ママにはいつも恋人がいた-シングルマザーの娘独白
ママは私を産んだ産婦人科から退院したその足で、私のお父さんと別居して、そのまま離婚した。
離婚の原因はお父さんの浮気だってママはずっと私に説明してきたけど、最近、それはきっかけに過ぎないって話をしてくれた。
お父さんの家族との同居がとても嫌だったこと。
その気持ちを全然わかってくれないお父さんを、だんだん嫌いになったこと。
そうして。
お父さんが他の女性と車に乗ってるのを見て「浮気」だって決めつけたけど、本当は仕事かなにかで移動してただけで浮気じゃなかったかもしれないこと。
それでもいいから別れたかったこと。
私はお父さんのことをもちろん覚えていないし、会いたいと思ったこともない。
ママは私のことを愛してくれたし、ふたりで暮らすのは楽しかったから、それで幸せだった。
でも。
ママには、いつも恋人がいた。
小さい頃から当たり前だと思ってた。
知らないおじさんが家に来てごはんを食べたりすることや、お出かけの時には知らないおじさんが一緒にくることが。
でも、小学生になってしばらくすると、それは当たり前じゃないってことが、だんだんわかってきた。
友だちの家にはお父さんがいて、うちにはいない。
お父さんに会いたいと思ったことはないけど、家にお父さんがいたら、知らないおじさんは来ないんだろうなって羨ましかった。
知らないおじさんが勝手にテレビのチャンネルをかえたり、知らないおじさんがママの作ったごはんを全部食べちゃったり、知らないおじさんが私のすることに口を出したりすることが、だんだん嫌になった。
ママには何度も「嫌だ」って言ったけど、私がまだ小さかったせいか、ママはそれでも、知らないおじさんをうちに連れてきた。
もちろん、嫌なことばっかりじゃなかったよ?
何人かのおじさんの中には仲良くなった人もいた。
優しい人もカッコいい人もいたしね。
でも、せっかく仲良くなったのに、いつの間にか家に来なくなったりするのは寂しかったな。
だからね。
さくらさんみたいに、子どもが嫌だって言ったら、ちゃんとその通りにしてくれるお母さんって存在するのかって、びっくりした。
「恋人を作るのは良いけど家には連れてこないで」って子どもたちが言ったから、連れてこないんでしょ?
私、ママのことは大好きだし、今でもすごく仲良しだけど…。
でも、ママが、さくらさんみたいに子どもの気持ちを優先してくれるお母さんだったら良かったな。
ホントに嫌だったなあ…。
ずっとママとふたりが良かったのにな…。
そう言いながら涙ぐむ彼女を見て、私もいつの間にか泣いていた。
そうして私は。
「辛かったね」
と言葉にして、そっと彼女を抱きしめた。
私の腕のなかで、彼女は静かに泣いていた。