42日目 ぐっぐっから始めよう
朝9時から新長田の喫茶店で親子三代にわたるミシンの話をうかがった。ケミカルシューズの生産地である長田の地場産業を支えている産業用ミシンの販売と修理を請け負って60年。淡路島から出てきた会長が起こし、社長とその息子さんへ継がれている。同業者やメーカーが次々と廃業していくなか、長田だけでなく日本の縫製業になくてはならない存在になっているそうだ。
午後。旧グッゲンハイム邸でユブネの取材。長田の会社と違ってまだ5年の合同会社ユブネだが、5周年の区切りにライターの杉本恭子さん、フォトグラファーの坂下丈太郎さんにお願いして「ユブネを紹介する記事」をつくってもらうことにした。ユブネの二人をよく知ってくれているので安心して話ができる。秋晴れで天気もよいし、海も穏やかだ。取材中にグッゲンでピアノを習っている小学生がやってきた。レッスンの音が2階からもれてくる。ふいに山森さんの旦那さんのわーちゃんが自転車を押して庭を横切る。グッゲンの2階で清掃をしていたmannaさんが徳島の実家で採れたすだちをおすそわけしてくれる。
私が取材をすることはあっても、取材を受けることはめったにない。構えてしまってよそ行きの言葉が出がちになるところを、杉本さんと坂下さんが上手くほぐしてくれる。肩が痛い私の首筋を揉んでくれた杉本さん。親ゆびでぐっぐっ。整体から始まる取材。ぐっぐっ。ほぐされている私を写真に収める坂下さん。隣で笑いのとまらない山森さん。文字通り肩の力が抜けた。
ポートレートの撮影だと言うのに、どんな服装で撮るかなど一切話さないまま集合したのもユブネらしいと言えばらしい。昨日も会っているのに「明日どうする?」とうようなことを一言も交わしてない。山森さんは黒いシャツ、私は水色のTシャツ。季節感もばらばら。取材が終わると5丁目のユブネの事務所を案内しがてらぐねぐねした道を歩く。海には海苔養殖の筏が並んでいる。そういえば、長田の取材に同席していたデザイナーさんが、じつはユブネの事務所に3ヶ月だけ住んでいたことがあるという。
朝、自分でお茶を入れた水筒をトートバッグから出そうとして、持っていないことに気が付いた。あれ?どこかに忘れてきたのかも知れない?持ってきたのかもどうかも曖昧だ。困ったな。ちなみに水筒のメーカーは山森さんも私も、たまたま「TIGER」である。どうか自宅に忘れていますようにと願った。
20231017