エリオットスミスの曖昧な調性①Condor Ave.
エリオットスミスの曲の調性は曖昧
エリオットスミスの曲の調性を判断しようとすると、決して難しいコードを使っている訳でもないのに迷ってしまうことが多々あります。
何も僕がdeaf and dumb and doneなだけ()という訳でもなく、エリオットスミスの曲は調性が曖昧なものが多く、このような論文も書かれています。
Tonal Pairing and the Relative-Key Paradox in the Music of Elliott Smith…まさにその罠にかかってしまったようです!
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ということで、今回はCondor Ave.という曲を取り上げて曖昧な調性感を詳しく見ていきます。
Condor Ave.の調性は?
Spotify APIではCondor Ave.のkeyはどうなっているでしょうか?
keyはC=0として半音上がる毎に数値が増え、modeは0がマイナーで1がメジャー。
では、key: 8 mode: 1ということはG#メジャー?
本当にそうでしょうか?
結論から言うと、僕は平行短調(臨時記号が同じ)のFマイナーだと思います。
なお、この曲は1フレットにカポをしているので、音の上ではFマイナーキーなのですが、ギターの押さえ方は半音下のEマイナーキーです。便宜上Eマイナーキーとして書いた方がギターを弾く方に分かりやすいので、以降この曲はEマイナーキー(平行調はGメジャー)として扱います。(尚、ライブでは1音下げチューニングの2フレットカポ=Eマイナーキーで弾いていたようです)
マイナーキーなのにトニックはメジャー
注釈の通りなのですが、ややこしくてすみません。
気を取り直して、この曲は一応Eマイナーキーということでお願い致します。
「一応」と書いたのは、「鳴ってる音はFマイナーキーだから」という以外にも訳があって、キーはEマイナーなのにトニックコードがEメジャーになっています。
じゃあ、Eメジャーでは??
それは、使用されている他のコードやメロディからNoだと言えるでしょう。
参考:EメジャーとEマイナーのダイアトニックコード
ヴァース
それを具体的に検証していきます。
イントロ及びヴァースのコード進行はこちら。赤字がEマイナーキーのコードですが、ご覧の通り真っ赤ですね。
メロディは、歌い出しが長3度のG#とメジャーキー固有の音(=マイナーキーにはない音)から始まる上に、そこから半音階的に上昇するのでトリッキーです。
しかし、2小節目の後半から3小節目にかけて(and she locked the car and slipped past, 0:23-0:26)短3度のG音の連打があり、Eマイナーを主張しているように聴こえます。
そして、4小節目の後半に曲中唯一の普通のトニックコード(Em7)が現れます。
6小節目の2つ目のコードはF#ですが、僕は知ったかぶりが大嫌いなので正直に言います。
全く意味がわかりません!笑
これも以前取り上げたII(メジャー)コードで、マイナーキーなのでIVではなくIVmに続いています。これは一体??
コーラス
やはりE以外はマイナーキーのコードが使われています。
メロディは同様にG#から始まりますが、G6へコードチェンジすると同時にGが現れEマイナースケール上に戻ります。
2小節目後半には、ギターにもAの7th=G=Eマイナーキーの短3度が現れます。
曲の終わりはこのコーラスを2回繰り返し、E(メジャー)コードで終止します。
ちなみにクラシックで短調の最後の主和音(トニックコード)だけがメジャーになるのをピカルディ終止と言いますが、これはあちこちに出てくるのでそう言って良いものか、、、笑
Spotify APIは間違い?
さて、Spotify APIを叩いて出てきたG#メジャー、すなわちカポタストを考慮するとGメジャーは間違いなのでしょうか?
これは難しいところです。
Eコードを本来マイナーになるはずのトニックコードをメジャー化したものと僕は解釈しましたが、GメジャーキーならばEはクロマティックミディアントになるし…
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でも、どう考えてもEに終止感があるので、僕は主音はE、使われているコードや音階から臨時記号は#1つと結論付け、イレギュラーなEマイナーキーの曲と判断しました。
ただ、終止感のあるE音でメロディーが切れる部分はCコードが来るし、どうもぼんやりした感じはします。ジャズのモード理論に精通している方ならもっと違った解釈が可能かもしれません。
結び
この曲は調性だけでなく、小節数もイレギュラーです。
なんとヴァースは6小節、コーラスは9小節です。
やっぱり一筋縄ではいきませんね。
そして、ライブMCによるとこの曲を作ったのは17歳だそうで早熟ぶりに驚かされます。(僕は昔ネットで誰かに13か14で作ったと吹き込まれたのですが笑)
エリオットスミスの調性をもっと理解したいので、論文を参考に別の曲も取り上げてみたいと思います。
間違ってるよ、というツッコミは大歓迎ですので遠慮なくお願い致します。笑