エリオットスミスのIIコードについて

今年はエリオットスミスのセルフタイトルアルバムの25周年記念盤が出たのもあり、何かとエリオットスミスの音楽に触れることが個人的に多くなっています。

人によっては声だったり、ギターだったり、歌詞だったり色んな所に魅力を感じているかと思うのですが、私が一番興味深いのは作曲の才能です。

そこで作曲法を一度分析的に見てみようと思い、まずはIIコードの使い方についてまとめてみました。

どちらかと言えば初歩的な内容なので、回りくどく感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、実例は面白い部分もあるかと思います。

基礎知識

メジャースケール上の3和音のダイアトニックコードは

I・IIm・IIIm・IV・V・VIm・VIIb5

(Cメジャーキーの場合: C・Dm・Em・F・G・Am・Bmb5) 

ですが、IIはIImの短3度が半音上がって長3度になったもの。

要はCメジャーキーのDのことです。

I(トニック)に向かう力が最も強いコードはV(ドミナント)ですが、そのVのV(ドミナントのドミナント)ということです。

なのでIIの後はVに向かうのが自然な進行です。

クラシックではドイツ語でドッペルドミナントと言います(個人的にはこの言い方がなじみ深い)。

超・基礎的でめんどくさい話はレッスン系YouTuberにでも任せて()実例を。

II(-V)の典型例

一般的なドッペルドミナント感を味わうなら、

The Velvet Underground ”Sunday Morning”がわかりやすいと思います。

(ベタだからダメという話ではなく、普通にこれも良い曲だから取り上げています。)

ヴァース(0:09-)はG-C (I-IV) x2 からG-D/F#-Em (I-V/VII-VIm)と降りていって、

by my side(0:24-)のところでA-D (II-V)が使われています。

(ギターは<少し高めの>半音下げチューニング、実音はF#メジャーキー、あるいはスタンダードチューニングでピッチ自体が基準よりかなり低め)

ちなみにコーラスの後半でも同様の進行が見られます。

臨時記号が付く分、IIm-Vのベタさとは少し違いますが、王道感・安心感のある進行です。

では、エリオットスミスの場合はどうなっているかを具体例を4曲挙げて見ていきたいと思います。

注:どの曲も一音下げチューニングで、コードはギターのフォームで記載しました。鍵盤等で弾く場合、実音は一音下です。

Plainclothes Man (II-IV)

この曲のコーラス(1:58-)を見ていくと、

まずはC-G-F-C (I-V-IV-I)と逆進行で、すでにロックっぽさがあります。

そして、それに続くのが、show my continual decline (2:04-)の部分のG-D-F(V-II-IV)です。

II-IVは半音の動きが違う声部に現れてしまい(対斜)かなり歪な響きです。

この響きをエリオットスミスは好んでいるように思います。

ビートルズのEight Days a Week等で使われているのでロックでは決して珍しくはないですが、コーラスがなかなか出てこない分この進行の爆発力が際立っていると思います。

St. Ides Heaven (II7-IV)

こちらもII(7)-IVなのですが、使い方が上記の例とは違います。

この曲のキーはGメジャーでありながら、イントロはEm(VIm)から始まり並行短調の色が濃く、ヴァースもコーラスもサブドミナントのC(IV)から始まり、曲の終わりもCと、調性がやや曖昧な印象を受けます。

で、イントロ→ヴァース(0:06-)ヴァース→コーラス(0:43-)のセクションの切り替え部分で使われるのがA7(II7)

これはあまり他で見られないパターンではないでしょうか。

比較的シンプルな曲ですが、ヴァースの2つ目の謎コード(x42000 or 342000)やCのフォームをずらしたD(x54030)を経てそのまま上がっていく等「らしさ」が出ていて個人的に好きな曲です。

Say Yes (II-I)

この曲は私が初めて聴いたエリオットスミスの曲で、コーラス・ブリッジでの半音の動きの美しさに感動しました(その日20回以上リピートした)。この部分や、ブリッジでの効果的なノンダイアトニックコードに言及したいところなのですが、今回はIIに注目したいと思います。

ヴァースは王道の1音ずつ下がる進行なのですが、

G-G/F#-Em-D-C-G/B-A7 (I-I/VII-VIm-V-IV-I/III-II7)と、

II7まで下がったところでもう一度II7を弾いてそのままIに戻ってます。もしA7の後にD7が入っていたらものすごくベタです。

そして、曲の終わりはこのII7。この放り出されたかのような余韻が歌詞と相まって非常に効果的だと思います。

Division Day (VI-II-I)

IIからVを経ずにIへ向かう例をもう一つ。

ヴァース(0:07-)はD-G-Bm-E(I-V-VIm-II)を2回繰り返しますが、先述のSay Yes同様IIからIへ向かっています。

この曲の注目したいところは2回目(0:41-)以降のヴァース及び間奏です。

まずは1回目同様D-G-Bm-Eですが、

次はD-G-B-Eで、it makes it much harderのところ (0:54-)VIがメジャーになっています。

ここの対比がエモい。笑

VIはIIのドミナントでIから見ると「ドミナントのドミナントのドミナント」なので、少し意外性があります。

他の曲では、Speed Trialsの後半(2:13-と2:22-)にVIが見られます。

こちらはVI-IVと進みますし、違和感のあるVIが先に2回出て、後で普通のVImになりますが。

よくバラードの典型例としてIM7-VI7-II7-V7みたいなのはコード進行本に載ってたりしますが、そういう使い方ではないですよね。

(余談ですが、耳がマイナーを予想しているところにメジャーを持ってくるというのは、シューベルトの「野ばら」を思い出します。)

まとめ

彼の曲は難易度にばらつきがありますし、決して複雑さ・難しさを売りにしているのではないと思います。

独自の語法を持っているのですが、風変わりとは言えても、(ザッパに言われるような)変態的ではないでしょう。

また、美しい旋律があっても小ぎれいなホームミュージックではなく、歌詞も含めてrespectableではありません。

Either/Orの20th盤のライナーでニールガストが言っていたbeauty-in-the-uglinessという表現がやはりしっくりくるように思います。

現時点では初歩的なレベルでしか分析できていませんが、美しさの中にある小さな歪みのようなものを垣間見れたかもしれません。

調性の曖昧さや半音を含む洗練された和声等、これから理解を深めていきたいと思っています。(多分、かなりのスローペースで)

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