スーパーロボット大戦30周年企画・ロボアニメレビュー1作目『マジンガーZ』(1972)
さて、スーパー戦隊シリーズの評価をひとまず書き終えたので、次は何にしようか迷っていたのですが、そこでふと思い立って「そうだ!今年はスパロボ30周年記念じゃん!」となりました(笑)
私は子供の頃、スーパー戦隊シリーズやジャンプ漫画と同じくらいロボットアニメにも囲まれて育った世代だったので、そういやロボアニメというジャンルのレビューはまだ網羅していなかったと思いまして。
とはいっても、ロボットアニメに関しては劇的な出会いが1990年の「勇者エクスカイザー」と1994年の「機動武闘伝Gガンダム」位でして、「マジンガー」「ゲッター」はそれこそスパロボ経由で知りました。
しかもそのスパロボシリーズも最初に買ったのはゲームボーイアドバンスの「A」で、その後「IMPACT」「R」「α」「α外伝」「OG」「D」「OG2」「J」「第2次α」「第3次α」「W」「OGS」という変な順です。
いわゆるファミコン・スーファミ時代の「ウィンキースパロボ」はそれらをやり通した後に中古で買ってクリアしており、そしてその後も各シリーズを繰り返しながらという感じできています。
ただ、全シリーズを網羅しているスパロボマニアというわけでもないので、まああくまでもにわかファンではあるのですが、それでも代表的なロボアニメはかなり見るようになりました。
そのため、先に原体験で見ていた勇者シリーズとアナザーガンダム以降のガンダムシリーズ、それから「エヴァ」以降はどうしてもスパロボで作られたイメージがついていたのです。
なるべくそういう偏見をなくした状態で改めて見ようと大人になってレンタルで見たのがこの「マジンガーZ」であり、逆に言えばスパロボシリーズがなければ70・80年代のロボアニメは見なかったでしょう。
そんなロボアニメの元祖である本作ですが、今見るとどうしても耐用年数が過ぎていて「古臭いなあ」とは感じつつも、やはりロボアニメの偉大なる原点として実に多くのことをやっていたのだなあと思います。
それどころか、「ゲッターロボ」以降で発展していくことにあるロボアニメのパワーアップや作劇のパターンなども実験的にほとんどをやっていて、ロボアニメのお約束を知りたいなら正直この1作で十分です。
古典的名作として既に評価が固まっていること、そして最近では「真マジンガー」「マジンガーINFINITY」の方がすっかり目立ってしまっていますが、それもこの大元の東映版がなければ生まれていません。
そんな視点から改めて見直す「マジンガーZ」がどのような作品なのか、改めてその魅力を語っていきましょう。
(1)スパロボだと歴戦の勇士だが、元々はど素人!?
まず、私のようなスパロボから本作を知った人が必ず抱くであろう第一印象は「兜甲児たちど素人じゃん!」であり、これはスパロボとのギャップがかなり大きいのではないでしょうか。
スパロボシリーズだと、どうしても主人公や後輩として入ってくるロボアニメ勢に対して、歴戦の勇士として振舞うことも多いのですが、原作だと兜甲児をはじめマジンガーチームはど素人の寄せ集めです。
第一話、第二話の段階なんてホバーパイルダーの操作にも苦労し、パイルダーオンするだけで頭をキャノピーにぶつける、しかも操作方法がわからないからとにかくヨチヨチ歩きです。
それでありながら、敵である機械獣は屈指の強さを誇り、そんな寄せ集めのチームでどうやって地球の平和を守ればいいのだという風な感じで話が進んでいきます。
スパロボシリーズでも原作の兜甲児のど素人ぶりが再現されたのはそれこそ「スパロボ64」位しかなく、後のシリーズではなんだかんだ戦闘経験値がある歴戦の勇士扱いですから、今見るとかえって新鮮でしょう。
ただ、逆にいえば、だからこそロボットのパワーアップやチームの連携が取れてくると共にどんどんパイロットとして一流になっていく兜甲児らマジンガーチームの成長の過程が見えやすいのです。
最初から出来上がっているわけではないからこそ、パートナーの弓さやかやコメディリリーフのボスたちと他愛ない世間話や喧嘩を繰り返しつつ結束力を強めていく様に説得力が出ます。
そして、それがかっこいいと思えるのは敵であるドクターヘル、そしてあしゅら男爵らが率いる機械獣軍団が容赦無い強敵だからであり、しかもそのドクターヘルは兜十蔵博士の因縁の相手でした。
本作は元々はギリシャ神話がモチーフであり、マジンガーZのZは「ゼウス」を意味し、だからこそその強大な力ゆえに「神にも悪魔にもなれる」という言葉が重いのです。
しかも後続の「グレートマジンガー」では更に父親の兜剣造博士もまた出てきますから、ある意味「ガンダムAGE」「ニンニンジャー」がやっている「親子三世代」の物語となっています。
なおかつ原点となる本作の方が圧倒的に作品としての完成度は高いのですが、兜甲児もまたとんでもなく大変な運命の家系に生まれたものだと思うのです。
べらんめえ口調と喧嘩っ早い性格からどうしてもそういうイメージは持たれませんが、兜家は実家がかなり裕福で、兜兄弟は家政婦も雇えるほどのお金持ちとなっています。
だから、マジンガーZに乗って戦うのは決して単なる慈善事業やお遊びではなく、科学者の家系に生まれた宿命にしてノブレスオブリージュでもあるのです。
ロボアニメの偉大なる原点は実は金持ちの坊ちゃんという設定であり、この設定は後の「機動戦士ガンダム」「新世紀エヴァンゲリオン」にも受け継がれていきます。
(2)1つ1つの武器が必殺技であり、決してロケットパンチとブレストファイヤーだけではない
さて、次にロボアクションを見ていきますが、原作を見て改めて驚いたのはマジンガーZの武器は1つ1つが敵を仕留める強力な必殺技であるということです。
これはスパロボシリーズで出来上がったイメージだとわかりにくいでしょうが、サザンクロスナイフやルストハリケーンですらもそれ1つを放つだけで簡単に敵を倒せてしまいます。
そりゃあ主題歌で「とばせ鉄拳ロケットパンチ」「今だ出すんだブレストファイヤー」とあり、さらにはスパロボシリーズでもそれらが代表武器としてクローズアップされていますからね。
ただし、原作だとその2つ以外の武器でトドメを刺すことが多かったり、あるいは複数の武器を組み合わせて機械獣を倒すことも多いのです。
後発の「ゲッターロボ」「グレートマジンガー」もそうなんですが、この時代のロボアニメはまだ手探りや試行錯誤が多いため、どれがフィニッシュとは決められていません。
大々的に「この技が出たらもうおしまい」というようなのはそれこそ「ゲッターロボG」の中盤で登場するシャインスパーク辺りからじゃないでしょうか。
それまでは固定の必殺武器はなく、どの武器も1つ1つが敵に命中するだけでバラバラに粉砕しうる強力な兵器、歩く武器庫という設定なのです。
そのため、マジンガーZの究極進化であるマジンガーZEROやINFINITYのコンセプトは大元のマジンガーZのコンセプトを正しく受け継いでいるといえます。
それからこれは私がスパロボシリーズで抱いていた誤解なんですが、原作のマジンガーZってものすごく運動性が素早く敵の攻撃をヒュンヒュン回避するんですよね。
これもやはりスパロボで「スーパー系=装甲は分厚いが鈍重」「リアル系=装甲は薄いが軽快」というイメージが出来ていますが、原作は全然そんなことありません。
むしろ後半になればなるほど敵もパワーアップしていくので、一撃でも食らったらマジンガーが危ないということが結構あるのです。
だからこそいい意味で毎回こちらもハラハラドキドキして見られるし、作画はこの時代らしく拙くても動くとすごくかっこよく映えます。
(3)最大の転換点はジェットスクランダー
そんなマジンガーZですが、何と言っても外せないのはやはりシリーズ中盤で出てくるジェットスクランダーであり、これはもうロボアニメの歴史を大きく変えた瞬間です。
スパロボでも特に初期のαシリーズなどでエピソードとして原作再現されていますが、マジンガーZガ空を飛べるようになった感動は原体験世代の方々にとって大きかったことでしょう。
しかも、私が見直して驚いたのは唐突に出てくるのではなく、数話に渡って「マジンガーZは空中戦が苦手」という弱点をしっかり浮き彫りにしているところです。
なんとか空中戦の対策はするも結局その場しのぎに終始してしまい、そもそも空を飛べるようにならないと根本的な解決にはならないことが示されます。
しかもマジンガーZが東京方面に迎え撃っている最中に今度は基地の方が攻め込まれてボロボロにされてしまうという悲劇まであるのです。
光子力研究所もバリアがあるとはいえ、昭和時代の秘密基地らしくかなりセキュリティがザルなので、結構隙だらけでやられることも多いのですよね。
そうしたことにならないようジェットスクランダーを開発し、そして基地が襲われるリスクと引き換えに登場するという設定がロマンに溢れています。
しかも、このジェットスクランダーのためだけに挿入歌まで特別に作ってもらえたのですから、どれだけ制作側にとっても特別だったかわかろうというものです。
このジェットスクランダードッキングはOVA「マジンカイザー」「真マジンガー」「マジンガーINFINITY」でも形を変えて受け継がれています。
やはりスクランダークロスにこそマジンガーZのカタルシスがあるということであり、こういう部分をとても大事にしてくれるのはいいですね。
まあZEROのあの空集合みたいな丸型のスクランダーは正直ダサいですけどね…あれどうにかならなかったのかなあ?
とにかく、全92話もある中でジェットスクランダー関連で盛り上がる中盤は本作のベストバウトにしてロボアニメの歴史的な瞬間でしょう。
(4)最後の結末は今でも大きなトラウマ
そんな「マジンガーZ」ですが、よくも悪くも大きなトラウマになっているのが、あの前代未聞の最終回であり、これに関しては正直複雑です。
そう、スパロボシリーズをプレイした方はご存知の通り、最終回でマジンガーZは新勢力のミケーネにボロボロにやられてしまいます。
後年のジャンプ漫画「ドラゴンボール」のヤムチャやベジータのかませ犬化なんて可愛く思えるレベルで倒されてしまうのです。
最終的にどうなったかというと、後続のグレートマジンガーの引き立て役にされてしまい、放送当時はかなり非難轟々だったのだとか。
しかも永井豪先生自体も「グレートマジンガー」の企画自体が寝耳に水だったらしく、当初はなるべく「マジンガーZ」を長く続けたかったそうです。
ちなみにヒーロー番組の最終回で主人公がボロボロにやられるというと「ウルトラマン」の最終回がそうですが、あれにはきちんとしたテーマがありました。
ゼットンにウルトラマンが負けてしまうものの、最終的には科特隊=人類がウルトラマンから自立して自分たちで地球の平和を守れるようになるのです。
そう、「いつまでもウルトラマンに頼っていてはいけない」というテーマは初期から打ち出されており、話が進むごとに科特隊はウルトラマンを必要としなくなります。
しかし本作「マジンガーZ」はそのようなテーマを描いた話ではなく、マジンガーZが永遠不滅でヒーローとしていてくれるからこそいいのです。
それを意味もなくぽっと出のグレートマジンガーなんてものに繋げるための引き立て役扱いされてはたまったものではないでしょう。
まあ流石に作り手もそれは反省したのか「マジンガーZ対暗黒大将軍」では正式な形でのマジンガーZとグレートマジンガーの交代式を描いているのですけどね。
そしてそのしっぺ返しは「グレートマジンガー」の最終回に跳ね返ってくることになるのですが、それはまた「グレートマジンガー」の時に語ります。
(5)「マジンガーZ」の好きな回TOP5
それでは最後にマジンガーZの好きな回TOP5を選出いたします。
第5位…29話「大逆転 マジンパワー!!」
第4位…44話「大進撃!!新海底要塞ブード」
第3位…72話「必殺!!大車輪ロケットパンチ」
第2位…54話「炸裂!!強力ロケットパンチ!!」
第1位…34話「紅い稲妻 空とぶマジンガー」
まず5位はスパロボでもおなじみマジンパワーというオーバーブースト機構の初披露回。いわゆる「V-MAX」などの一時的な限界を超えたパワーアップをすでにここでやっています。
次に4位は戦艦ブードの初登場回ですが、ロッドR2との一戦の方がとても見ごたえがあり、マジンガーZといえば私はこのエピソードが大好きです。
3位はスパロボでも度々出てくる大車輪ロケットパンチですが、技の原理がしっかり説明されていてロジカルにできた話にまとまっています。
2位は強化型ロケットパンチですが、どうして一発しか打つことができないのかも含めて、乾坤一擲の賭けのように描かれていたことに衝撃を受けました。
そして堂々の1位は何と言っても歴史的な瞬間であるジェットスクランダーとのドッキング、作品としても大きく跳ねた傑作エピソードです。
本作はこの5本以外にも盛り上がるエピソードが必ずあるので他にも紹介したいのですが、私の中で代表作を選べとなるとこの5本になります。
(6)まとめ
偉大なるロボアニメの原点であり、ロボアニメのフォーマットやお約束の8割を固めた「マジンガーZ」。
現在では後発作品やスパロボシリーズでのイメージが強すぎるせいか、原作を見直すとギャップが多々あることに驚かされます。
しかし、今見直しても何だかんだロボットプロレスが純粋に面白く、やはり古典的名作だと言わしめるほどの説得力があるのです。
作画の拙さなどは置いておくとしても、まずスーパーロボットとは何かを知る上での必修科目として見ておくべきでしょう。
総合評価はA(名作)、本作なくして今日ある「ロボットアニメ」というジャンルは成り立たないと断言します。
ストーリー:A(名作)100点満点中80点
キャラクター:S(傑作)100点満点中95点
ロボアクション:S(傑作)100点満点中100点
作画:D(凡作)100点満点中50点
演出:A(名作)100点満点中85点
音楽:S(傑作)100点満点中95点
総合評価:A(名作)100点満点中84点
評価基準=SS(殿堂入り)、S(傑作)、A(名作)、B(良作)、C(佳作)、D(凡作)、E(不作)、F(駄作)、X(判定不能)