償い
「ふぐちり」という看板を見ると涙が出そうになる。
私の結婚生活は、正直言って子育てと子供が離れたあとの記憶しかない。
結婚当初、元夫のお給料は少なかった。
数字にしても良いのだが物価が現在とは異なるので省略する。
当然夫自身のお小遣いも少くなってしまう。
当時はタバコを吸っていた元夫からすればギリギリのお小遣いだったと思う。
私が作る料理は必然的に節約料理になり、
美味しいものを食べに行けるときはボーナスが入ったときや、会社から特別にお金を貰えるときだけだった。
今までにも書いてきたように、私の実家の母親は料理が苦手だった。
私は料理教室に通いそれなりのものを作れるようにはなっていたが、そこにはお金が必要だった。
子供がもう2歳か3歳の頃だっただろうか?
その日は休日で私は子供の世話をしていた。
そのとき、
「今日はご飯作らんでええで」と夫がスーパーの買い物袋を見せながら帰ってきた。
「ふぐちりにしよう!」と自ら野菜などを切って用意してくれたお鍋だった。
そもそも私はふぐちりを食べたことがなかった。
母親も父親もあまり豪華な食べ物を好まなかったからかもしれない。
そして夫が取り出したのは特価980円也の、
小さなふぐの寄せ集めのようなものが入ったパックひとつだけだった。
白菜とお豆腐とえのき茸、そして小さなふぐのパックだけのお鍋だった。
「ひゅうがちゃん、これ食いよ(食べなよ)」と私にばかりふぐのかけらをお皿にいれて、
本人は子供に身を食べさせながら骨だけをしゃぶっていた。
あの頃は本当にお金がなかった。
切なくなるほどお金がなかった。
子供も私も病気になってばかりで、申し訳ないくらいに食費に廻せるお金が少なかった。
そんな私たちにせめてふぐを、と買ってきてくれた元夫の思いやりを私は忘れられない。
980円は当時の夫にしては血の出るような金額だった。
もしも、
夫が出世もせず昇給もしなかったら、
私たちは離婚しなくて済んだのかもしれない。
いや、だが、
やはり離婚の理由は浮気やモラハラだけではなく、いろいろなことが複雑に絡みあっていたから結局は離婚していたと思う。
それでも、
980円のふぐのパックのお鍋を囲みながら食べたあの風景は、
今でも私の心を痛めつける。
せめてもの償いは、
元夫が良い方と再婚して幸せになっていて欲しいと願うだけだ。
あれから驚くほどの年月が経ったが、
あの光景だけは、
目に焼き付いて離れないのです。
今日も読んでくれてありがとう✨✨✨