Some Songの転調について
今回はエリオット・スミスの楽曲「Some Song」を取り上げます。
「Rock Song」にしてはシニカルで醒めた雰囲気ですが、確かにパワーコードで8ビートを刻むシンプルな楽曲です。
その中にどのような工夫が凝らされているのかを分析してみました。
コード進行の概略
例外的な部分を除けば、
イントロ:トニックコードの繰り返し
ヴァース:サブドミナント→トニックの2コード
コーラス:王道のI-V-VIm-IV
と、ごく単純なイディオムが大半です。(「例外的な部分」はもちろん後で取り上げます)
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まず指摘したいのは、イントロ及びヴァースはGメジャーキーなのですが、コーラスは短3度上のBbメジャーキーとなっているという点です。
短3度転調について
短3度の関係にある調は、近すぎず遠すぎずなので、ベタでもなければ強引でもなく、ちょうどいい具合に意外性を演出できるの洗練された転調と言っていいでしょう。
例として代表的な曲を挙げるなら、ビートルズだとHere, There and Everywhereのコーラス(I want her everywhere~のところ)です。
ESの他の曲だとMiss Miseryでも聴くことができます。以前、Redditでも話題になったことがありました。
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例はこれぐらいにして、「Some Song」に戻りましょう。
コーラスの前後でどのように転調しているのかを検証していきます。
ヴァース→コーラスの移行部
では、まずヴァースからコーラスへの橋渡しとなる移行部を具体的に見ていきましょう。
C→Gの2コードを6回繰り返した後で現れるのは、
C→G→B→F
というコード進行です。
まず、C→Gはそれまでと同じですね。
一番最後のFはGメジャーキーで言うとbVIIですが、BbメジャーキーのVに読みかえて転調します。(この度数の読みかえは前述のHere, There...と同じ)
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さて、問題はBなのですが、
Gメジャーキーのクロマティックミディアント??
それにしても、B→Fは強引な進行だなぁ。。
とか考えていたのですが、理論どうこうよりもロックギタリスト的な発想だと思います。"This is a rock song."ですから笑
コーラス→ヴァースの移行部
次に、コーラスからヴァースへの帰り道も検証していきましょう。
Bb→F→Gm→Ebを3回繰り返した後は、シンプルにBb→F→GでGを伸ばしてヴァースの2コードのパターンに戻ります。
面白いのが、パワーコードは長短を決める3度の音が省かれているため、GmもGも同じ構成音になるというところです。(※)
つまり、
1. 響きの上だと、前2回同様BbメジャーキーのVImが来ているように聞こえる。
2. でも、実はBbメジャーキーで言うとVI、つまりメジャーコードである。
3. さらに元のGキーのトニックに読みかえられている。
こちらはパワーコードを活かしたトリックと言えるでしょう。
FをBbメジャーキーのVからGメジャーキーのVIIb(Vの代理)に読みかえたとも言えますが、まあ、"This is a rock song."なので。。
※ Gmを特定できるのはメロディ(Help me kill my time~ シbシbドレードレー)に短3度のシbが含まれているからです。
メモ
・チューニングは1音下げです。ピッチは標準より低め。
・イントロの長さはお好みで。末尾に2/4拍子が1小節入るように聴こえるバージョンもありますが、フェイドインのせいかも。
・内容にはあえて触れませんが、この曲の歌詞を口ずさんでいるとセラピー効果があるような気がします。笑