一点だけを鬼の首を取ったように騒ぎ立てて茶化す輩は根本的に読解力を磨き直してきた方がいいということですね。
そりゃあこんな戦いを誰よりも一足早く経験し「Vテイマー」で最強最高のテイマーであるタイチとゼロマルに出会ったら無敵の鋼メンタルにもなりますし、暗黒進化しないのも頷けます。
他の主人公で大輔と同等のステージに立って戦えそうな主人公は他に見当たりません、強いて言えば同じ純正古代種のタイチとゼロマルか、その後継者であるリナとブイブイくらいでしょう。
あとはわずかに物理攻撃でロイヤルナイツと渡り合えるマサル兄貴か……でもマサル兄貴はこの時アーマー体レベルでも苦戦していたので難しいかもしれませんね。
少なくとも単なる描写や切った張っただけではこの戦いの意味はわからないということがご理解いただけたのではないでしょうか。