秋の夜道を経て彼のもとへ-中高年の恋愛とキンモクセイ
秋が来て。
夜が来るのが早くなった。
週末。
彼の家へと歩いて向かう。
いつもだいたい、同じ時間。
でも。
初夏にはまだ夕焼け空だったのに。
いまはもう真っ暗だ。
早く彼に会いたい。
暗い道を早足で進む。
どこからかキンモクセイの匂いがする。
ふと、思い出す。
去年の今頃も、キンモクセイの香りを感じながら、彼の家に向かって歩いていたことを。
同じ季節を同じように過ごす。
その、なんて穏やかなことか。
何回かのキンモクセイを通りすぎて。
彼の家にたどり着く。
「去年の今頃もキンモクセイの香りを感じながら、ここまで歩いてきていたことを思い出したよ。こうやっていつまでも同じ季節を同じように過ごして行けたら良いなぁ」
彼にいま感じたことを、そのまま話す。
すると彼が言った。
「ずっと、は、続かないんじゃない?」
え?
「どうして?」
にこにこしながら美味しそうにビールを飲むと彼は言った。
「だって、一緒に暮らすんでしょう?だからこの道のりを歩くことも、なくなるかもしれないね。」
迷いがちな私の行く末を照らしてくれる彼の言葉。
そのお陰で私は行く先を見失わずに進めている。
いつも、ありがとう。
同じ場所に辿り着こうね。
いつか。
同じ家に帰ろうね。